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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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31話

「んー、おいしー!」

「よかった」


 にこにこと止まらない笑みをなんとか抑えながらご飯を食べ進める。食事はいつも美味しいが、サディが一緒とあっては、普段よりメインがいくつか増えて豪華だ。


「……レナ」

「んー?」

「もしかして、寂しかった?」

「……」

「ずっと一人でご飯食べてたんだろ。ヤザンはその辺融通効かないからさあ」

「……実は」

「だよねぇ。俺が言っときゃよかったかな。悪いことしたね」

「ううん」


 最初の頃はともかく、近頃は距離は縮まっていたし、一緒に食べたいと言おうと思えば、言えた。


 でも、言わなかった。少し離れて立つヤザンを視界に入れながら食事するのに慣れてしまったという理由もある。でも、一番は別。


「ヤザンが守ってくれてること、心地良いって感じるんだよね。食事って気が抜けるじゃない? でも、ヤザンが側に立って護ってくれるから、大丈夫だなって安心できるというか」

「ブフッ」

「えっ、笑うとこだった?」

「いやごめん、あいつどんな気持ちで聞いてるかと思ったら、つい」

「へ!? 今の聞こえてるの!?」

「そりゃ護衛だもん。声も姿も認識できるとこで控えてるよ」


 頬に急激に体温が集まる。姿が見えないので油断していた。ヤザンに限らず、この屋敷の住人は音もなく現れるスキルがある。つまり見えなくても近くにいる。

 

「ひぇっ……さっきのなし! 忘れて!」

「え、それヤザンに言ってるの?」


 虚空に喋りかけると、笑いを耐えようとするも全く耐えられていないサディに突っ込まれた。確かにおかしな構図になっていただろうが、羞恥でそれどころではない。


 赤く唸る玲奈を尻目に、サディは何でもない風に話題を変えた。


「そういえば、昨日、エゼルと話したんだけど」

「うん?」


 僅かばかりの邂逅だったが、玲奈の大きな助けになってくれたエゼルがどうしたのだろう。すっかり気を緩めていた玲奈は、続く言葉にドッと心臓を跳ねさせることになる。


「てっきり、レナは自分がなんでこの国に呼ばれたかとか、宣告のこととか、エゼルに聞いたんだと思ってたんだよ。俺は教える時間無く別れちゃったからね。でも、エゼルは何も言ってない、自分の立場は知っていたようだった。てっきり、俺が教えたものだと思ってた、って……さて、どういうことかな?」


 玲奈は、びしりと固まった。


(そっか、サディに私が破滅の子だって、教えてもらってない……)


 初めて出会ったときは、逃げ道を教えてくれただけだ。エゼルからしたら、自分の境遇を理解しているような素振りの玲奈を見て、サディがそれを伝えたと思うのは自然だ。


 玲奈は絞り出すように引きつりながら言葉を発する。


「一緒に逃げてくれた男の子が、事情を知ってて……多分、そうだって」

「街でぱったり会った少年が? すごい偶然だね」


(それは本当だもん。トキは破滅の子のことを知ってたし……私がそうだって見抜く力なんてそりゃ、ないけど)


「変わった服着てたからそうかもしれないって言われて、私も……そうかなって」

「へぇ……ふぅん……」


 サディは興味深そうに玲奈を見つめ、じっくりと、愉し気に顔を覗き込んだ。


(ぎゃっ! 近いっ!)


 そんな場合ではないが、その顔の綺麗さに、玲奈はどぎまぎする。サディは耳元で、息を吹きかけるように囁いた。


「何を隠してるのかな……気になっちゃうね……」

「ぅっ……」

「あっはっは! レナって、隠し事へたなんだな」

「…………」


 反論も誤魔化しもできず、玲奈はただ自分のできる精一杯の無表情を貫いた。


(駄目だ、何言ってもぼろがでる)


 一しきり笑ったサディは、息を落ち着けると立ち上がり、「まあいいさ」と距離を取った。


「え?」

「俺だって秘密くらいあるし。無理やり暴こうとは思わないよ」

「サディ……」

「ま、とはいえ気になるし、喋ってくれる気になったら大歓迎」


 そう言って、玲奈にウィンクしてみせた。


(ほんとに、いい人……)


 サディは、穏やかに続けた。


「ふ、久々によく笑ったな」

「え?」


 明るく柔和にみえるサディからその言葉が出るのは、意外だった。


「普段顔を合わせるのは、部下と優しい優しい、お兄様ぐらいだからね」

「そうなの? 友達とかは?」

「立場が立場だ。中々難しいんだよ……そうだ、レナがなってくれる?」

「え」

「俺が屋敷にいるときは、一緒にこうやってご飯食べようよ」

「……そりゃ、私は嬉しいけど、でも、サディは忙しいんだし」

「まあ忙しいけど、食時くらい気晴らししたいよ」

「だから、それこそ私といたら邪魔になるじゃん」

「なんで? レナと喋ってるの、凄く楽しいよ」

「ぇ……」

「ヤザンだけじゃなく、俺とも仲良くしてよ」


 返事はできなかった。頷くのが精一杯。蜜を溶かしたような金の瞳に見つめられて、そのまま、あの中に吸い込まれるかと思った。

 

 今日の気温は高いのだろうか。林檎のような色づきは、食事の間、消えることはなかった。




「二人で喋るのは始めてだな!」

「うん。ヤザンはちゃんと寝た?」

「ン、しっかり休んでるから安心しろ。で、ヤザンから魔術を習ってんだよな」

「うん……魔力を一点で留めるってのが、中々できないんだけど」

「あー……」


 シャロフとは、話し始めてすぐ打ち解けられた。茶髪で、額を出しているのが幼げに見える。背丈は玲奈より十cmは高いのだが、ヤザンとの身長差に慣れたあとだとずいぶん近く感じる。


「なんつーか……ガッ! て止めるんじゃなくて、スッ、て感じでやんだよ」

「……全然わかんない」

「ん〜〜、言語化って苦手なんだよなあ。教えるのとか絶対向いてねぇんだけど、どうすっか……」


 シャロフは暫く唸っていたが、やがてうん、と頷き、サムズアップした。


「やって覚えろ!」

「結局それか〜」



 結局、その日の成果は神経痛を悪化させただけだった。


(精神統一……呼吸を意識……)


 吸った息が、体内を巡り、行き渡るのを感じる。


(魔力を流す……)


 途端にビリビリとした痛みを感じ、集中が削がれる。  


「痛っ……!」


(だめ! 痛すぎ! 無理無理!)


 痛みに耐えられず、神経の管を途中で細めるように、流す魔力量をぎゅっと絞った。


(で、ここで止める……)


「……あれ?」

「やったか!」

「破裂しない……?」

「お、すげえ! やったじゃん!」


 ヤザンとシャロフが喜び騒いでいるが、玲奈はいまいちピンと来てない。 


「なんか、急にできた。全然実感がない」

「さっきまでと変えたことは?」

「えっと、神経痛で集中できなくて、魔力量を絞った……?」

「なるほどな」

「なに、どういうこと?」


 はてなマークを浮かべると、ヤザンは丁寧に説明してくれた。


「レナのこれまでの失敗は、留めようとしても、続けて流れて来る魔力の流れに逆らえなかったのだろう」

「……うん」

「今、痛みを抑えようと、反射的に途中から魔力量を抑えた。よって魔力は流されることなく留めることに成功した」

「凄いじゃん。魔力を絞るって結構難しいんだぜ?」

「え、そうなの?」

「ああ。俺は一度もそんな教え方はしなかっただろう」

「うん」

「初歩では、流れてくる魔力を押しかえすことに注力する。神経管を絞る訓練はその後だ」


 痛みを軽減しようとやったことが、たまたま習得にプラスになったようだ。まさに怪我の功名。


「魔力を押し返すってのはよく分かんないけど」

「別にやり方は何でもいい。神経管の制御ができるなら事足りる。今の感覚を忘れない内にもう一度やってみろ」

「うん!」


 先程を思い出して、同じ要領で魔力を流していく。


「できた……」

「おお、完璧じゃん!」

「問題ないな」


 ヤザンも満足げに頷く。


「うん……やった……、ちょっと休憩……」

「ん、焦ることないって。ゆっくりやりゃいいよ」

「いや、すぐ次の段階に移る。時間は無駄にできん」


 相変わらずのスパルタぶりに、思わずうぇと呻くも、ヤザンは気にした風はない。シャロフが助け舟を入れてくれる。


「こらこら。疲れてんだし休ませてやれよ」

「いつどうなるかも分からない身だ。身を守る術は優先して習得すべきだろう」

「……ごめん、ヤザンの言う通りだよ。私、ちょっと気が抜けてた。頑張る!」

「その意気だ」

「いや、まあ……本人がやる気ならいいけど」


 いつの間にか玲奈は、ヤザンのスパルタ思考に染まりつつあったが、本人は気づいていなかった。




 シャロフは、瞳を燃やして頑張る玲奈を思わし気に見つめた。


(この子……、俺は……) 


 暫く考え込んで、シャロフは気持ちを切り替えるように、緩く首を振った。



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