古代図書館 3
僕が目を開けるとイオリテが心配そうに僕をみていた。
僕は身体を起こして辺りをみまわした。
「時魔導士の亡霊はどうなったの」
「時魔導士の亡霊はそなたの放った魔法に当たって消滅した」
僕の言葉をきいて、イオリテは温かい目をして言った。
「そう」
僕は立ち上がった。
「もう大丈夫か?」
「うん。先に進もう」
僕達はダンジョンの奥へと進んだ。
ダンジョンをしばらく進むとドアがみえた。
ドアを開くと目的の図書室があった。
「ここが秘密の部屋……」
秘密の部屋は僕の期待に反して図書室と言うよりも、ただの倉庫と言うほうがふさわしいほど殺風景な部屋だった。
「この部屋は禁書を保管することを目的とした、ただの倉庫さ。人から書物を守るためにあるんだ。ダンジョンがつくられたのも、モンスターがあらわれたのも、冒険者からこの部屋を守るため図書館の設計者が意図的につくりあげたからだ」
イオリテは僕の期待が外れてがっかりしている顔をみて言った。
「それだけ大事な書物がここにはあるってこと?」
「この世界の秘密を記した書物がここにはある。神でもなければ知り得ないような秘密が記されているんだ」
僕はその話しをきいて昔のゲームにあった開発者ルームをおもいだした。
プレイヤーが入ることを想定していない殺風景な部屋なのも、そう考えると納得できた。
棚には入室記録と書かれた本が置いてあった。
ページをめくると開発に関わった人々の名前が並んでいた。
ページをめくり続けると白紙のページにたどりついた。
白紙になる直前のページには入室したプレイヤー記録と書かれてある。
そこには二人のプレイヤーネームとプレイヤーIDが書かれていた。
エクリプスとタリオと二人のIDが書かれていた。
入室記録を棚に戻すと開発者日誌と書かれた本が気になった。
開発者日誌をパラパラとめくり内容を拾い読みしていると、サービス開始から三年後にゲームの根幹に関わる致命的な問題に気がついたことが書かれていた。
虹色の塔に行くために必要な七つの精霊石の座標データに誤りがあり、想定した通常どおりの遊び方だと絶対に入手できない状態になっていたらしい。
その時点でプレイヤーの一人が七つの精霊石にを入手していたため、この問題は修正も公表もされなかった。
「通常どおりの遊び方だと入手できない……」
「なにかあったのか」
「なるほど。その座標データとやらがわかっているなら精霊石をたやすく入手できそうだな」
とイオリテは僕の説明をきいて言った。
「残念ながら僕はそういうのに詳しくないんだ。せめて座標の書いてある地図でもあればいいんだけど」
ここが開発者ルームならもしかしたら精霊石を入手できるのではないかと不意におもいついた。
昔のゲームの開発者ルームにはステータスをいじったり、所持アイテムを増減したり、未入手アイテムを入手したりとチート機能を備えているものもあった気がする。
僕達は精霊石と座標の書いてある地図を求めて部屋のなかを調べることにした。
どれだけ部屋のなかを探しても精霊石と座標の書いてある地図はなかった。
部屋には本以外のものはいっさい置かれてない。
ほとんどが魔法関連の本だった。
この部屋はプレイヤーが攻略のヒントを求めて訪れることを想定してつくられているようだった。
「タリオ。この本はどうだ」
精霊石についてと書かれた本をイオリテが持ってきた。
僕はページをめくった。
そこには七つの精霊石のそれぞれの特徴と、その入手場所が書かれている。
「この本以外にヒントになりそうな本はなさそうだ」
「この本に書かれている精霊石の入手場所に行ってみよう」
図書館を出ると空はかすかに明るくなっていた。
いつの間にか夜が明けそうになっていた。
朝まで起きていたことを認識すると急に睡魔が襲ってきた。
いまから歩いて拠点まで帰ることをおもうと憂うつになった。
僕は図書館の入り口付近にある転送ボックスを試してみることにした。
転送ボックスとは、訪れたことのある街やダンジョンの転送ボックス間を瞬間移動することができる電話ボックスみたいな箱だ。
僕は過去にこの世界のすべての場所に行ったことがあるので転送ボックスを使えばどこにでも行けるはずなのだが、ウェッタリドの街から古代図書館に転送しようとした際に移動先一つも表示されず瞬間移動できなかったのだ。
転送ボックスが機能していれば街まですぐに瞬間移動できるはず、そうおもい調べてみた。
転送ボックスの移動先にウェッタリドと一つだけ名前が表示された。
転送ボックスは一度その転送ボックスに入ることで転移可能になる。
どうやら僕は世界を旅した記録を消されたらしい。
なにはともあれ街に帰れるとわかってほっとした。
僕達は転送して拠点に帰った。
ウェッタリド東側城門内側に近いところにある転送ボックスに僕達は瞬間移動した。
転送ボックスを出ると、朝の街は活気にあふれていた。
僕は城門をみた。
昨日みたばかりなのにひさしぶりにみたような気がした。
僕はただいまとつぶやいた。
僕達は拠点に帰って寝た。
昼、目が覚めるなり僕達は次の旅の目的地について話しあった。
暗くなる前には買い物に出かけて、旅の準備をして、明日には出発しようということですぐに話しはまとまった。
問題は七ヶ所のどこから行くべきかということだ。
残念なことに古代図書館にあった本は持ち出し不可能だった。
持ち出そうとすると秘密の部屋のドアが開かなくなり、魔力が部屋に吸い取られる仕組みになっていた。
必要な情報はすべてメモした。
そのメモをみて僕は言う。
「どこに行けばいいんだろう」
「すべて行くことになるのに、なにを悩む必要がある」
悩んでいる僕を不思議そうにながめながらイオリテは言った。
「イオリテの言ってることが正しいのはわかる。だけどもし海の近くの精霊石を取りに行こうとして、それがズレのせいで海の中にある場合、深さにもよるけどいまの僕達に入手する手段がないだろ」
イオリテは呆れた表情をした。
「あの日誌を読む限りタリオの想定している状況にすべての精霊石が置かれていると考えられる。だが重要なのは一人のプレイヤーがそれでもすべての精霊石をあつめたということではないか。その人にできるのならそなたにもできるということだ」
イオリテのこれ以上無駄に悩むなという無言のプレッシャーに負けて僕は言う。
「決めた。順番通りに行こう。最初の目的地はクリッジだ」
翌日、僕達は旅の支度をして東側城門を出た。
今度の旅は目的地まで四日かけて歩く計画をたてた。
道中いくつもの街を通り抜けることになる。
夜には転送ボックスで拠点に帰る予定だったが、冒険者の活動が活発になったらしく城門近くにある転送ボックスには長い行列ができていたので、予定を変更して現地に泊まることにした。
モンスターを倒して手に入れた魔石類を売ってお金を増やし、いかにもRPGゲーム風な冒険をしながら僕達はクリッジの街に向けて進んだ。
クリッジの街までそう遠くないところで僕達は道に迷った。
原因は僕だ。
山道の途中で珍しいモンスターをみつけて追いかけたのだ。
モンスターを見失ったうえに迷子になるという失態をおかした。
僕達が正規のルートを探しながら歩いていると、どこからか大きな音がきこえた。
僕達はその音のする方へ向かった。
音のするところまで行くと一人の男がトロッコから土を出しているのがみえた。
「なにをしているんですか?」
と僕はきいた。
「土を捨ててる」
と彼は言った。
彼はトロッコが空になるなりトロッコに乗って洞窟の中に消えた。
僕達は彼が出てくるのを待った。
しばらくすると彼は土を山積みしたトロッコを押しながら洞窟から出てきた。
「まだいたの」
彼は僕達の姿をみて驚きながら言った。
「クリッジの街まで行きたいのですが道に迷ってしまって。どこへ向かえばいいんでしょうか」
「あそこに白い像がみえるだろ。あれがクリッジの象徴の巨神像だ」
彼の指さす方に白い物体がみえた。
「巨神像のふもとにクリッジの街がある」
僕達は礼を言い、巨神像を目指して進んだ。
楽しんでいただけましたか。
毎週金曜日の午後四時頃に1〜3話ずつ更新する予定です。
またお越しください。