ウェッタリド 2
デムはほほえんだ。
「それでいい。それが正解だ。簡単に強くなって何が悪い。簡単に自己肯定感を満たして何が悪い。世界よここに英雄が誕生した。ただサイコロを転がした、それでもって世界を救うんだ。さぁ、受け取れ。チーターのサイコロは、世界は君のものだ」
デムはサイコロを僕に差し出した。
僕は首を振った。
「それはいらない。それは何も救えない。僕の英雄達はいつでもまず自分自身を救ってた。誰もが自分に救えるのは自分だけだって知ってるから。僕が僕を救えない限り、僕は僕の物語の主人公にはなれないんだ。君のサイコロでは僕の願いは叶わない。だからそれはいらない」
僕は杖をイオリテと魔王ディスターの戦いを熱狂的にみている人々に向けた。
「君は何をする気だい。この世界ではPVPは禁止されてるんだぜ。いいのかい、アカウントをBANされるぜ。いまの状況で垢バンされたら一生ログアウトできなくなるぜ。正気かい。本当にいいのかい」
デムはにやついた表情で僕に言った。
「君のおかげで正気になれたよ。僕は安全圏から出るべきだったんだ。たとえ一生ログアウトできなくなったとしても、僕はいま僕を救える。僕は僕のやりたいことを受けいれられたから」
僕は杖にありったけの魔力を込めた。
「眠りに誘え!! 白羊催眠弾!!」
魔法を放つと杖の先から白い羊が次々と出てきた。
杖の先から出た多くの白羊達が広場の人々をすり抜けて行く。
すり抜けられた人々は眠りに誘われて、そのまま眠りに落ちた。
イオリテと魔王ディスターの魔力は完全に互角になった。
二人は激しい攻防を繰り広げた。
イオリテは自分の両手で掴んだ一本の槍と宙に浮いた五本の槍を自在に操り、魔王ディスターを攻撃し続けた。
魔王ディスターは魔法のバリアを張り巡らせて、その巨体を少しも動かすことなくイオリテの攻撃をいなした。
追跡するエネルギー弾をいくつも生み出して、イオリテに向けて放った。
イオリテは槍でエネルギー弾を弾き飛ばした。
二人は次から次へと魔法を繰り広げ、激しく戦っていた。
魔王ディスターは突然戦いをやめて、重い口を開いた。
「強き者よ。そなたは何故戦うのか」
「おもしろいから。昨日勝てなかった相手に今日は勝つ。試行錯誤、それがおもしろい」
イオリテは言った。
「誰もそなたが勝つことを望んでいない。それでも勝とうとおもうのは世界を裏切る行為だとおもわぬか」
「俺は俺が勝つことを望んでる。俺が望んでいる以上誰も望んでいないというのは誤りだ。そんな世界は始めから存在しない。俺が負けようとおもうこと、それこそが俺の世界に対する裏切りだ」
「なるほど。どうやら我はそなたを買いかぶっていたようだ。この戦いを終わらせよう」
魔王ディスターはそう言うなり、身体の前に両手を出して構えた。
両手の掌から魔力が溢れて、巨大なエネルギーの塊をつくりだした。
「魔王ディスター、ありがとう。おかげで楽しかった」
イオリテはそう言うなり、六本の槍を魔法の力で一本の長い槍にした。
「愛してるぜ」
そう言ってイオリテは魔王ディスターの魔法に向かって飛びかかった。
お互いの魔力がぶつかって、ぶつかりあった魔力は衝撃波になって拡散した。
そのものすごい衝撃を僕は身体を伏せてしのいだ。
僕が顔を上げるとイオリテの槍が魔王ディスターを貫いているのがみえた。
魔王ディスターは浄化されて消えていった。
イオリテは力を使い果たしたのかその場で倒れた。
イオリテの槍はイオリテの手元にある一本を残して、すべて粉々に砕け散っていた。
イオリテの側に不吉な影がみえた。
ザントルスで魔王ディスターに食べられたモンスターがイオリテの槍を掴んで、イオリテに槍を突き刺そうとした。
僕は急いで杖を構えて魔法を放とうとした。
しかしすでに魔力は尽きていて魔法は放てなかった。
それでも僕は力を振り絞って魔法を放とうとした。
しかしなにもおこらなかった。
モンスターはイオリテを突き刺した。
突き刺されたイオリテは黒い炎で燃え始めた。
「俺が最強だ!!」
モンスターは雄叫びをあげた。
僕は杖でモンスターに飛びかかった。
杖はモンスターにぶつかった拍子に獅子放光弾を放った。
杖はモンスターにぶつかって折れた。
僕はモンスターに反撃されて、吹き飛ばされた。
モンスターはイオリテから槍を抜いて、僕を突き刺そうとした。
そのとき、飛ぶ斬撃がモンスターを切り裂いた。
斬撃の飛んで来た方向をみると、短剣を握ったイオリテが身体を少し起こした状態から倒れ込んだのがみえた。
モンスターはザントルスのコンテストでチャンピオンを襲撃した参加者と精霊石を残して浄化された。
僕はイオリテのところに走った。
燃え盛るイオリテを抱きかかえようとした。
「よせ。黒い炎は負のエネルギーを持っていて危険だ。私はもう助からない。無駄なことはするな」
イオリテはそう言って抱き寄せようとする僕を制した。
なおも近づこうとする僕に続けて言う。
「頼む、私を悲しませることをするな。この身体は燃え尽きるさだめなんだ。私が燃え尽きたら精霊石が出るはずだ。だがその精霊石は私達が探してきた精霊石とは別物だ」
「いま、そんな話どうでもいいだろう」
「イオリテの願いだ。大事な話なんだ。私がいなくなっても精霊石探しの旅は続けてほしい。そなた自身のために最後までやめないでほしい。そう願っている」
そう言い残してイオリテは燃え尽きた。
精霊石が一つ残された。
精霊石を掴むと微かに温もりを感じた。
その温もりはよく知っていた。
僕の中にある温もりとよくにていたから。
誰かが僕の涙を拭った気がした。
そのとき、僕は自分が泣いていたことに気づいた。
僕は夢の中にいる。
あのあと僕は精霊石を回収して拠点に帰ってベットに横たわった。
起きたらまた今日を繰り返し、違う結末を選ぶと心に決めて横たわった。
僕はいま夢の中にいる。
これが夢の中だということはわかる。
目の前に天使がいるから。
「自分の道を進んでね」
天使が言った。
突然、場面が変わってこのゲーム『幻想』のオープニングムービーが流れ始めた。
僕はただ眺めて、オープニングムービーが終わるのを待っていた。
オープニングムービーが終わってウインドウが表示された。
ウインドウには『冒険を始めますか』と表示されていた。
僕は目を覚ました。
僕は辺りを見回した。
イオリテはどこにもいなかった。
床には五つの精霊石が転がっていた。
僕の手のそばには一つの精霊石が置いてあった。
僕は街に出かけた。
ウェッタリドの街を歩いていると昨日の戦闘の跡があちこちにあった。
街のいろんなところがダメージを受けていた。
それでも街はいつもと変わりなくみえた。
気がついたらこないだイオリテがイオリテの人形を眺めていた武器屋のショーウィンドウの前に来ていた。
ショーウィンドウの中にはイオリテと同型の人形が並んでいた。
僕はショーウィンドウの外にいるイオリテに向かって答えた。
「ハイ」
と。
楽しんでいただけましたか。
毎週月、水、金曜日の午前7時頃に1話ずつ更新する予定です。
またお越しください。




