9【浮いた】浮遊【1㎝】
魔力による物理干渉。
――それが、第二の講義テーマだった。
講師はもちろん、スライム執事のエリ。
教室は浮遊本が舞う図書室。
受講生は……俺ひとり。そして、なぜかまたジャージ姿。
「主、先ほどの光魔法に続いて、今回は“動き”のある魔法――風属性魔法の習得に挑みます」
「動き、ってつまり……」
「飛ばす、打つ、斬る、運ぶ――あらゆる応用が利く汎用性の高い魔法です」
そして次の瞬間、部屋の上部から何かがわらわらと降ってきた。
「……なにこれ」
「本日のターゲット、紙飛行機50機です」
目の前には、ふわりふわりと舞い降りる異世界製の紙飛行機たち。
魔力で強化されてるのか、異様に軌道が読めない!普通に避けないと顔に刺さるレベル!
「え、ちょ、これ訓練ってレベルじゃ――」
「制限時間は5分間。全機撃墜、お願いします」
\スタート音ピピッ/
「はやっ!?ちょ、もう来てる!?」
俺は慌てて手をかざし、魔力を込める!
「風魔法――《エアロ》ッ!!」
\シュゴォォン!/
風の塊が放たれ、紙飛行機の一機を弾き飛ばす!
「おおおおお!!やった!撃てるぞこれ!」
だが――
「……数が、多すぎるんですけどぉ!!?」
残り49機が一斉にバサァァァッと飛び回る。
カオス。完全に紙の弾幕地獄。
「一発ずつ撃ってたら間に合わねぇってことか……!」
「主、風の“流れ”をイメージしてください。線ではなく、面で押し返すのです」
「面……流れ……つまり風のカーテンを作るってことか!?」
「その通りです。賢い。さすが主」
「そこはもっと感情込めて褒めてくれていいんだよ!?」
気を取り直して、両手を突き出し、空気の流れを作るように魔力を練る。
「……行けっ!《エアロ・ウォール》!」
\ブワァァァァン!/
部屋全体にふわりと風圧が走り――
紙飛行機たちが、空中でくるくると巻き込まれながら一斉に落下していく。
「や、やった……!?これ、全部落とせたか……?」
『確認。全機撃墜完了。戦果:パーフェクト』
ふよふよ漂う思念の声が響く。
そして同時に、タブレットに実績が表示された。
【実績解放】
風魔法習得
応用魔法獲得
新魔法系統《風圧加速》《飛翔》解禁!
180 名前:名無しのダンジョンマスター
紙飛行機とガチバトルしてるやつ初めて見た
181 名前:名無しのダンジョンマスター
ジャージで空中戦してて草止まらん
182 名前:名無しのダンジョンマスター
エリ先生の淡々とした解説ほんと好き
183 名前:名無しのダンジョンマスター
飛翔魔法ってまさか、空飛べるんじゃ……
「……飛べる、か。マジで」
額の汗を拭いながら、俺はふとタブレットに目をやる。
【次回講義候補】
▶ 空中浮遊魔法
▶ 魔力弾精度訓練
▶ 魔法戦訓練(実戦演習)
「……エリ先生、そろそろ俺も“戦える存在”になれてきた気がするぜ」
「まだまだ、ですよ主。道のりは長い」
「……それ、毎回言ってない?」
「“言われ続けるうちは本物ではない”という名言があります」
「くっ、論破されてる気がする……!」
浮遊魔法。
――それは、地に縛られし者たちに許されし、“空への第一歩”。
「さあ、主。本日は“飛行魔法”の初歩――《フロート》の実践です」
スライム執事・エリが、ぴょこんと跳ねながら言う。
今日も俺は例によってジャージ姿。最近はもう疑問に思わなくなってきた自分がいる。
「つまり……飛べるの?」
「はい。最大高度1cmです」
「……えっ?」
「まずは1cm、確実に、安定して、浮く。それが“飛行”の基本です」
「たった1cm浮くだけで、そんな偉そうに言う!?」
「空をなめてはいけません。落ちたら死にます」
「1cmだよ!?落ちても死なないよね!?」
エリはぴとりと触手(?)で床をなでる。
「この部屋はダンジョンの魔力で構成されています。浮遊に失敗すると、**“0cm以下”**まで落ちます」
「地下行くの!?!?」
◆浮遊魔法習得ミッション
成功条件:浮遊状態を維持して10秒間、スライムと並走する
失敗条件:墜落=顔から床キッス
「それでは主、魔力を集中し、重力を斥けるイメージを」
「重力を……斥ける……ええいままよっ!」
「唱えてください。“《フロート》”と」
「《フロート》!!」
\フワッ/
その瞬間――
俺の身体が、ふわっと浮いた。
「えっ……うわっ、浮いてる……!俺、浮いてる!!」
「現在、高度:0.8cm。安定維持を――」
「うおっ!?う、うごくとふらつく!バランス難しいこれ!」
そして横には、いつのまにかふよふよ浮いて並走しているスライム・エリ。
「主、ここからは実技です。私と並んで、一周していただきます」
「いやいや、スライムのおまえと違って、こっちは人型なんだよ!?安定感違うの!」
「“人間だからできない”ではありません。“人間だからこそできる”のです」
「おまえたまに良いこと言うなああああっ!?」
ぐらりっ!
「あっぶな!今、顔から落ちかけた!?」
「もう少し力を抜いてください主。“浮く”ことは、“抗う”ことではなく、“信じる”ことです」
「信じるって何!?自分を!?床を!?」
「空間を、です」
「答えが壮大すぎるッ!!」
【浮遊モード:10秒間安定維持 成功】
「……これで、終わり?」
「おめでとうございます主。浮遊免許、初級取得です」
「免許制だったのコレ!?」
【実績解放】
浮遊魔法習得
移動系スキル使用可能:「空中回避」
新スキル候補:上位浮遊が出現!
202 名前:名無しのダンジョンマスター
高度1cmでイキってて草
203 名前:名無しのダンジョンマスター
でもわかるぞ、最初の“ふわっ”って感動するよな
204 名前:名無しのダンジョンマスター
スライムと並んで空中散歩してるジャージの男、絵面強すぎる
浮遊練習後――
俺は図書室の端で、エリと並んでふよふよ浮いたまま、しばらくの間、無言で空間を漂っていた。
「……なんか、悪くないな」
「浮く、というのは、存在を“許される”ことですから」
「エリ、おまえってさ……スライムだけど、時々めっちゃ深いよな」
「よく言われます、主」




