33話
「これが建国神話」
「……破滅の大悪女」
「そう、だからこの話はきみに関係大有りなんだ。レナに下った宣告は、『破滅の子』。楽園――つまり、この地上を壊滅状態にした、大悪女の先祖返りがきみだというお告げだ」
「……でも、神話なんでしょ。神様って伝説じゃないの?」
「きみの世界ではそうなのかな? ここでは違う。神は、かつてこの世界を作った実存在だ」
「そう、なんだ……サディは、私がその破滅の子だと、信じてるの?」
「宣告は絶対だ。きみは大悪女の先祖返り。この国を滅ぼすことになる」
「……そう」
(破滅の『子』……幼い子供という年齢のことじゃなくて、神の血を引いた子供って意味なのね)
頭の中で、どす黒い紫色の髪に真っ赤な唇の、敵の魔女をイメージした。その女は赤い目を吊り上げて破壊を尽くし、暴れ回って人を殺す。
(その先祖返りって……そりゃ死刑にするか)
ここでは神話はかつての歴史として信じられ、語り継がれているという。考えれば魔術が使える世界だ。玲奈からすれば非現実的なことでも、価値観が違うだろう。最初は面くらい、ショックもあったが、少し時間を置けば落ち着いた。
(サディは元々、私が国を滅ぼすって言ってたし)
サディはだからこそ、玲奈を助けた。そして、国を滅ぼす道が、玲奈が唯一帰れる方法だと。サディの顔を見れば、揺らぐことのない、強い眼差しをしていた。
「ごめん。ちょっとびっくりしたけど、大丈夫」
「受け入れられた?」
「うん……ていうか、結構エグい話だね……本当に全部実話なの?」
「いや、いくらかは創作が入ってるとされてる。神話は紙に残ってなく、口承で伝えられてきた。存在しない神を付け加えたり、話を盛ったり。国内の各地で微妙に内容が違う部分もある。でも、破滅の大悪女は実在した。これは確かだ」
「そうなんだ……ご先祖がアレだと、王族へのイメージも悪くならないの?」
「ううん。むしろ、実の親がめちゃくちゃにした土地を復興させ、実りある大地にしたとして、初代王は英雄視されてるんだよ」
「へぇ……」
「まあ、最近は徴税が増して、王族への信頼も揺らいできてるけど」
「そこが狙い目って考えてるんだよね」
「そう」
サディはパチンと長い指を鳴らす。
「既に、反政府側の市民たちには、破滅の子を祀って権力者の一掃、国の再構築を謳おうとしている者たちがいる。玲奈の存在が広く知られれば、絵空事にとどまっていたそれは、現実のものとして一気に勢いを増す」
神話が現在に繋がって、思わずブルリと身震いした。
神話をゆっくり思い返している内、引っかかることが出てくる。王族は女神の子孫で、玲奈は女神の血を引く先祖返り。
「え!? 私、王族と血が繋がってるってこと?」
「系譜を辿れば繋がってるね。ただ、今の王は十五世。レナは先祖返りで相当濃く血が出てるはずだけど、王族側がかなり薄まってるからね。俺たちとの血の繋がりはあんまないんじゃないかな」
「そっか」
少し残念なような、むしろ安堵したような。不思議な感覚にみまわれた。
「きみの血はむしろ、貴類と近いはず」
「え?」
「貴類の寿命は人の五倍から十倍。代替わりは数えるほどだ」
「貴類と……近いとなんか良いことある? ありそうじゃない!?」
「どうかな……利用できそうな気もするけど、彼らはこの国では宣告をする以外、人と積極的に関わらないから」
「この国? 他の国にもいるの?」
「ああ。貴類は元は冥界に棲み着いていたが、楽園、つまりこの地上が豊かになっていくにつれ、一部は地上に降りてきて、今は各国に散在している。ほとんど人前に姿を見せないから、分からないことの方が多いけど」
「そっか、貴類と接触できるのは導士だけなんだっけ」
「んー、接触っていっても、導士から近づくことはできないよ。貴類の気まぐれ次第さ。外国じゃ貴類と導士の関係も、こことはまた違うらしいけど」
「へぇ……」
「どう? 好奇心は満たされたかな」
「うん……気軽に首突っ込んだら、自分と因縁深くて疲れちゃった」
「アハハ。でも、その内話そうと思ってたことだ。まだ知らないことばかりのはずだ。レナはこの国の歴史と現状を少しずつ知っていって」
すぐに頷いた。無知であることは弱点だ。それがいつの日か、玲奈の命運を分けることになるかもしれない。




