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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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30/49

30話

「留守にしてて悪かったね」

「結構長かったね。どこ行ってたの?」

「王宮」

「おっ……」

「敵の本拠地だね」


 不敵に笑う姿を見ても、今度ばかしはつられず、むしろ口は引き攣った。


「敵情視察してきたよ。レナがここにいることは、今のところ気づかれる様子はない。ロアンは兵を王都の外に派遣し始めた。何が何でもきみを捕まえる気で息巻いてる」


 ロアン。赤髪の、第一王子だ。処刑場でも一際厳しい言葉を浴びせられた。直接会ったことは、逆廻によって無かったことになっている。かなり気になるところだが、しれっと尋ねてみる。


「息巻いてるって……ロアンは、私に恨みがあるの?」

「どうかな。想像できることはあるけど、憶測にすぎない。俺は奴の幼少期を直接知ってるわけじゃないし……」

「ふうん?」

「まあ今はあいつの心情を気にしてるほど余裕じゃないかな。レナに紹介したい奴もいるし」

「紹介?」

「護衛を二人つけるって言ってたの、覚えてる?」

「あ、そういえば……」

 

 ここに来てからヤザンの他に会うのは、食事や風呂の準備をしてくれる女性だけ。それも最小限でやっているようで、同じ顔の人しか見ていない。


「もう一人は、レナを迎える日の朝から、王宮周辺の情報収集に行かせてた。けど、予定を過ぎても帰ってこなくてさ」

「えっ、まさか私のことがバレて」

「それならこんなに悠長にしてないよ。あいつはその時、レナがここに居ることを知らなかったし」

「そっ、か。もう帰ってきたの?」

「ああ。王宮近くで検問を避けてたら帰るに帰れなくなったみたいで、向こうの伝手を頼って身を隠していたらしい。中央に行くついでに持って帰ってきた」


 まるで物のように言う。この辺りは、親しみやすくても権力者の片鱗がうかがえた。


「入ってこい」

「ハ」


 音もなく現れたのは、ヤザンよりひと回り小柄な青年だった。


「シャロフだ。仲良くしてやって」

「うん、よろしく」

「おう! こちらこそよろしく」


 シャロフはニカッと笑った。快活な雰囲気で、サッパリしたいい人そうだ。特に警戒心はもたなかった。その様子にヤザンは物申したいようだ。


「お前……俺の時と随分様子が違うようだが」

「え? そんなことないよ?」

「ったく、しらばっくれて」

「ふーん? 二人は結構仲良くなったみたいじゃん」

「わっ、サディにもそう見える?」

「見える見える」


 その評価は嬉しいものだ。ヤザンとの距離は縮まったと自負していたが、ヤザンを幼少から知るサディに言われれば、お墨付きも同然。一方のヤザンは照れ隠しなのか、口をへの字に曲げているのが可笑しかった。


「俺にとっては嬉しい限りだ。シャロフのこともヤザンと同じように頼るといい」

「うん……護衛は交代になるの?」

「いや、休息時以外は原則二人ともつく。就寝のタイミングだけ一人になるが、なるべく最小限に」

「……ん!? ちょっと待って!」


 急に大声で顔色を変えた玲奈に、三人がぎょっとした。


「ヤザン、私が寝てた時は一緒に休んでたんだよね?」

「休んでない」

「は!?」


 玲奈が来てから十日超。そういえば、ヤザンはいつもぴったり付いていて、離れていることがなかった。自分のことに精一杯で全く気付かなかった。


「寝て! すぐ寝て!」

「待て待て、落ち着け」

「体壊すよ!」

「レナ、落ち着いて。大丈夫だから」


 サディの柔らかな声は、すとんと耳に入って、一度玲奈はトーンを落とした。ヤザンは、自分の話は聞かないのにサディには素直な玲奈に、若干不服そうな顔をしていたが。


「今、魔術を習ってるでしょ? 躯術の一種で、体の超回復ができる。休まなくても暫くは大丈夫」

「魔術で……?」

「そう。戦場に出る兵たちもよく使う魔術なんだ。ヤザンも偵察に出る時とか、普段から二週間くらいはよく走りっぱなしで行ってるから」

「ええ……でも、反動で体にダメージを負うとかない?」

「まあ魔術を使いつづければそうなるけど、ヤザンは十日程度なら余裕だから、心配しないで大丈夫」

「そうだ。しかもお前に魔術の基礎の基礎を教えてただけで、ろくに体を動かしてもない。この程度でどう弱れと」


 ならいいか、とは思わないが、本人もサディも大丈夫というので、それ以上騒ぐ気にはならなかった。


「これからはちゃんと休むんだよね」

「ああ。さすがにいつまでこの状況が続くか分からない中、魔術を使い続けるのはリスクがある。肝心な時に動けないのでは意味もない」

「そう。じゃあ、よかった」


 こうして、新たな護衛、シャロフとの顔合わせは終わった。


「そうだレナ、今日の夕食は一緒に食べようか」

「…………え!?」

「あれ、そんな驚く?」

「い、いいの?」

「うん……そりゃいいけど」


 不思議そうなサディを前に、玲奈は頬が緩むのを止められなかった。

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