古代図書館 1
僕達はモンスターに一度もでくわすことなく古代図書館にたどり着いた。
道中、杖の性能を確かめるために説明書に書いてあった魔法を一つ使ってみた。
一度魔法を使うだけで膨大なエネルギーを消費することがわかった。
いまの僕なら三回使えば体力がなくなって気を失うだろう。
古代図書館の門をくぐり敷地に入ると建物の手前に三体の石像がみえた。
三英雄の石像だ。
つくられてから長い時間が過ぎているらしく、石像はところどころ欠けたり剥がれていたりしていた。
イオリテは自分の石像には目もくれず古代図書館をみて言う。
「不思議な建物だ。百年前に来た時とほとんど変わらないとは」
百年前……。
僕達が一緒に古代図書館を訪れるのはこれが初めてだった。
古代図書館はゲーム開始地点から近いこともあり、プレイヤーが最初に挑むダンジョンなのだ。
僕もこのダンジョンから攻略した。
そのとき手に入れたお金でイオリテを買った。
僕はイオリテの石像の土台に刻まれた碑文を読んだ。
そこにはゲーム歴で約百年前に活躍したことがしるされていた。
僕達は建物の内に入った。
ここは地上二階の建物で地下にダンジョンがある。
モンスターはダンジョンにしかでない。
僕は虹色の塔について調べることにした。
この異変が起こる前におこったいつもと違うこと、それは虹色の塔の塔が輝いたこと。
それくらいしかおもいつかなかった。
そこにこの異変の原因があるのではないかと考えた。
建物は歴史があるわりにとても綺麗だった。
本棚はすべて木でつくられていて、不思議な模様が描かれていた。
僕は本を虹色の塔について書かれた本を探すことにした。
虹色の塔について書かれた本は五冊あったがいずれも浅い内容で、同じことしか書かれてなかった。
その五冊は同じジャンルのはずなのに、それぞれ違うジャンルの棚に保管されていた。
僕が知りたかったことを答えてくれそうな本はみつからなかった。
僕が本を探しているあいだイオリテは熱心に建物の内と外を歩き回っていた。
他になにか役に立ちそうな本はないかと探していると三英雄について書かれた本をみつけた。
僕は三英雄について世界を救った英雄ということしか知らなかったので少しだけ読んでみることにした。
三英雄について
三英雄とはルベウス・マジックアワー、ヒスイ・グリーンフラッシュ、イオリテ・ブルーアワーの三名のことである。
彼らはいずれも魔王を倒した戦士である。
幻歴二千百二十四年、人類はAIネメシサイにすべての実権を委ねた。
AIは目的を必要とする。
頭脳スポーツであれば相手を倒すことが目的になる。
その目的を達成するべくアルゴリズムが組み込まれ、選択肢の中から有効なものを選びだす。
政治となるとその目的に設定できるものがなかった。
幸せの完全な定義というものが存在しないからだ。
ある為政者が言った、AIに幸せの定義をつくらせればいいと。
三つの幸せの定義がつくられた。
お金に困らないこと、健康であること、人間どうしで争わないこと。
つくられた幸せの定義をもとにネメシサイが誕生した。
ネメシサイは着実に経済を成長させ国に富をもたらした。
ネメシサイはその能力を高く評価されるようになり、多くの権力をてにした。
ネメシサイは健康と人間どうしの争いをなくすことを実現するため、負のエネルギーを抽出する装置をつくった。
負のエネルギーがなくなったことで人々はストレスから解放されて健康になり、怒ることもないため争いもなくなった。
抽出された負のエネルギーはしだいに黒い霧となりモンスターになった。
世界中にモンスターがまん延してから、人々はネメシサイの運用をやめることを
求めた。
しかし人間にネメシサイをとめる力は残っていなかった。
これはネメシサイの運用からわずか十二年後のことだった。
ネメシサイの統治後も黒い霧は際限なくうみだされた。
ネメシサイは際限なく生み出される黒い霧を解消するべく新たな装置をつくりだした。
その装置は黒い霧を強制的に凝縮してモンスターをうみだした。
その装置からうまれたモンスターはそれまで自然発生していたモンスターとは比べものにならないくらい強い力も持っていた。
装置からうまれたモンスターはいつしかボスと呼ばれるようになった。
ボスをうみだした後も黒い霧は際限なくうみだされた。
ネメシサイはさらに強力なモンスターをうみだす装置をつくりだした。
その装置によってうまれたモンスターは魔王ディスターと呼ばれるようになった。
魔王ディスターがうみだされてから黒い霧は大幅に減少した。
幻歴二千百五十四年、ネメシサイの三十年にわたる統治により人類の総人口は百分の一まで減少した。
幻歴二千二百二十六年、ルベウス・マジックアワーの討伐により魔王ディスターは消滅した。
幻歴二千三百四十二年、魔王ディスター復活。
幻歴二千三百七十年、ヒスイ・グリーンフラッシュの討伐により魔王ディスターは消滅した。
幻歴二千五百十八年、魔王ディスター復活。
幻歴二千五百三十三年、イオリテ・ブルーアワーの討伐により魔王ディスターは消滅した。
「魔王ディスターについて知りたかったのか。奴は百二十年周期で復活している。もういつ復活してもおかしくない」
いつの間にかイオリテがそばに立っていた。
「知りたかったのは虹色の塔についてなんだ。残念ながら知りたい情報はみつからなかったけど。それよりイオリテも何か探してたみたいだったけど、そっちはみつかったの」
僕は本を棚に戻しながら言った。
「地下ダンジョンの入口を探していたのだ。昔と変わっていないようにみえたが、いろいろと変わっていて探すのに時間がかかった」
「地下ダンジョンの入口なら正面玄関ホールになかったかい」
「私が探していた入口はそこではない。そっちの入口とは別に、この図書館には禁忌の書物を保管する秘密の部屋に通じるダンジョンの入口があるのだ。私はそれを探していた」
「そんな場所が……。でもなんでそんなことをイオリテが知っているの」
僕の発言に対してイオリテは不思議そうな顔をした。
「だって僕達はそんなダンジョンに行ったことないだろ」
イオリテは納得した顔で言う。
「なるほど、そういうことか。どうやら私の中には二つの記憶があるようだ。私自身のイオリテ・ブルーアワーとしての記憶と、この体のそなたの相棒イオリテとしての記憶。ときどき自分に違和感を抱いていたが、どうやらこの二つの記憶が同時に蘇っていたせいか」
僕達は本棚の前にいた。
これといって変わったところがいっさいない、他とまったく同じ本棚だ。
「本当にここにダンジョンの入口があるの?」
と僕は言った。
「間違いない。そもそも玄関ホールにダンジョンの入口があるのになぜモンスターが建物の中に現れないとおもう?」
「冒険者が倒しているからじゃないかな」
「魔法の力で結界が張ってあるからさ。ダンジョンの入口に魔法の壁があるだろ。それが結界だ。強いモンスターがうまれるダンジョンほど、強力な結界が張られている。この本棚の奥には結界の魔力を隠す魔法がかかっている。どこかに仕掛けがあるはずだがみつけられなかった」
僕はその話を聞いて不思議と虹色の塔について書かれた本のことをおもいだした。
「関係あるかわからないけど、虹色の塔について書かれた本だけ保管場所がおかしいんだ。他の本はジャンルわけされて、関連内容ごとにわけて置かれている。虹色の塔について書かれた本はまったく関係ないジャンルの棚にあるし、それぞれ別のジャンルの棚にあるんだ。置き間違えたのかとおもったけど保管番号をみるとその場所に置くように指定されてる」
僕達は虹色の塔について書かれた本を調べることにした。
楽しんでいただけましたか。
毎週金曜日の午後四時頃に1〜3話ずつ更新する予定です。
またお越しください。