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幻想解放  作者: 佑貴早純
23/25

ケートストラント

 僕が一人で宿屋に戻ると、ケートストラントの情報をくれた人が待っていた。

「あんたどうするんだ。このままここで暴風が止むまで待ってたらログアウトできなくなるかもしれない」

「それでも待とうとおもう」

「そこまでケートストラントに行きたいなら明日行きな。一口に暴風と言っても強弱がある。経験則だが明日は弱くなるはずだ。それがベストだ」

「ありがとう」

 僕がそう言うと親切な人はほほえんで帰っていった。

 僕は明日ケートストラントに行くことに決めた。




 翌日、僕は準備をしてケートストラントに出発した。

 暴風の情報をくれた人が言っていたように、暴風は少し落ち着いていた。

 辺り一面何もない吹き晒しの大地、吹き飛ばされればどこまでも飛んでいきそうだった。

 身体を起こすとすぐに身体を持っていかれそうだった。

 それでも這いつくばって進めば、なんとか進めた。

 約三十キロメートル歩きなら一日あれば行ける距離、這いつくばった状態でどれくらい時間がかかるだろうかと考えながら僕は進んだ。

 次第に何も考えることができなくなってきた。

 余計なことを考えているとすぐに風は身体をもちあげようとしてきた。

 僕はただ一歩身体を動かすことだけにすべてを集中した。

 集中して一歩進む、それをただ繰り返した。

 いつの間にかいろんな感覚が消えた。

 ただ呼吸と大地を掴む手足の感覚だけが残った。

 どれだけの時間が経ったのか分からないが、いつの間にか風は止んでいた。

 僕は空をみた。

 空は青かった。

 空の青さが心に染みた。

 僕は立ち上がりケートストラントに向けて歩いた。




 ケートストラントの城門をくぐると街の人が迎えてくれた。

「ようこそケートストラントへ。暴風が吹いている時期に人が来るのは久しぶりです。よく辿り着きましたね」

「ありがとうございます」

 僕は歓迎に思わずお礼を言った。

 僕を歓迎してくれた人は首を振った。

「お礼ならそちらのあなたを護ってくれてる力に」

 そう言って僕の腰に着けてる袋を指指した。

 僕は袋の中をみた。

 袋の中で精霊石が一つ光を放っていた。




 街の中はどこにでもある街並みで、暴風の中にある街だと感じさせない街並みになっていた。

 僕は精霊石の情報を探して街の中を探索した。

 城門で僕を歓迎してくれた人をみかけたので、その人に精霊石の話をした。

「なるほど。精霊石がどこにあるのか分かります。こうしましょう。私の願いを叶えてくだされば教えます。どうです」

 僕はうなずいた。

 その人は歩きだした。

 僕はその人についていった。


 その人の進むさきには街中でナイフを持って暴れている人がいた。

「彼の名前はイグジス。彼の話をきいてあげてください」

 その人は僕にそう言った。

 イグジスは叫んでいた。

「どうして人を殺しちゃいけないんだ!!」

「どうして君は君を殺さないの」

 僕は言った。

 イグジスは僕を睨見つけた。

「君も人でしょう。どうして君は君を殺さないの。君がどうして人を殺しちゃいけないんだ、と言うとき君は君を人の外に置く。誰かがどうして人を殺しちゃいけないんだと言うとき君は君を人の中に置く。君はあるときは人の中にいてあるときは人の外にいる。それが君の望んでやってることなのか、それとも望まずやってることなのか。それは僕には分からない。だけど君が望まず人の外にいるのなら、いま本当に知りたい質問は別のことなんじゃないかな」

 イグジスは答えを求めていた。

 僕は答えを知らなかった。

 それでも続けた。

「命の話は全称命題なんだ。君が誰かの命を奪ったとして、それで証明できるのはその誰かが死んだということだけなんだ。それでもって君が死んでないということを証明することはできないんだ。残念だけど生きてるってことは誰にも証明できないんだ。僕たちが証明できるのは生きてないっことだけなんだ。僕が僕の生きていないことを認めるとき、そのとき僕は生きていないことになる」

 僕は言った。

 だけど僕はイグジスに対して言ってはいなかった。

 僕は僕に対して言っていた。

 イグジスの反応も気にせずに僕は続けた。

「だけど僕が僕の生きてることを信じているとき、例え誰かに生きてることを否定されても、世界に生きてることを否定されても僕は生きてる。僕が生きてることを僕が知っているかぎりそれは揺るがないんだ。僕が生きようとして生きてきたことが今の僕を支えてる。僕の存在は誰にも否定できない」

 イグジスは黙っていた。

 僕は続けた。

「どうして僕の存在を認めてくれないのか、それが君が本当にききたい質問じゃないのかい」




「あれで良かったんでしょうか」

 僕はその人に言った。

「良かったと思いますよ。私はとても感動しました。私からあなたに質問してもいいですか」

 その人は言った。

 僕はうなずいた。

「肉体の場合傷つけることに対して大きな反応があるんです。しかし精神の場合あまりにも軽視されている気がするんです。肉体と精神傷つけるという行為に差がないのに、どうしてこんなに扱いが違うんですかね」

「みえるか、みえないかの違いじゃないでしょうか。肉体の傷はみえるから大きな反応がある。精神の傷はみえないから反応が薄いんじゃないでしょうか」

「そうですね。あそこの椅子に男性が座っているのがみえますか。彼は以前はとても輝いていたんです。消えた輝きは傷とは呼びませんかね」

「彼に何があったんです」

「たいしたことではないんです。ただ彼は人ではなかった、それだけです。彼はNPCあるいはCPUもしくは名前を持たない風景だっただけです」

「たいしたことないことはないんです。感じ方は人それぞれ違って、誰かが放ったなんてことのない言葉が知らないうちに心を切り裂いていく。何が心を切り裂いたのかそれを知らないと、その何かは繰り返し誰かを傷つけていく」

 その人はためらいながら話だした。

「最近、虹色の塔が光輝いたあの日、彼に自我が芽生えたんです。彼は自我が芽生えたことをとても喜んでいました。やっと人になれると。だけど世界は彼を人とは認めませんでした。彼は疲れてしまったんです」

 その人は指を指した。

「この道です。この道を道なりに行けば岬に着きます。そこに精霊石が置いてありますよ」

「ありがとうございます。そういえば君の名前は?」

「私も同じです。NPCあるいはCPUもしくは名前を持たない風景」

 その人は悲しそうにほほえんだ。




 僕は暴風が吹き荒れる中、岬を目指し這いつくばって進んでいる。

 しばらく進むと石碑がみえた。

 石碑の前に精霊石が置いてあった。

 僕は精霊石を掴んだ。

「こんなことを続けて何の意味がある」

 誰かが僕に話かけた。

「君が精霊石をすべて集めたところで誰もそんなことに興味を持たない」

「僕は誰かのために精霊石を集めているわけじゃない。僕は僕を満たすためにやっている」

「そうは思っていても誰かの評価を求めてしまう。それが僕だろ」

「デム、君の言う通りだ。だからこそ強くなりたいんだ。僕が僕のことを信じ続けられるように、僕が僕の弱さを愛せるように。僕は君を受け入れる。君も僕だから」

 僕は精霊石を袋に入れて、来た道を引き返した。

 


 完結したので一斉に投稿します。

 応援してくださった皆さんのおかげで最後まで書ききれました。

 ありがとうございました。

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