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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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37話

 背中をさすると、ミトラは玲奈の肩に頭を寄せた。彼女に寄り添いたいと、辛いことがないようにと、そう願う気持ちが自然と湧いてくる。親戚だからだろうか。


「ごめんなさい、私のほうが慰めてもらっちゃってるね」

「ううん」

「サディ殿下に比べると頼りないと思うけど、でもあなたのこと、本当に助けたいと思ってるの」

「うん、伝わったよ」

「……よかった」


 ロアンの妻でありながら、夫を裏切る行為に手を染める。プレッシャーはかなりのものだろう。


「ロアンって、どんな人なの?」

「殿下は……厳しい方よ。他人にも、自分にも。そして用心深い。あの方の目を掻い潜るのは骨が折れるでしょうね」

「……あの、なんで結婚したの?」


 ミトラの言い方は、とても愛する家族へ向けたものとは思えなかった。


「父は有力貴族の出で、陛下とも古くから親交があるの。私の他にも何人かそういった王太子妃候補はいらっしゃったけど、最後は殿下がお選びになったのよ。私も嫁いだとき、何故私なのか聞いたんだけど、一番条件が良かったからですって」

「うわ……あ、ごめん」

「ふふ、正直ね。でも、私も同じように思ったわ」

「……今は仲良くやってるの?」 

「あの方にそういった馴れ合いを期待するのは無駄とすぐに悟ったわ」

「そっか……寂しいね」

「……ううん、ありがとう。心配してくれて」


 夫婦仲は良くないらしい。ただ、その事をミトラは辛そうに語っている。きっと、妻として、夫を愛したい気持ちもあるのではないだろうか。そう考えると、別の心配ごとも湧いてしまった。


「あなた……ロアンを、本当に裏切れるの?」

「……もう、裏切ってるわ」

「……」

「大丈夫よ。覚悟を決めてここにいる」

「そう……なら、もう何も言わない」


 ミトラが「他に聞きたいことは」と促すので、考える。


「えっと、なんでサディと協力することに?」

「元々、昔から彼をよく知ってるの。母同士が仲よくて」

「そういえば弟さんも知ってるって言ってたね」

「そう。サディ殿下には、母の事情も相談してたから……一年前、ロアンと結婚する直前に、レナのことで声をかけられた。そこで彼の計画を聞いて、協力を打診されたの」

「弟さんも?」

「ううん、弟には詳しくは言ってない。話したら協力してくれると思うけど」

「今日はなんて言って来たの?」 

「今日に限らず、実家に帰ってるふりをして、こっそり外に遊びに行ってるの。ロアン殿下の宮は息がつまってしまって。弟は理解してくれて、いつも協力してくれてる」

「いい弟さんだね」

「本当に。感謝してもしきれない……レナは向こうの世界にご兄弟は?」

「私も弟がいるよ」

「わ、一緒! いくつ下?」

「一歳差」

「えっ! うちも一個下なのよ!」

「ほんと? お揃いじゃん!」

「ね!」


 同じで嬉しくなるのは女子の性なのだろうか。キャッキャと騒ぎながら、自分の弟を思い浮かべた。


(あいつはミトラのとこみたいに、素直に私の協力なんてしないだろうなあ……)


 そう思いつつも、弟との気の置けない関係が、恋しくなる。


「……寂しいわよね」

「……うん」

「当たり前だわ。急に家族と引き離されて、一人違う世界に来るなんて……」

「うん……」

「あなたさえよければ、私のこと、姉妹(きょうだい)と思って甘えてほしい」

「ミトラ……」


 肩を抱き寄せられた。最初は強張っていたが、徐々に玲奈の身体から、力が抜けていく。


(……そうだ。見覚えがあると思ったら)


 ミトラには、記憶で垣間見た、母の面影を感じた。



 * * *



「ンンンンン……! でき……、ない!!」

「威張って言うな」


 ミトラが来ていても、魔術の訓練が休みになることはなかった。どころか、彼女も玲奈の奮闘ぶりを間近で観察し応援している。王太子妃相手となればヤザンの猫かぶりが見えるのではと期待したのだが、二人は顔見知りのようで、ヤザンは多少かしこまりながらも、いつも通りの態度だった。つくづく、つまらない男だ。


「魔力の成形は最初の難関て言われてるもの。レナは十分頑張ってるわ」

「やっぱり? 私頑張ってるよね!」

「うんうん」

「レナが壁に当たってるのは初めてじゃないだろ」

「ミトラも魔術が使えるの?」

「人並みには、ね」

「うん?」


 ヤザンの嫌味は華麗にスルーしたが、どこか気落ちしたようなミトラの表情はスルーできない。


「……導士は血統だと聞いただろう」

「? うん……、あ、そっか」


 祖父も母も、導士だ。ミトラの母やミトラ自身も、導士の才を持っているということになる。しかし、先ほどの答えから、ミトラは導士ではないことが窺える。


「母は叔母様と同じく、導士として神殿で仕えてた。叔母様ほど優秀ではなく、結婚したら神殿を出されたけど」

「結婚しても神殿に残る人と、そうでない人がいる?」

「そう。優秀な導士は神殿に残り、不要とみなされれば、男女関係なく、結婚を期に外に出される。結婚相手も神殿が決めるの」

「外に出た導士は、導士じゃなくなっちゃうの?」

「ううん。外に出てからも、度々神殿に出向いて導士としての務めを果たす。そして、子が産まれれば魔術を継承する。導士の血が入ってる限り、どの子にも導士になれる素質はある……だけど、私は初歩の魔術がやっとで……神殿には入れなかった」

「……入りたかったの?」

「そうすれば、もっとレナの役に立てたもの」


 ミトラは目を閉じて思い出す。泣いて母に縋り付く幼い頃の、遠い記憶。


「ううっ……お母さん、ごめんなさい」

「何を謝ることがあるの? ミトラは一生懸命頑張ったよ」

「だってぇ……ぜんぜん魔術できない……っ、ミトラ、神殿行けない……っ」

「皆が行く必要ないのよ。優秀な人は才能を持って産まれてくる……努力しても、どうしようもない世界だし、羨むことも、卑屈になる必要もない」

「でもっ、お母さんはミトラに神殿に行ってほしかったでしょ……?」

「ええ? お母さんそんなこと言ったっけ?」

「だって、神殿に入ったら、おば様の子を、助けられる……」

「確かに、神殿にいればできることはあるでしょう。でも一番大切なのは、ミトラが、あの子を助けたいって、そう思う気持ち」

「気持ち……それだけ?」

「そう。その気持ちを、忘れないでね」


 それは今もなお、ミトラの胸に、強く焼き付いている光景だった。

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