13話
「起きたか」
「あっ……」
後ろからやってきたトキは、腕に果実らしきものを抱えていた。
「……あ、りがと」
「いや。向こうに湧き水もあった。後で水分補給しとけ」
「うん」
(駄目だ、疑り深くなってる……)
こんなに良くしてくれてるのに、心の底で不安が尽きなくなっている。挙動不審ぶりを魔化しながら、ざわめく心を落ち着ける。
トキが採ってきてくれた果物は、見覚えのあるような物もあれば、まるで知らない、異界の形態をしたものもある。棘々した楕円状の物体が、オーロラ色に輝いている。
(なにあのホログラムみたいなやつ……食べれんの?)
「ん」
「ありがとう。硬いんだね……これ、どうやって食べるの?」
「そのまま口に入れろ」
「えっ……?」
トキが見本とばかりに一口、パクリと食いついた。もぐもぐ咀嚼すると、そのまま飲み込んだ。玲奈も恐る恐る、端の方口に入れてみる。
「んっ……!?」
(これ……口に入れた瞬間溶ける! てかおいしー!)
「マカンの実は、一見皮は硬いが、人の唾液で融解される。皮は栄養満点、実も甘酸っぱくて美味いだろ」
「んっ! ん!」
玲奈は感動に大きく首を縦に振って返事した。一口目は得体の知れなさに少ししか齧らなかったが、美味しさを知って続けざまにパクパク食べ進め、あっという間に一つ平らげた。
この世界の果物は美味しいようだ。そう判断した玲奈はトキが採ってきた別の果物にも目を向けた。青紫の小さくツヤっとした果実は、ブルーベリーを思わせる見た目だ。玲奈は迷わず手に取った。
「これも絶対おいしいじゃん!」
「あ」
「んー……ッッッッ!?!?」
(酸っっっっっっぱ!!!)
口に入れて噛み潰した途端に、レモンを更に強烈にしたような酸味が口いっぱいに広がる。涙目になって悶える玲奈に、トキが今さらながら説明をする。
「それは酸っぱいんだ」
「知ってる!!!」
「言う前に食っちまったから」
「うっ……食い意地張らなきゃよかった」
口を窄め、酸っぱさに苦しむ。トキへの苦情も口を出た。
「何でこんな酸っぱいやつ持ってきたの……」
「それはテクという植物だ。酸味が強いが、強力な疲労回復効果がある」
「疲労回復……」
「手足を軽く振ってみろ」
「うん」
トキの言うまま、ブラブラと手足を振ってみる。すると、血の巡りが活性化されたのか、先端がカッと熱くなる感覚があった。そしてじわじわと、腕や脹脛のだるさが取れていく。
「すごい! 本当に回復してる……!」
「正確にいうと、血液の循環を急速に早め、早急な回復効果を発揮する。味が強烈だから普段は好んで食べられないが、戦場食の定番」
「へえ……」
「いくつか持ってくから、疲れたら言え」
「うーん……背に腹は代えられぬ……」
あの酸っぱさを再び口にするのは勇気がいるが、命を追われてる身となれば、贅沢は言ってられない。
「水分取ったら行くか」
「うん!」
再び歩き出した二人。
「昨日、追手の気配はなかったの?」
「ああ。火をたけば煙が出るし、近くにいれば気付いたはずだ」
「そっか……って、え!? 焚き火したのめっちゃリスク高かったってこと!?」
「そうでもない。あの規模の煙じゃ、予め近くにいなきゃ気づかない。近くまで来られてたら、どうせお前の足じゃ追いつかれてた。獣避けをしてお前を休息させるのが最善だった」
「そう……か。あの、もし衛兵に追いつかれてたらどうする気だったの」
「そん時はそん時だろ」
「…………」
(そん時……それは、多分、私を見捨てる選択肢も含んでる。トキはできるだけ助けてくれる、けど……追いつめられたときは、自分の身だけを守るかもしれない……)
その可能性も、頭に入れておかなければならない。勿論、トキに頼ることが現状の最善には違いない。
(でも、自分で自分を守る術は必要……追手が来てなかったのはラッキーだっただけだ)
玲奈は気を引き締める。トキが隣にいてくれることは、安心できる。でも、気を緩めることは自殺行為だ。
「この森を抜けるにはあとどのくらいかかるの?」
「そう遠くない。今日の夕方には抜けて、ロメールの街中へ入れる」
「分かった」
「ただ、俺はその酒場の名は知らない。街のどの辺にあんのか調べねえと」
「大きい街なの?」
「街自体は広いが人が集まってんのは南部だ。この森から出れば、街の南東部に出るが、ロメールで店が集まってるのは南中部。そこにその酒場があるとすれば、そんなに遠くない」
「そっか、良かった」
二人の道中は、そう長いものではないようだ。




