ようこそ、エビリスの白雪姫 2
びくんっ、と睫毛を震わせる。
「で、殿下……?」
おそるおそる見上げると、ヴィルヘルムは困ったような表情をしていた。
「姫、そう仰って、もう戻ってはいらっしゃらないおつもりですか?」
「……は、はい?」
意味が分からず首を傾げる。すると彼は大仰な仕草で肩を竦めた。
「私を見た女性、もしくは婚約話が上がりかけた女人は必ずそう仰って、二度とお顔を拝見することがありません。どうやら趣味が合わなかったようで」
本当に困ったように言われて、アルマリアは漸く、彼の言う意味が分かった。
そして慌てて否定する。
「ま、まさか殿下! そんなことありません。だってわたし、もうあの国のものではない、と陛下に言われましたから」
「え?」
「わたしが申し上げているのは、もう日も暮れてきていますから、という意味で、つまり他意はないのです。信じて下さい殿下」
今度は彼女が困ってそう懇願すると、ぽかんとしていた王子は、ぱっと花咲くように微笑んだ。その後ろでは、エンナが心底安堵したようにへたり込んでいる。
「ああ!そういうことですか。分かりました、そうですね。もう遅いですし、集まっているのは暇人ばかりですし、また明日か、明後日か……貴女が良ければいつでも構わないですしね」
「ああ、分かっていただけて嬉しいです」
ほっと胸をなで下ろす。——自分は、もうあの国には戻れない。だから彼に嫁ぐのだ。これもそれもあれも全てが義務だけれど。
「それでは姫、今宵はこの城に泊まって下さいますか?」
「よろしいのですか?」
「ええ、本当は今日、ここが貴女の家になる筈だったのですが……すみません」
「いいえ、いいえ! お気になさらないで下さい。——それでは、ご好意に甘えさせていただいてもよろしいでしょうか」
小首を傾げてそう問うと。
第一王子と侍女は強く頷いた。