古代図書館 2
僕達が虹色の塔について書かれた本を改めて調べても、変わったことはみつけられなかった。
僕達は本を棚に戻すことにした。
僕が本を棚に戻そうとすると本棚の奥に本に隠れて違和感がある模様をみつけた。
僕はその模様を確かめるために、その棚にある本を取り出した。
そこには本棚の模様と馴染むように、不思議な模様が描かれていた。
僕はイオリテにみてもらうため、彼を呼んだ。
「この模様、なんだか気になるんだ」
「これは精霊文字だ。魔法の詠唱で使う古代文字の原形さ。他の棚もみてみよう」
精霊文字は虹色の塔について書かれた本の置かれていた五か所の棚に隠されていた。
「この文字はどうやって読めばいいんだろう」
と僕は言った。
魔法の詠唱に必要な古代文字は少しは読めた。
呪文を覚えるうえで意味を理解した方が覚えやすかったから、勉強したのだ。
ある程度魔法を使えるようになるといくつかの魔法しか使わなくなり、同じ魔法を何度も使うことで詠唱も破棄できるようになった。
詠唱破棄できるようになるとますます同じ魔法しか使わなくなり、いつしか古代文字の勉強もやめてしまった。
「問題ない。これくらいなら私でも読める」
と言うなりイオリテは僕がきいたことのない発音で言葉を唱えた。
どこかで物が動く音がきこえた。
僕達は結界の張ってある本棚に戻った。
本棚は床に沈み込んで、その後ろに隠していた階段をあらわにしていた。
僕達は階段をおりた。
踊り場に魔法の壁があった。
壁とは言っても透明で実体がない、これが結界だろう。
僕が過去に攻略したダンジョンでも魔法の幕のようなものがかかっていたところがあった。
あれは結界だったのかとようやく理解した。
ダンジョンの中はまったく同じ大きさで切られた石で床も壁も天井も舗装されていた。 ダンジョンは奥がみえないほど暗かったが、僕達が進むたびに近くの壁にかかった燭台に明かりがともった。
そのかすかな明かりを頼りに僕達はダンジョンの奥へと歩みを進めた。
どれくらい歩いたのだろうか。
曲がりくねった道、変わらない景色、反響する足音。
いつしか方向感覚も距離感もおかしくなっていた。
「どうやら無限回廊の魔法をかけられたみたいだな」
とイオリテが言った。
「無限回廊。きいたことのない魔法だけど、どんな魔法なの?」
「無限回廊とは対象の五感と時間感覚を混乱させて、対象を無限に同じところに彷徨い続けさせる魔法さ。モンスターだけが使える魔法で、このダンジョンの主が得意にしている魔法だ」
「いつのまに僕達は魔法をかけられたんだろう」
「魔法は私達ではなくダンジョンにかけられているんだ。同じ魔法でも使い手によって強さが変わることは知ってるだろう。このダンジョンの主は強力な魔力で、罠にかかった人が魔法の存在に気がつかないようにしている。このダンジョンの主の名は時魔導士の亡霊。別名、一本道の悪魔。時魔導士の亡霊は生前、同じケースの異なるシチュエーションをみることを好んだ。同じ場所、同じ時期、似たような境遇の人々、それなのに人によってそれぞれ異なる物語を持っている。時魔導士はその違いをみることに喜びをみいだした。その喜びを求めていつしか無限回廊に人々を閉じ込めて、その反応を楽しむようになった。時魔導士は強力な魔力で一本道でも迷宮をつくりだすことができた。そんな時魔導士をよくおもわない人は多く、時魔導士は冒険者によって倒された。時魔導士の魂は成仏することなく亡霊となり、冒険者を無限回廊に閉じ込めるモンスターになった。生前からモンスターしか使えない魔法を使いこなすことができるほどの魔導士だったのだから、モンスターになったいまはもっと強くなっているだろう」
「どうしたらここから脱出できる?」
「大事なことはもともとの通路には入口と出口があったということだ。魔法で隠されていても実際には道がある。魔法の壁をみつけて壊せば脱出できる」
イオリテは短剣を構えて壁を壊そうとした。
「そこに魔法の壁があるの?」
「わからない。違ったら他の場所を壊せばいいだけだ」
イオリテは何度もいろんな場所の壁に向かって斬撃を放った。
僕も出口を探すため魔法で壁を壊すことにした。
チャンスは二回、僕は右手に杖を構えて、出口のありそうな場所に狙いを定めて一回目の魔法を放った。
残念ながらただの壁だった。
もう一度、僕は出口のありそうな場所に狙いを定めて二回目の魔法を放った。
「唸れ衝撃!! 獅子放光弾!!」
僕の放った魔法は黄色い光の弾になってライオンの咆哮のような轟音を出して壁にぶつかった。
光の弾は壁にぶつかると、衝撃を放って壁を壊した。
壁はまるではじめからなにもなかったかのようにきれいに消えた。
壁があったところの奥に通路がみえた。
僕達が通路に向かおうとすると、通路の奥からモンスターがあらわれた。
「ついにその姿をあらわしたか。時魔導士の亡霊よ」
イオリテはそう言うなり、短剣で時魔導士の亡霊に襲いかかった。
イオリテと時魔導士の亡霊はお互いに、攻撃しその攻撃を回避した。
その攻防が何度も続いた。
壁を壊すために何度も魔法を放ったせいか、そのうちイオリテの動きに疲れがみえてきた。
時魔導士の亡霊はイオリテの変化をみのがさなかった。
時魔導士の亡霊の攻撃はイオリテに休む暇を与えないように激しさを増した。
このままではイオリテは負けるだろう、そうおもったとき僕は杖を時魔導士の亡霊に向けて身構えていた。
「よせ。それ以上魔法を使ってはいけない」
イオリテは杖を構えている僕に気がついて言った。
その声をきいて時魔導士の亡霊も僕をみた。
「唸れ衝撃!! 獅子放光弾!!」
僕は魔法を放った。
僕の放った魔法はたやすく時魔導士の亡霊に回避された。
時魔導士の亡霊の意識が僕に向いてる隙に、イオリテは時魔導士の亡霊に襲いかかった。
僕の目の前の景色はだんだんと霞んでいった。
僕は気を失って倒れた。
楽しんでいただけましたか。
毎週金曜日の午後四時頃に1〜3話ずつ更新する予定です。
またお越しください。