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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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11話

 玲奈が男を見上げた、その背後。目に映った光景に、目を瞠った。


「っ!」


 認識したと同時に、ゴォン!!と鈍い音が、男の頭上に振り下ろされた。


 「グァァっ!」と潰れた蛙のような声を発し、暴漢は完全に意識を失った。飛び込んできたトキが、頭上に石を振り下ろしたのだ。


 暴漢はパタリと力を失って玲奈の上に落ちた。巨体に押しつぶされて、玲奈の腹が絞まる。


「たっ……助けて……」

「今出してやる」


 トキが巨体を蹴り転がし、這いずり出て、ようやく一息ついた。


「あ、ありがと……」

「頑張ったな」

「……うん」

「こんだけデカいと目覚めるのも早いかもしれない。とにかく歩くぞ」

「うん」


 再び、手を差し伸べられた。それを取ると、くんと引っ張られる。


 歩き出したトキは、玲奈の様子を窺って、空いている手に持つものに気づいた。


「何だそれ」

「あ、忘れてた」


 玲奈はソレを見せた。ガラス片だ。切っ先が、かなり鋭利なものだった。


「逃げてるときに見つけて拾ったの」

「……転んだんじゃなかったのか」

「うん。武器にしようと思って」


 万が一、トキが来なくても。自分で暴漢に反撃しようと、これをアイツの目に突き刺してやろうと思っていたのだ。


 実際は振りかざした瞬間、トキが石を持って屋根の上から飛び降りてくるのが見えて、手を止めたのだ。


「トキが……間に合わなかったら、自分で何とかするしかないじゃない」


 来なくて、とは言わなかった。トキは、助けに来てくれた。トキはそんな玲奈を興味深そうに見つめた。


「……なに?」

「いや、意外だったから」

「意外?」

「レナは最初、襲われそうになって目瞑ってたろ。自分じゃ何もできない奴かと思ってたけど……ちゃんと身を守れるじゃねえか」


 どうやら、褒めてくれているようだ。それを少し嬉しいと思う気持ちもある。でも、今はもっと大きい、自信のなさで、胸がいっぱいになっていた。

  

「……ううん。トキがいなきゃ、何も出来なかったよ」


 それは謙遜ではなく、弱音だった。トキは、何も言わなかった。 



 * * *




 息が落ち着いてからはまた小走りに行くと、ようやく路地裏の出口についた。そこは川辺に繋がっていた。急斜面を登って、またすぐ降りる。その先は川沿いに一メートル超はある、丈の長い草が生えそろっている。先に黄色い花が付いていて、菜の花に似ている。前に目を向けると道という道はなさそうだ。


「大周りになるが、この川を抜けてあそこに見える山を抜ければロメールだ」

「うん」

「丁度この草が姿隠してくれそうだな」

「……やっぱ、この中を進むんだ」

「行くぞ。手引かなくても大丈夫か」

「うん」


 草で肌を切りそうとか、虫がいそうとか、思わないことはないが、これまでの試練を思えば些細なこと。トキの後について、進み出す。前回、捕まった直接の要因となったローファーは今回は履いたままだが、しっかりした靴があって幸いだった。


 黄色い花が肩口辺りにふよふよと触れる中、川沿いをさくさくと進んでいく。どんどんと、日が高く上がり、暑くなってきた。


「今何時か分かる?」

「正午過ぎくらいだな」

「そっか」


 こちらに飛ばされてきたのは、多分二時間前くらいだ。何度もやり直してるので感覚がズレている可能性もあるが。


 暑さのせいか、疲れか、玲奈の心は重く、苦しくぐるぐると回り出す。


(私……何で、こんな事に……これは本当に、夢じゃないの……)


 何が現実なのか。自分は、今どこにいるんだろう。家に帰りたい。夢なら、覚めて。


「レナ!」

「あ……?」

「しっかりしろ! 道逸れてたぞ」

「えっ……ごめん」


 気づけば、トキにがっしりと腕を掴まれていて。玲奈の片足は、川から外れて外向きに舵を取ってた。


「ごめん、ぼーっとしてた」

「……やっぱ手握っとくか。ほら」

「……うん」


(駄目だ。トキに迷惑がかかる。考え込むのは止まってる間にしよう)



 玲奈は雑念を振り払うように、首を振った。


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