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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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32/49

32話

「次は集中させた魔力の成形だ。今、魔力はどんな形態をしている」

「形は……ない。輪郭がなくて靄みたいに脹脛でふわふわしてる」

「その淡い状態の魔力を、強化したい部位へ固めて射出する」

「固める?」

「血と混ぜるんだ」


 血というワードに顔を顰める。スプラッタは苦手だ。


「魔力は体内に入ると、神経の周りを回遊している。それを血管へ押し込んで血と合わせることで実体を造り、体の各部位を強化する。血の巡りは感じられるか」

「うん」

「集めた魔力を血流に合流させろ」


 脹脛に、血がドクドクと通っている。魔力を集めたそこは、感覚が鋭敏になっていて、手に取るように分かった。魔力を血管の中に押し込もうと意識すると、意思に従順に管の周りへ移動した。が、中に入る気配はなく、するんと管の周りを取り囲むだけに留まっている。


「入らないんですけど……」

「鍛錬あるのみ」

「は〜、だよね……なんかコツないの?」

「既に分かっているだろうが、魔力の扱いは非常に感覚的なものだ。いくら言葉を尽くしても、手足を使い矯正できるものではない」

「はぁ~い、身に沁みてますぅ……」


 言葉尻が緩いのは、集中力が完全に切れたからだ。ヤザンも理解したようで、結局、すぐに休憩だと伝えられた。



 

 今日は朝にはもういなかったサディだが、夕食は一緒に取れることになり、ルンルンと跳ねぎみの足でサディのところへ向かう。


「やあレナ」

「サディ!」


 頻繁に食事を共にするようになっても、毎回嬉しいのだから、サディの魅力は凄まじい。


「いただきます!」

「はい、どうぞ」


 サディの所作はとても美しい。パンを口に運ぶ姿も、葡萄酒を喉へ流す姿も、洗練されており彼が高貴な人間であることをひしひしと感じる。玲奈が同じようにしても、こうは見えるまい。


(顔が美しいのはお得だよなー……しかしかっこいい……)


「ん?」

「?」

「俺の顔になんかついてる?」

「あっごめん! ジロジロと!」

「見てた自覚はあるんだ」

「すいません……」

「いいけどね」


 クツクツ笑う顔もまた、彼の魅力を高める。気がつくと、時間を忘れてぽーっと見つめてしまう。だってこんなに美しい人に、出会ったことがない。ブロンドの髪も、金の瞳も、すっと通った鼻筋も、何もかも。


 玲奈は着実に、サディに惹かれていることを自覚しつつあった。しょうがないと開き直りつつある。こんな格好良い人に、初めて出会った。その人が、窮地の自分を王子様のように(実際、王子だが)助けてくれて。


「人間じゃないみたい……」

「へ?」

「ぁ、いや、サディみたいに格好いい人見たことなかったから」

「容姿を褒められることはまあ多いけど、人間じゃないは言われた覚えがないかも」

「嘘! 神様みたいとか言われないの?」

「神様? 言われたことないよ」


 サディはアッハッハと口を空けて豪快に笑った。そんなに面白いこと言っただろうか。


「この国では神に良い印象を持ってる人間は少ないからなあ」

「そうなの? 無神教ってこと?」

「いや。建国神話ではかつて多くの神々が存在したとされていて、その内の一人が王族の祖先とされている」

「祖先? 王族は神様の血を引いてるの?」

「そう。で、その一番有名なご先祖の神様がかなり悪名高いんだ。だから神の存在は、半面教師的に語られることが多い」

「その建国神話気になる! 詳しく聞きたい!」

「いいよ。もともと、その内話そうかとって思ってたんだ」

 

 勉強はできる方だが、楽しさは感じない。けど、歴史や古典の授業で時々出てくる神話の伝承は、玲奈としては珍しく、前のめりになって聞いていた。ロマンを感じられて好きなのだ。わくわくを隠しきれず、ここでも前のめりになった。



 遠い昔。この世はかつて、上に天界、下に冥界、間の楽園の三つに分かたれていた。天界には神が、冥界には動物が、楽園には人が住んでいた。


 神は、人よりも上位の存在であった。彼らを見守り、教え導いていた。


 大司神(だいししん)・ハンダルの子供たちの一人に、ラプラトという女神がいた。彼女は、『破滅の大悪女』と呼ばれ知られていた。


 酷く怒りっぽく、思い通りにいかないことがあると、周りの物を壊して痛めつけ、衝動を発散していたのだ。それは時に楽園へも及び、洪水を起こしたり、噴火を起こしたりして楽園を滅茶苦茶にしてしまった。そこで慎ましく暮らしていた人々の、多くが犠牲になった。


 彼女の行為を見過ごせなくなった神々は、ラプラトの父・ハンダルに、彼女を懲らしめるように頼んだ。ハンダルは、ラプラトを冥界送りにすることにした。


 ラプラトは、口うるさく言ってくる神がいないので、冥界の暮らしを気に入った。戯れに動物たちとまぐわい、子を産んだ。しかし、そこでも怒りっぽい性格は治らず、ラプラトは度々楽園を荒らした。


 ハンダルは、次にラプラトを楽園へ送った。人との触れ合いで、改心することを期待したのだ。しかし、楽園送りを屈辱と捉えたラプラトは、力の限り、楽園を荒れ果てさせ、人間は殆どが死んだ。ラプラトは残った人間ともまぐわって、楽園は狂乱状態だった。


 これには神々たちも堪忍袋の緒が切れた。ハンダルはラプラトを天界へ呼び付けると、和解するふりをして、油断を誘った。ラプラトの隙をついて、母のユマネノスが、ハンダルの影から飛び出し、ラプラトの胸をナイフで突き刺した。


 ラプラトは父母を激しく憎み、死ぬ直前に両親へ返り血の呪いをかけた。ラプラトが死んだ直後、ハンダルもユマネノスも、もがき苦しみ、死に絶えてしまった。


 その後。

 冥界で産んだ動物との子は、神の力を受け継ぎ、貴類となった。楽園で産んだ人との子は、荒廃した楽園を再び豊かにし、スラジ国の初代王となった。



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