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2.

前だけを見て、ただ目標に向かって走る。それが一丁前の姿だと信じていた。 壁にぶつかるたび、戻るなんて惨めな真似はしたくなくて、逃げ続けた。その先に見つけたのは"hopeless"と名付ける未来だった。そこなら、自分でいられる気がした。他人の期待や失望から解放された、暗闇の中。

君には分からないだろう。こんな感情も、こんな言葉も。闇の中で生きる僕には、暗闇すら光に見える瞬間がある。それはまるで呪いのようだった。

「闇には明かりが必要だ」と君は言ったけれど、人は暗闇に慣れる生き物だ。慣れた暗闇は、やがて心地よいものになる。それでも、君の言葉は僕の中に小さな波紋を広げた。

君の存在は、僕の中で揺れる光だった。光に触れることができない僕は、ただ君を遠くから見つめるだけだった。その眩しさに、目を逸らすことしかできなかった。

君が僕の世界に手を伸ばしてきたとき、僕は驚いた。光そのもののような君が、どうしてこの暗闇に足を踏み入れるのか、理解できなかった。

「光に背を向ければ、影が濃くなるだけだよ」 君がそう言った日のことを、今でも覚えている。その言葉の意味が分かるようになったのは、君が僕の前からいなくなってからだった。

僕は暗闇の中に居場所を見つけたつもりだった。傷つけられることも、傷つけることもない場所。でも、そこにいる限り、誰も僕を見つけられないことも分かっていた。

それでも君は違った。君だけは、この闇の中に手を差し伸べてきた。その手があまりにも眩しくて、僕は目を背けた。自分なんかが触れたら、その光を汚してしまうと思ったから。

君の声が、遠くで響いている。それはまるで水面に落ちた小石が波紋を広げるようで、届きそうで届かない。

君が僕の世界から遠ざかっていくことは分かっていた。それなのに、僕はずっと手を伸ばし続けていた。言葉にすれば壊れてしまう気がして、怖かった。

「もう、いいよ」 君にそう言われるのが怖くて、僕は逃げた。でも、その逃げた先にも君の影が残っていた。優しさと冷たさが混ざり合ったような、君の残像が。

僕は、自分の作った壁に閉じ込められていた。 四つ葉のクローバーは、傷つかなければできないと聞いたことがある。時間が経てば分かると思っていた。それなのに、君がいなくなってからも、僕はこの影の中に閉じこもったままだ。

「こんな僕でも、希望を持つ資格があるのか?」 心の中で何度も君に問いかける。その答えはもう聞けないと分かっているのに、それでも問い続けてしまう。

君の笑顔が、僕に「進め」と言ってくれるなら。 僕は、この影の中から一歩だけでも踏み出してみようか。そんな風に思える。

君が笑う声が、まだ耳の奥に残っている。 心地よい風だったはずなのに、今では痛みになって胸を裂く。 僕が掴んだものは何だったんだろう。あの頃、君の手を取ったことも、交わした言葉も、今となっては蜃気楼のようで――消えそうで、消えない。

壁を壊すつもりだった。自分を押し上げるつもりだった。でも、気づけば自分が作った壁に閉じ込められていた。

「大丈夫だよ」 君が何度もそう言ってくれたのに、僕は耳を塞いだ。その優しさが、まるで光の刃のように感じたから。

深謝に縋り付いて、僕じゃなければ幸せだと思った。 目を背けていただけだった。そんなことはもう分かっている。 弱い僕には、卑怯な僕には、何も残らない。 それでも、君に会えて良かったと思う。 この暗闇の中で、君の笑顔を思い浮かべてみる。それは、まるで残酷な救いのようだ。

「ねぇ、君に会えて、良かったよ」 最後にただ、それだけを伝えたいと思うんだ。

君が残してくれた言葉。それは僕にとって、光でもあり、影でもあった。いつか、この暗闇を抜けた先で、君のように笑える日が来るのだろうか。そんな希望を抱きながら、僕は今日も影の中で、君の声を探し続けている。

僕は暗闇に閉じこもりながら、君の姿を思い浮かべ続けた。その姿は遠く、ぼやけているけれど、はっきりと温もりだけは残っている。君が差し伸べた手、その手に触れる勇気がなかったことが悔やまれる。

時間が経てば、痛みも薄れると信じていた。でも、君の存在は僕の中で消えることはなかった。むしろ、その記憶は時間とともに鮮明になり、僕をさらに深い暗闇へと引きずり込んでいく。

「君がいなければ良かった」 そんな言葉を何度も心の中で繰り返した。でも、それは本当じゃない。君がいたから、僕は救われた瞬間が確かにあったのだ。

君のいない世界で、僕は何を求めているのだろう。暗闇に慣れたはずの僕が、なぜ未だに君を探しているのだろう。心の中で、答えの出ない問いを繰り返す。

暗闇の中で僕は一人、君の声を待っている。届くことのない声を。それでも、君の笑顔を想像すると、不思議と心が少しだけ軽くなる。君に会えて、本当に良かった。

その後も日々は過ぎ去り、僕の中の暗闇は次第に深くなった。だけど、それと同時に、君の言葉や仕草、笑顔はより鮮明に心に刻み込まれていった。君が差し伸べてくれた手の温かさを思い出すたびに、僕の胸の奥に小さな痛みが生じた。

あの時、君の手を掴んでいたら何かが変わっていただろうか?そんな考えが、時折頭をよぎる。でも、それはただの幻想でしかないと、自分に言い聞かせる。

君が僕に残してくれたもの。それは、希望とも呪いとも呼べる感情だった。その感情が僕を縛り付ける一方で、時に支えてくれる不思議な存在だった。

この暗闇の中で、僕は君の影を追い続ける。君がいない世界で、君を探し続ける。それは果てしない旅のようでありながらも、終わりのない苦しみのようでもあった。

でも、そんな中でも僕は少しずつ、前に進むことを覚えていった。君が教えてくれた言葉の意味を理解するたびに、自分の中で何かが変わるのを感じた。

そして、ある日、僕は小さな光を見つけた。その光は、かつて君が見せてくれた笑顔に似ていた。その光に触れることで、僕は初めて自分の中に希望が芽生えるのを感じた。

君がいなくなってからも、君の言葉は僕の中に生き続けている。その言葉が僕を支え、前に進ませてくれる。それが、君が僕に残してくれた最後の贈り物なのだと思う。

「ありがとう、君に会えて本当に良かった」 その言葉を胸に、僕は少しずつ、光に向かって歩き出すのだった。


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