ようこそ、エビリスの白雪姫
「おっ、おっ、王子————!」
き————————ん、と耳に響くほどの怒声が上がった。
吃驚してアルマリアが固まっていると、先程どもり気味に彼女に言い訳していた少女が、顔を真っ赤にして鼻息荒く仁王立ちしていた。
「王子! 今日だけは止めて下さいと申し上げました筈でしょう!」
「しかしだな、今日はひびの入り方がとても美しいご夫人の遺体で……」
「あああああああ変態発言はお控え下さいませ! この部屋にはアルマリア殿下がいらっしゃるんですよ!?」
ばっ、と侍女がアルマリアを振り返る。急に話を振られた彼女は、ぱちぱちと目をしばたたいてから、
「あ、わたしのことはお気になさらず」
どうぞ続けて下さいな、と微笑んだ。
ざっ、と青ざめる侍女に、おお、と頬を綻ばせる王子。
「やあどうも。貴女がアルマリア殿下でいらっしゃいますね? 私はリュファーニア聖国が第一王子、ヴィルヘルムと申します。此のたびは約束の時間に遅れてしまい、申し訳なく————」
「遅れ過ぎです!!」
「……エンナ、少し黙っていてくれるかな。お待たせしてしまった姫を、さらにお待たせするのは心苦しいことだと思わないか?」
「なななななな、何をしゃあしゃあとっ————」
ぶるぶると青紫の顔で震え出すエンナと呼ばれた少女を、アルマリアは不安気に見上げた。大丈夫かしら。血圧が上がり過ぎて倒れてしまいそう。
どうしましょう、と思いながら、王子に視線を移すと、彼はふわりと優しく微笑んだ。
「どうかなさいましたか、姫?」
とくり、と胸が高鳴る。
思いがけず、綺麗で優しい声だった。
徐々に火照ってきた頬を片手で押さえ、アルマリアは小さく、呟くように言う。
「あの、殿下」
「はい」
「今日は、婚礼は無理なような気がします」
ぎゃ—————! とエンナが叫んだ。
ヴィルヘルムは変わらず穏やかな笑みを浮かべている。
「おや、どうしてですか?」
「だって、もう大分日が傾いております。内輪のみの婚礼なのですし、また日を改めてでも……」
言いかけた時。
すぅっと白い指が前髪に触れた。