表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/49

2話

 

 まだ年若い女性が、赤子を抱いている。その顔は悲痛に歪んでいた。彼女に寄り添う壮年の男性は、自身の辛さを押し殺しながら、女性に声をかける。

 

「メイリ。残念だが、この子に出た宣告は覆しようがない。その子は十八歳を迎えたとき、王族の手で斬首されることになる」

「……っ、いいえ! 何かの間違いです! 神殿へ不服を訴えてきます!」

「待ちなさい。気持ちは分かるが、宣告を否定などしたらお前だけでなく、一族もろとも未来がない」

「っ……、しかし」

「お前の妹も、幼い子がいるのは分かっていよう。不幸な一生を送らせる気か」

「一族を巻き込む気はありません! 私にとってこの子は、やっと来てくれた、宝なんです。私にとっての唯一なんです!」

「……ああ。お前の気持ちは痛いほどわかっている」

「でしたら! お父様、どうか、この子が助かる道を……私だけでは力不足です。お父様のお力添えがなくては」

「……宣告を変えることは不可能だ。だが、牢に入れられ死を待つだけの処遇に、慈悲を乞うことはできる。違う世界に身魂(みたま)を飛ばし、一時の安寧を与えることならば、あるいは」

「違う世界へ……? 一緒に、生きることはできないのですか」

「難しいだろう。身内と暮らせば逃亡を企むと思われるのは必然。まして我々は、国内でも有数の魔力を誇る。この子が力を得ないように、引き離されるのは目に見えている」


 女性――メイリは、耐えきれずに大粒の涙を零した。


「私にできるのはそれまでだ……すまない、メイリ」

「……いえ、十分です。ありがとう、お父様……」



 また、場面が変わる。先程より一層やつれた姿となったメイリは、ゆりかごに揺られる赤子に、優しく話しかける。部屋にはメイリと、赤子の二人きり。

 

「あなたはこの国を滅ぼす『破滅の子』だと、告げが出ました。お父様の計らいで、成長するまでこことは別の世界での安寧な暮らしを保証されます。ただ、十七になったらこの世に呼び戻される。そして、一年後、王族があなたを手にかける……」

 

 不穏な話に関わらず、赤子は母の声にきゃらきゃらと微笑んでいる。メイリはキッと目に力を入れた。


 「いい? 私は今から、あなたに魔力を授けるわ。これは秘匿にされている、禁制魔術――逆廻(ぎゃっかい)。私がこれを扱えることは、私以外に知る者はいない。窮地に陥ったとき、時を戻せる力です。強大な力よ。うまく使って、生き延びて。そして、幸せを掴み取りなさい」

 

 ブウウウン――鈍いモーターのような音が空気を震わせた。メイリの手から発せられた緑の光がどんどん大きくなって、赤子を包んでいく。

 

「ぐっ、……」

 

 メイリは許容以上の魔力を使い、荒い息が上がっている。それでも力を使うことを止めず、全てを我が子へ注いでいく。やがて魔力を出し切り、緑の光が赤子の体内へ吸い込まれて消える。メイリはがくっと膝をついて胸を抑えた。

 

「っ……、はぁ……はぁっ、これで、大丈夫……」

 

 荒い息を整え、赤子を抱き上げた。まろい頬を愛おしげに撫でると、赤子は嬉しそうに笑った。

 

「この力は、強力だけど完全ではない。まず、あなたが深手を負ってからでは使えない。魔力が流れ出てしまうから。傷を負う前に使って。そして、いつの時点に時を戻せるかは決められないし、戻せる回数には限りがある……今私が注いだ魔力が切れたら、もう、時は戻せない。魔力の残りは感覚で分かるはず。魔力がなくなるまでに、生き残る道を見つけるのよ」

 

 赤子は母の指にじゃれつき、遊びだした。メイリは愛おしさが胸を突き抜け、強く赤子を抱きしめた。

 

「きっと辛い想いをいっぱいするわ……危ない目にあって、悲しいことも、たくさん……っ、ごめん、ごめんねっ……!」

 

 メイリはついに膝を折って、しゃくりあげだす。赤子は不思議そうに母を見つめた。

 

「もっと……、もっと一緒にいたかった! 成長を見たかった! あなたをこの手で守りたかった……! なんで、なんで私の子がっ、こんな……!」

 

 メイリは無力感に打ちひしがれる。娘と二人、時間稼ぎをする道は、あったかもしれない。でも、父が言っていたように、それをすれば親兄妹、一族の身の安全の保証はない。


 メイリは、家族想いの、ごく普通の感性を持った、人の良い女性だった。娘のために、周りの者全てを見殺しにする覚悟をもてなかった。

 

「私は魔力を使い果たしたから、そう長くは生きられない。あなたが戻ってきたとき、私はもういない……。いい? 国の人間はみな敵と思いなさい。外に逃げるのよ」

 

 胸元に納まる暖かさとの別れが、すぐそこまで迫っている。

 

「弱いお母さんでごめんね。あなたに名前をつけることは赦されなかった。口に出すことはできないけど、こっそり教えるね」

 

 玲奈は壊れ物に触れるように、優しく優しく、赤子と額を合わせると、目を瞑って、それを念じた。



『あなたの名前は、レナ。私の宝物。――どうか、生き抜いて』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ