21話
「……ハッ」
玲奈はバチッと目を覚ました。普段から寝起きは良いほうだ。
「私、あのまま寝ちゃった……? あれ、このベッドは」
「起きたか」
「ひゃあっ!」
急にすぐ近くから話しかけられ、玲奈は飛び起きた。
「なっ、だ、だれ」
「ヤザン。サディ様の部下だ。お前の警護をしていた」
「あっ……ハイ」
簡潔な説明に、玲奈は頷くしかなかった。黒髪にツンツンしたショートヘアの男は、ヤザンというようだ。起きてすぐ見知らぬ男性がいたら玲奈が驚くのは無理もないだろう。玲奈の心臓は跳ね上がったままだ。
「起きたんならサディ様のところへ行くぞ」
「はいっ」
「……お前」
「は、はい?」
「サディ様には砕けてたのに、なぜそんな固い」
「それは」
(あなたが怖いからです! とは言えない……)
無愛想なのはトキと似ているが、ヤザンからは長身故か、かなりの威圧感を感じ、玲奈は萎縮してしまった。
「まあいい。早くしろ」
「……ハイ」
ビクつきながらついてくる玲奈に、ヤザンは溜息をついた。
先ほど玲奈がいた場所は、応接間からもう一つ奥に入った、居間だった。続きの扉にはサディ王子の書斎があるようで、玲奈はそちらへ案内された。
「おはよ。少しは休めた?」
「……うん」
「それはよかった」
「私すっかり寝ちゃって……今何時くらい?」
「三時過ぎ」
ここについたのは早朝だった。寝すぎたことを反省しつつも、サディの柔らかな視線に、玲奈は安堵した。ローソファを勧められるまま、腰を下ろす。
「じゃあレナが聞きたいこと、答えてあげよう。何が知りたい?」
色々あるが、まず一つ、気がかりを伝える。
「ここに来るまで、手伝ってくれた男の子がいたの。店に入る直前、見つかりそうになったのを、囮になって、私を逃がしてくれて……その子が捕まってないか、分かる?」
「昨晩、ロメールで不審者の情報があった。取り逃がしたって話だ。大丈夫、無事だよ」
「そ……っか、良かった……」
心底、安心した。ほっと息をついた玲奈に、サディは優しく微笑む。
「良い出会いがあったみたいだね。で、聞きたいことはそれだけじゃないだろ?」
「うん……私、帰りたい。帰れる方法はある?」
玲奈は意を決して、サディに尋ねた。
「まあ、それが一番か。帰れる方法……うん、あるよ」
「っ……ほんとっ!?」
「でも、そう簡単にはいかない。条件が必要だし、協力者もいる」
「条件、っていうのは」
「レナがこの世界に呼ばれたのは、聖積の日だ。帰るにも、同じく聖積を待つ必要がある」
「聖積って?」
「神殿の塔から見て、神星が重なる日のこと。神星ってのは、この国が祀っている二つの恒星、リトゥルスとピレーネのことだ。これは、十月に一回の間隔で起こる」
「十月って……少なくともそれまでは帰れないってこと?」
「そうだ」
「っ……」
玲奈の心にズシンと重石が落ちて来た。必死に駆け抜けてきた数日間の反動で、立ち上がれない程のダメージを食らう。
(十カ月もこの世界に……私、生きていけるの……?)
「酷だけど、事実は早く知っておいた方がいいよ」
「……うん、分かってる。ありがとう」
玲奈は膝の上でぎゅっと拳を握った。まだ衝撃を呑み込めていないが、無理やり顔を上げる。
「その日になれば帰れるの?」
「いや。さっき言ったけど、協力者……正確にいえば、能力者が必要」
「能力者?」
「導士だよ」
導士。玲奈は息をのんだ。玲奈の母親は、導士だった。そして、玲奈に魔力を与え、生き抜く力を授けた。それはサディにも、トキにも、他の誰にも伝えていない。
「異界へ人間を飛ばすには、導士が十人は必要だ。現状、協力してくれる導士はいない」
「……そんな」
「現状は、だよ。でだ。その導士ってのは、国のお抱えの連中。国王の命によって動く」
「でも……国王は、私を殺そうとしてる」
「そう。だから、玲奈が帰るには、俺がこの国の王になって、実権を握らないといけない」
「サディが、王に……」
「そう。でも、側室の子の俺が即位できる可能性は低い。だから、俺は一度、この国を滅ぼす」
「……サディはその為に、私を助けたんだ……」
サディの目的が判明した。
(王になるために、私、いや、破滅の子の力を利用したいってことだったんだ……だから、私を助けた)




