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純情白雪姫  作者: 祭歌
第一部 あなたと私、はじまりの祝宴
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それでは、どうぞ宜しくお願いします。

「姫、大丈夫ですか」



 扉越しにかけられた声に飛び上がる。


「はっ、はい!すみません殿下、今開けます」


 わたわたと扉を引くと、ヴィルヘルムはまたも申し訳なさそうに立っていた。

 促すと彼は室内に入り、所在なさげにドアの直ぐ前に立つ。不思議に思いながら席を勧めれば、漸く座り込む。一体どうしたというのだろう。


「姫、すみません…私は、その、」


 もごもごと口ごもりながらヴィルヘルムは、しかし意を決したように顔を上げた。アルマリアはどきりとした。何か重大なことだろうか。もしや、実は秘密の恋人がいるんです、なんてことは……——


「私は、姫同様、誰かと口づけを交わしたことがなくて」


 ——なかった。

 ほっとしつつもアルマリアはことんと首を傾げる。


「初めて、だったのですか?」

「ええ、ですから、私も不安がない訳でもなかったのです」

「……まぁ。それは……」

「もちろん私は男なので、姫ほど不安だったとは言えないかもしれないのですが……」

「それでも、不安でしたと?」

「はい。ですから、直前に口づけを交わせて、良かったと思っているんです」


 ぽかんと彼女は彼を見上げた。


「まぁ。そうなんですか」


 そういえば、少しぎこちない、——慣れていないような、仕草だった。

 ……だったが。


「そ、それであれですか? 信じられません」

「す、すみません」

「あ、いえ、責めているのではなく」


 それにしては上手かった、と……何を言ってるのだ自分は。アルマリアは赤面した。


「……それに、こんなに貴女を……」


 アルマリアはぱっと頭を上げた。ぽつりと落とされた呟きが、よく聞こえなかったので。


「殿下? すみません、もう一度お願い出来ますか?」

「い、いえ、なんでもありません」


 少々慌てたような口調だ。訝りながらも一応は納得する。


「それで殿下、」

「ああ姫、私のことはヴィルヘルムで構いませんよ。殿下は貴女もそうでしょう?」

「え……」


 吃驚して口を覆う。それから再び真っ赤になって、小さく呼びかける。


「ヴィ、ヴィルヘルム、さま」

「慣れたらヴィルとお呼び下さい」


 にっこりと微笑まれ、這々の体で頷く。心臓が、保たない。


「あ、でしたら、わたしのことも……」

「アルマリアさま、と?」

「アルマリア、とお願いします」


 アルマリアは丁寧に頭を下げた。

 ヴィルヘルムは了解したとばかりに笑う。


「それで、先程言いかけたことは何ですか?」

「あ、ええ、その」


 口ごもり、視線を泳がし、ちらりと王子を見上げる。


「今日から私は貴女の妻ですが、どうやって過ごせば良いのでしょう」

「え?」

「つまり、昼間は部屋に居て、夜は、でん……ヴィルヘルムさまとご一緒に寝室にゆけばよろしいのでしょうか」


 ぴたり、と王子が固まった。


「は、ああ、その……」

「妻とは何をすれば良いのでしょう。わたし、いまいちよく分からなくて。とりあえず、夫の添い寝をすれば良いのでしょうか」


 再び、王子が固まる。


「あ、そ、そうですね……恐らく、それで構わないかと」


 微笑まれ、アルマリアはぱっと花咲くように微笑んだ。


「そうなのですね!では寝室に参りましょう。もう夜もふ更けて参りましたし」

「そ、そうですね……」


 アルマリアは何故か放心気味のヴィルヘルムの手を引いて、寝室へと向かった。




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ひっそりこっそり実のない小話。(お返事は更新報告にて)
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