16話
最後に興味ないですよと言わんばかりの気のない返事をしたが、若い女が兵の動向を気にかけるのは違和感があったかもしれない。印象を反らすべく、別の話題を振った。
「この街はあんまり暑くないんですね」
「ああ、王都と比べるとね。向こうの昼は汗ばむくらいだろう。ここんとこ特に、日照り続きで」
「はい」
「おっと……着いた。ここだよ」
「ありがとうございます!」
着いた先は、看板は出てなかった。これは道を知らなきゃ来れない。扉を開けて中に入った玲奈は、店の中の様子を見て――固まった。
「……え?」
そこは、酒場などではなかった。カウンターも椅子も、何もない。どころか、家具一つないただの剥き出しの床。
「これって……」
「残念だが、お嬢さんには詳しく話を聞かせてもらわないといけないようだ」
役人が、玲奈の背後を取って、腕を捻り上げた。
「きゃっ……!」
「王都とここはそう離れてない。つい三日前、大雨が降ったばかりだよ。住んでるなら分かるはずだ」
(適当に相槌うってたから……)
玲奈は唇を噛み締める。後悔するも、もう遅い。この男は、最初からずっと、疑いを解いてなどいなかったということだ。
(ここで捕まるわけには行かない)
玲奈は目を瞑った。
逆廻で戻ったのは、ロメールへ入る直前だった。トキと連れ立って歩いている最中だ。
「待って!」
大声を上げた玲奈に、トキはびくりと体を震わせた。
「どうした」
「……やっぱり、このまま街に入るのはリスクがあると思う。王都から、私の情報が入ってるかも」
「お前、顔見られたのか」
「顔は見られて、ない、はず……けど、十七の女、ってのはバレてる」
玲奈の記憶上は王族と何度も顔を合わせてるので、歯切れが悪い回答になってしまった。
「それだけ分かってたら、確かに目つけられる可能性はあるな。暗くなるまで待つか」
「うん。で、悪いんだけど、トキには先に店の場所を確かめに行ってもらえない?」
「分かった」
暗くなってからでは、聞ける人がいるかも分からないし、店をきょろきょろと探しながら行くのでは、時間がかかる。ロメールに入ったら、あの役人に見つかる前に、速攻で酒場へたどり着かねばならない。
「じゃあ行ってくる。レナは念の為見つかりにくいとこ隠れとけ」
「うん、ありがとう!」
駆けていったトキを見送ると、一人になった不安感が襲ってきた。辺りを見回し、先ほどまでいた森付近の木が目に入る。
(あそこの上なら、山道通った追手が来ても、すぐには見つかんないはず)
手頃な木を探し、幹に手をかけ、木に登りだした。




