4話
ふと、玲奈の頭に記憶が舞い戻る。
(そうだこれ、夢で聞いた話)
「しかし、生まれて間もない子を牢に入れて、後はそこで死を待つだけとはあまりに惨い。そなたの祖父の訴えを聞き入れ、時が来るまで、異界にて安息の時間を与えることとなった」
そうだ。これも夢で言っていた通り。
「そして今。その時が来て、そなたは呼び戻された。これから牢に入れ、一年後、刑を執行する」
「……信じられないです。悪い夢を見てる」
それは、玲奈の本心から、素直に発せられた言葉だった。
「そう思ったままの方が、幸せかもしれぬ」
「……陛下。これ以上は、話すほど、彼女に辛いことになります」
やっと口を開いた老年の女性が、訴えた。
「母上、俺が面倒みますから辛いことなんてないですって。ね、一年牢屋に入ってるだけじゃつまんないでしょ。仲良くしようよ」
アデルが玲奈を見て口角を上げた。母と呼んだので、女性は見たて通り、女王のようだと玲奈は理解する。
「貴様正気か? 罪人と戯れなど王族の恥だ」
ロアンはアデルへ侮蔑の視線を向けた。
「まだ、罪人じゃないでしょ。罪人になるって告げが出たからその前に殺すってことじゃん。このまま死を待つだけとか可哀想だと思わない?」
「それがこの女の持って産まれた性だ。哀れみなどない」
「はー、ほんっと兄貴とは話合わないねぇ」
「そればかりは同感だ」
どうやら兄弟仲は良くないようだ。
玲奈はそのやり取りを、映画のワンシーンを見ているように、ぼんやりと追った。
(夢だよね……? どうなってるの……)
実際に、自分の身に起きていることとは思えない。現実感がなく、膜を張ったようにおぼろげだ。
玲奈が意識を飛ばしている内に、話は終わったようで、衛兵が近寄ってきて、柱にくくりつけていた縄を解いた。
「刑を下す前に、身を清める儀式が行われる。全ての行程を終わらせた後、斬首台にて死刑となる。それまで、牢で自分の心と向き合いなさい」
「……」
なんと返せばいいかも分からなく、玲奈はただ、王を見つめた。横からアデルが割って入ってくる。
「遊びにいくねー」
ひらひらと手を振るアデルに、ロアンはもう諦めたというようにため息をつくのみだった。
ガチャン、と牢の鍵がかかる。玲奈は座り込み、膝に顔を埋めた。
(家に帰りたい……夢なら、早く覚めて)
いくら願っても、意識はここにあるまま。
(もし……もし、これが現実だとしたら。私はどうしたらいいんだろう)
自分に、国を滅ぼすという予言が出たらしい。異界――玲奈にとっての故郷に飛ばされて、また戻された。殺されることが決まっている。今は暫しの猶予期間。
目を閉じて、ぐるぐると考える。何度か深呼吸して、やがて玲奈は顔を上げ、小さくつぶやいた。
「……帰りたい」
そう、帰りたい。もしも、夢じゃないとしたら、日本からここへ連れてこられたのだとしたら、向こうへ帰りたい。お母さんとお父さんに会って、怖かったって甘えて、慰めてもらう。麻友子に話して、変な夢と笑い飛ばしてもらう。好きな漫画を読んで、お気に入りの音楽を聞いて、癒やされる。ささやかな幸福を取り戻したい。
それにはどうすればいいか。
夢の続きを思い起こす。
(時を戻す力……)
きっとあの赤子が玲奈で、メイリと呼ばれた女性は母親なのだろう。あれは、実際にあったこと。
昔の記憶……。
ならば。
玲奈は、時を戻す力を持っているということ。やり方は言ってなかった。分からないが、今できること。目を瞑って、念じた。
――時を戻して!
ぶわりと浮遊感に包まれた。




