2【ここは】ここはどこ【ダンジョン】
気がつくと、俺は――真っ白な部屋に立っていた。
床、壁、天井、ぜんぶ真っ白。清潔感?いや、もはや不気味なまでの純白だ。広さは……そうだな、一般的なリビングくらい。落ち着くサイズ感。
だが問題は天井だ。
高すぎんだろ、これ。どこの体育館だよ。
あれか?夢か?それとも――
「というか俺誰」
世界史も数学も、果てはローマ時代の塩の交易ルートまで、はっきりと思い出せる。
けれど――
「……俺って、どんな奴だったっけ?」
肝心の自分自身のことが、まるで霧の向こうに隠れている。
どんな顔をしていた? どんな声だった? 何を好きで、何を嫌っていた?
なにも思い出せない。
ただ、一つだけはっきりとわかることがあった。
「この展開……知ってるぞ……異世界転生、来たこれ!」
俺の中のラノベ脳が騒ぎ出す。はいはい、異世界。神様登場、謎のチート能力授与、そして人生逆転のファンタジー展開ですね?
「よっしゃ、神様でも高次元生命体でもどんと来い!」
ドン、と仁王立ちで待つこと数十分――
……何の成果も!得られませんでしたァーー!!
いやほんとに、誰も来ねぇ。どこだよ神様、昼休憩中か?それとも新人教育で忙しいか?
「……あ、あれ? だれかあああああ!」
叫んでみた。反応、なし。
「どうしてだよーこの世の中をーかえたいー!」
泣いてみた。もちろん無視。
叫びも涙も空振り。なら、残されたものは――これだけだ。
部屋の中央にぽつんと置かれた板。アイパッド……みたいなやつ。
「なにこれ……」
白い空間、謎の板、そして俺。
やべぇ、状況がシンプルすぎて逆に怖い。でもそんなの関係ねぇ!
「なにこの板!」
よくわからんテンションのまま、俺は無邪気に板に飛びついた。
見た目は普通のタブレット。画面をタップすると、起動。
アプリは……2つだけ?
『ダンジョン構築』
『安価スレ』
「……なにこの謎センス」
どっちだよ。どっちのジャンルだよこれ。ファンタジーかネタ枠かはっきりしてくれ!
ここがダンジョン?俺が神?それとも、実況スレで人生決まる系?
マジかよ……。
これはもう、触れるしかないだろ。
画面には2つのアプリアイコンが並んでいる。
『ダンジョン構築』
『安価スレ』
まず突っ込ませてくれ。
「なぜこの2つ……」
こっちは異世界転生の期待を背負って真っ白空間に放り込まれたんだよ?普通『ステータス確認』とか『チート取得』とか、そういうのがくるだろ?
なのに安価スレて。ネット掲示板かよ。なんでタブレットにそれがデフォで入ってんだよ。
「いや、落ち着け俺……どっちかが突破口のはずだ」
安価スレ……ということは、選択肢を誰かが決めるタイプ?それとも俺が安価を取る側なのか……?
逆にダンジョン構築は、自分で作るタイプなのか?それとも放置系ゲーム?
「……まずは触ってみよう。我が名はアテム!運命のダイスロール!」
俺は震える指で、『ダンジョン構築』をタップした。
画面がブラックアウトし、次の瞬間――
\デンッ/
まるでRPGのOP画面のようなBGMとともに、タブレットに表示されたのは――
『ようこそ、新たなるダンジョンマスターよ』
「ダンジョンマスター……?」
『あなたはこの空間に、自らの意志でダンジョンを構築し、あらゆる存在を迎え撃つことができます』
「いや、戦う前に人来ないんだけど!?」
『構築可能な部屋数:現在0 魔力供給:不明 モンスター登録:未定』
「なにもできねぇじゃねえか!」
とりあえずチュートリアルくらいあるかと思ってたけど、説明もザックリだし、肝心の構築もできない。なんなんだよこのクソゲー……!
でも気になるのは「魔力供給:不明」という項目。
俺、魔力あんの?いや、ないだろ普通。チートもらってないし。いやでももしかしたら――
そのとき、画面がふっと切り替わった。
『安価スレを起動しますか?』
唐突ゥ!
でもタイミング的に、何か意味があるのかも……?
「……わかったよ、やってやろうじゃねぇか」
俺は決意のタップをした。
\ポンッ/
安価スレが起動され、目の前にまるで5ちゃんねる風の画面が現れる。
スレタイ:ダンジョンマスター見習いが降臨したので
お前らで指示出してやれ
1名前:名無しのダンジョンマスター
主「なにもない白い部屋にタブレット1枚だけ置かれてます。助けてください」>>25
2 名前:名無しのダンジョンマスター
とりま踊れ
3 名前:名無しのダンジョンマスター
とりまチュートリアルやれ。なければ知らん
4名前:名無しのダンジョンマスター
チュートリアルはないっぽいんだよね。その代わり分ってること書いてく
構築可能な部屋数:現在0 魔力供給:不明 モンスター登録:未定
って書かれてる多分俺魔法使える。そこはうれしい
5 名前:名無しのダンジョンマスター
魔法使える。そこはうれしい←ここで喜んでる場合じゃ無くね?っていうのは置いとくか……
……
……
……
……
25 名前:名無しのダンジョンマスター
初期魔力チャージには体力消費がいるらしい。スクワット100回しろ
「……なんだこれ!?」
画面の向こうには確実に“誰か”がいる。
いや待て待て、このスレどういうシステムなんだ?俺の発言が1番ってことは、俺が立てたスレ扱い?で、今表示されてるのがリアルタイムレスポンス……?
「マジで……ネット掲示板越しに俺の運命決まる感じ?」
だが――妙な高揚感がある。
俺は孤独じゃなかった。何者かがこの“ゲーム”に参加してくれている。
だったら、もうやるしかねぇ。
「よし、お前ら……指示通りやってやろうじゃねぇか!」
とりあえずスクワットだ。




