12話
途中で川の水を飲んで休憩しながら、一時間。山の麓へたどり着いた。既に足はくたくただったが、歩みは止められない。
山道へ入り、うねうねとした道なき道を進んでいく。木の根っこが張り出していたのを大股広げ乗り越えたり、上から葉っぱが地面につきそうなほど垂れ下がっているのを屈んで通ったり、中々険しい。トキは玲奈が息が上がってるのをみとめ、声をかける。
「暗くなってきたし、今日は休むか」
「分かった……あのさ、この山って、危険な動物って出ない?」
「さあ……どうだったかな」
「うっ」
「獣避けには火だ。薄暗くなってきたし火焚くぞ」
「……うん」
玲奈の不安を他所に、トキは手早く枝を集める。そして胸元からゴソゴソと、小さな赤い石を取り出した。それを地面に叩きつけると、石が砕かれ、足元に赤い光が広がった。玲奈が疑問に思うも束の間、木に火が灯る。
「わあっ!」
小さな火種はあっという間に枝全体に燃え広がり、燃え盛る。
「何したの?」
トキが石を割ったら赤い光がぶわあと足元へ広がり、すぐに火がついた。
「着火石。僅かだけど魔力が込められていて、火をおこす」
「魔力……つまり今、魔術を使ったってこと」
玲奈に授けられた逆廻の力以外で、魔術を見たのは初めてだ。効果としてはチャッカマンと同じなのだが、興味を持つのは当然だろう。
「これは魔術とは呼ばねえ。道具さえありゃ誰でもできる。お前でも」
「へえ……着火する以外にも、魔力を使って生活してるの?」
「安価な下級魔石を使ってできることならな」
「例えば?」
「湯を一瞬で沸かすとか、水を凍らせるとか」
「ふーん」
「ほら、座れ」
促され、たき火の横に座り込む。足がじんじんと痺れを訴え、ローファーも靴下も脱いだ。トキが上げた例は本当に小さなことだった。
「難しい魔術なら、もっと色々できる?」
「ああ。でもそういうのを使うには、それなりの魔石がいる。高級魔石は一般市民がほいほい買える値じゃない」
つまり、町中で非科学的な魔術が飛び交っている光景は見られないということだ。
「魔石を使わなくても魔術を使える人もいるの」
「いる。導士だ」
「……それって、どういう人達」
何度か聞いた言葉だった。母のことだ。そして、その力を授かった玲奈は、魔石を使わずに、恐らくこの世界でかなり強力な魔術を使えている。
「導士ってのは、魔術師の血を持った家系の連中のことだ。導士は体内から魔力を発生させられるから、魔石を使わなくても魔術が使える。魔石を使うものより、高度な魔術だ」
「魔術師の血……親が導士なら、子も導士ってこと」
「そうだと思うけど……俺もそこまでは詳しくない。例外もあるかもな」
「そっか……」
「レナ、もう休め。今は、ロメールに無事に着けるかの心配が先だ」
「うん……そうだね」
そう言われると、途端に疲れがぐるりと体を巡ってくる。
「少し目閉じてろ。俺が見張っておく」
「ありがと……」
応えながら、玲奈はすでに夢うつつだった。
「ハッ!」
いつの間にか横になって寝ていた玲奈はガバっと飛び起きた。
「明るい……一晩明けたってこと」
空は白んでいた。火は消えている。そして、一人であることに気付く。
「っ、トキ!? いない……っ」
辺りには、人の気配はない。素早く立ち上がる。
(まさか、見捨てられた)




