22話
目的が分かったのは、スッキリした。理由もわからず助けられると、疑念が増す。向こうにメリットがあると知れた方が信頼は築きやすい。
「でも、私はお告げが出ただけで、国を滅ぼす力なんて持ってない。きっと、サディの思ってるようにはならないよ」
「いや、宣告は絶対だ。きみは、生きている限り、いずれ国を滅ぼす」
「……そんな」
玲奈を追っている者たちのみならまだしも、助けてくれたサディにそう言われると、玲奈の気はぐっと重くなった。
「レナに直接何かしてもらうことは、今は考えてない。ただ、その名前を利用させてもらう」
「名前?」
「大悪女、破滅の子の肩書だ。国に不満を持つ者は多い。側室の第三王子だけではままならないが、レナを担ぎ上げれば、人は集まる」
「……私が帰るには、それしかないの」
「そうだよ。仮に、国王を失墜させずに帰れたとしても、生きていると分かったらまた呼び戻される。国を滅ぼさないと、レナに未来はない」
「……国を滅ぼすって……誰かを殺すってこと」
「レナが直接手をくだすことはないよ」
(私は……帰りたいだけなのに。戦わないと、帰れない)
やらなければ、帰れない。戦わなければ、生き残れないというならば。玲奈は、処刑場でなされた会話を振り返る。
(捕まれば、苦役。そして、死刑……)
玲奈は目を閉じて、自分の行く末を想起した。玲奈が悩む長い時間、サディは声をかけずに、ひたすらじっと待っていた。やがて目を開けた玲奈の顔は、覚悟を決めていた。
「分かった。サディのやりたいことに、協力する」
「……そう。理解してくれてよかった。これからも、怖い目にあうかもしれない。でも、俺がレナを守るから」
「……うん。ありがとう、サディ」
サディが一緒なら、大丈夫。そう自然と思えるほどに、サディはすでに、玲奈の信頼を勝ち得ていた。
「国を滅ぼすといっても、戦いの火種を市中へ広げるのはなるべく避ける。俺が目指すとこは、あくまで新しい王になること。クーデターを起こし、現在の王政を打倒する」
強い決意に、玲奈は疑問を抱く。
「あの、なんで王になりたいの」
「欲しいものがあってね。手に入れるには、今の王子たち……特にロアンに、退場してもらわねばならない」
「欲しいものって?」
「何だろうね?」
「……?」
サディはにっこりと清々しい程の笑みで玲奈を見た。言うつもりはないらしい。
(正直気になるけど……でも、サディが王になってからのことは、私には関係ないか)
「で、王政を倒すって、どうやってやるの?」
「すでに、彼らをよく思ってない連中とは接触を図っている。その団体は、着実に規模を大きくしつつあり、下地はできている。が、それだけでは弱い」
サディは机から地図を取り出し、玲奈の前で広げた。
「これがここの世界地図?」
「そう」
玲奈は地図をのぞき込んだ。地図の左側と右側で、大きく二つの大陸に分かれている。左側の大陸の方が大きく、比率は六対四というところか。右側の大陸は北が大きく、尻すぼみになって逆三角形に近い。南の方は、大陸ではなく半島や、小さな島々が点在している。サディは左側の大陸の、中央から南の辺りをとんとんと叩いた。
「スラジはここ」
「スラジって、この国のこと……だっけ」
「そう」
それは、処刑場で知った知識だ。
(……このくらいは、トキから聞いたことにしたらいいか)
玲奈は、そもそものこの世界のことを、殆ど知らない。こんな有様では、王族から生き残れるはずもない。
「サディ、教えて。私、ここのこと何も知らない。知らないままじゃ、何もできない」
「その通り、無知は弱さ。知識は武器だ。心配せずともちゃんと教えるよ」
「うん!」
玲奈は地図と向き合った。サディが指さした場所は、スラジ王国と書いてあった。
(あれ……私、文字読める)
書いてある文字は、日本語ではなく、見たことない文様なのに、自然と読めている。そういえば、トキと逃げてる時も、街中の看板の文字は読めていた。母の力なのか、もともと、この世界の人間だからなのか。
「スラジの北には人が到底住めない、砂漠地帯が広がっている。そこから更に北へ行くと、大帝国、カンシュタットの領土へつながる」
「カンシュタット帝国……」
玲奈は地図の左上を見る。カンシュタットの国境線は、スラジの三倍ほどの大きさまで広がっていた。
「そして東の大陸を握っているのが、胡王国」
サディは右側の逆三角形の上の方を指差す。西の大陸と大海を挟んだ胡王国は、スラジとほとんど変わらない大きさだ。
「東大陸は、胡のほかは小国がぽつぽつと点在している。山岳地帯が多くて、大国ができる土壌じゃないからね。南側は、小さな島国が広がっている」
「ふーん……」
「狙いは、胡王国」
「狙い?」
「クーデターに協力してくれそうな国、筆頭ってこと。スラジと胡は表立っては対立してないが、海洋権ではカンシュタットも含めて小競り合いは絶えないし、あわよくば優位に立ち、弱みを握りたいと考えるのは自然だ。負け戦に乗りはしないだろうが、レナの名前を使えば乗ってくる可能性は高いとみてる」
「なるほど……」
「ただ、外国勢力に頼りすぎるのはリスクもある。難しいとこだけど……まあ、そこは俺の腕次第かな」
ふむふむと玲奈は頷いた。胡の勢力が入りすぎたら、サディが新しく王になったとして、新たな火種が産まれる可能性があるかもしれないというとこか。
「……この六角形は何?」
玲奈はスラジの中央より少し右側にある、模様を指さした。




