38話
ミトラは意識を今に戻すと、玲奈に向け張り切ってみせた。
「でも、あなたを助けたいって気持ちは、誰よりもあるから! 私、頑張るわ!」
「うん……ありがとう?」
「導士にはなれなかったけど、魔石の扱いなら私も教えられる! ヤザン、少し口出ししても?」
「勿論です。どうにかしてやってください」
「よし!」
ミトラが手解きしてくれるようだ。ヤザンより優しいであろうと、期待が膨らんだ。
「レナ、もう一回!」
「ひぇ……ミトラ、休ませて……」
「今が頑張り時よ! ほら立って!」
ミトラはヤザンに負けず劣らずのスパルタっぷりだった。
「でも……もう手足ピリピリしててぇ……」
「神経痛は痛いうちに動かして慣れた方がいいのよ」
「ぅっ、ヤザンと同じこと言う……」
玲奈の奮闘は夜まで続いた。
夕食はサディとミトラと、三人でとることになった。二人はかなり気安い仲のようだ。当初、ミトラはサディのことを敬称をつけて呼んでいたが、それは玲奈の手前、畏まっていたらしく、今は気にしなくなったようで、呼び捨てで呼びあっている。
「ミトラって、王太子妃になるの?」
「まあ、肩書はそうなるわね」
「めっちゃ偉い人じゃん。王宮でも敬われまくり?」
「ううん、そうでもないよ。まだ子供もいないし、殿下の一側室とそんなに扱いは変わらない」
「ええ、マジ? ……ていうか側室とかいるの?」
「もちろん、一国の王子ですもの。殿下のハレムには姫君がたくさん」
「へぇ〜、ちょっと見てみたいかも」
アニメやドラマの、綺羅びやかなハーレムを思い浮かべる。が、複雑そうなミトラの顔にぎくりと固まった。
「……ごめん。気分のいいもんじゃないよね」
「王子にとっては当たり前だし、割り切ってたんだけど……殿下は、私の寝所には来ず、ハレムにばかりお渡りになるの。最近ちょっとまいってきちゃって」
「来ないって、全然?」
「嫁いですぐに一度だけ。その後はぱったりとない」
寝所、などというワードに玲奈は内心ドギマギしているのだが、ミトラがなんともない様子で話すので、その動揺は隠す。この辺りは文化が違うのだと思い知る。
「当然、王宮内でもその話は広まって、私が通るたび、侍女たちに殿下との不仲をヒソヒソ噂されて」
「それは辛いね……」
「その上、父まで殿下との仲に口出してくる始末」
「うわあ、最悪」
「でしょ!」
落ち込んでいたミトラは途中から怒りに燃え始めた。
「何か粗相したんじゃないか、これから巻き返せ、いかに殿下の機嫌を取るか、お前次第で一族の今後が云々……顔を合わせるたびそればっかりよ! もう限界!」
「うんうん」
「殿下の意に添わないことは今している真っ最中ですが何か!?」
「かなり溜まってたんだね……」
ミトラが不満をぶち撒けている中、サディは多くを語らず、静かに酒を煽るだけだった。
「ミトラっていつまで居られるの?」
「王宮を開けられるのは長くて五日。明日には帰らないと」
「そっか……」
「また会いに来る」
「……うん」
彼女はこの世界で初めてできた、同性の友達で、血の繋がった親戚。帰ってしまうことに、玲奈は寂しさを隠せなかった。
「私がいられるうちに、魔力の成形をマスターしましょ!」
情熱の向く先はそこなのか、と思うも、頷くだけに留めておいた。
「なんでうまくいかないかなー」
「レナ、血管と一口に言っても、場所によって太さが違うのは感じられる?」
「うん、なんとなく?」
「私の場合は、血管が太くて、血液が多く通ってることころが魔力を混入しやすい気がするの」
「太いところか……」
アドバイスを聞いて、血管の太さを意識してみる。ドクドクと、多く血液が通っているところを探す。そこへ向けて、魔力を注入するイメージを浮かべる。
(注射してるみたい……)
病院で注射器を持った看護師さんが血脈を探してる画が浮かんだ。そしてふと思い当たる。
(注射って、あんまり垂直に打ってない。肌に対して斜めになってるような)
そのイメージを真似するように、魔力を血管の流れと沿わせて平行に寝かせる。そして、そのまま、ブスッと……
「あ、できたかも」
「えっ!? ほんとう!?」
「うん、血と混ざった気がする」
「おーっ、すげえじゃん! おめでとう! なんでそんなあっさりしてんの?」
護衛を兼ねて見学していたシャロフは、飛び跳ねて喜んでくれた。自分より冷静な玲奈に突っ込みを入れる。
「いや、なんか……急にできて拍子抜けしちゃったかも」
これまで、魔力を血管に垂直に立たせ、神経を研ぎ澄ませて集中していたというのに、それがよくなかったのか。角度を変えて力を抜いたらあっさりとできてしまった。これまでの頑張りの方向が間違っていたようで、遠回りした気分だ。脱力していると、ヤザンに頭を小突かれた。
「できたなら文句ない。よく頑張ったな」
「……なんか、ヤザンに褒められたら実感湧いてきたかも。やった……」
「ふふ、ずっと見てもらってたんだものね。ヤザンの言葉が一番か」
その言葉に異論はなく、頷いてヤザンを見上げると、彼はどことなく、気恥ずかしそうにしていた。
「これで魔術が使えるの?」
「ああ、体を活性化させる躯術はそれでできる。成形した魔力を、試しに足から放出してみろ」
「うん」
足に魔力を溜め、血液へ注入する。脹脛が、カッと熱くなった。
「っ!」
「跳ねてみろ」
軽く力を入れて、上へ跳躍する。いつもなら、数十センチ、上がるだけのはず――
「わーーっ!!?」
「上出来だ」
手が天井に届くほど、玲奈の体は高く飛び跳ねていた。着地してヤザンを見れば、満足げな笑みを浮かべている。着地すると、自然と、ハイタッチを交わした。




