ウェッタリド 1
魔王ディスターはモンスターを食べ終えると黒い霧になって、より黒い霧の濃い方へと、ウェッタリドへと飛んで行った。
「まずいな。あの濃い黒い霧を魔王ディスターが全部吸収したら、手に負えなくなるぞ」
イオリテが言った。
「精霊石も吸収したんだろうか」
「その可能性が高そうだ。クソッ、この身体で勝てるのか」
「イオリテ?」
僕の呼びかけにイオリテは驚いたようだった。
「すまない。取り乱した」
「取り乱すほど強い相手なのかい」
「いまの状態で勝つのは難しいだろう。私の本来の武器が必要だ」
「どこに行けば手に入る」
「……」
「イオリテ?」
「……」
「きこえてる?」
「……。ウェッタリドの遺跡に……」
「ウェッタリドの遺跡。そんなところあったかな」
「南部にある」
「急いで行こう」
僕達は転送ボックスに急いで向かった。
転送ボックスからウェッタリドに行った。
ウェッタリドについて転送ボックスを出ると、上空に黒い霧が集まり少しずつ大きな顔のない物体を形成しているのがみえた。
僕達はウェッタリド東部から南部に急いで向かった。
僕達はウェッタリド南部城門近くにある遺跡についた。
採石場跡のような遺跡をしばらく行くと、コロシアムのような開けた場所に出た。
その中央に六本の槍が刺さっていた。
「どの槍を使うの」
僕はいかにもレアアイテムらしい槍をみながら言った。
「全部だ」
イオリテは六本の槍を集めながら言った。
六本の槍が合わさると、イオリテの身体では支えきれないほどの大きさになった。
「そんな状態でどうやって戦うのさ」
「問題ない」
槍を持つのに苦戦しながらイオリテは言った。
僕は槍を三本持った。
イオリテは僕をみてほほえんだ。
「全部同じ槍にみえるけど、違いがあるのかい」
「全部同じ槍だ。ドラゴンランス、竜騎士の槍といわれている。レアアイテムだから数に限りがある。使いやすくてお気に入りなんだ」
イオリテ・ブルーアワーに槍使いのイメージがなかったため、僕は少し驚いた。
上空で黒い霧が形成していた顔のない物体が僕達のいる場所からみて北の方に降り立とうとしているのがみえた。
僕達は北の方に向かって急いで歩いた。
中央広場に近づくと悲鳴がきこえた。
辺りは騒然としていて、広場に近づくのも難しかった。
騒ぎの中心に顔のない巨大な物体がみえた。
巨大な物体は西側の空に向かって魔法を放った。
巨大な物体が放った魔法は結界に穴を開けた。
結界に開いた穴から、ザントルスでチャンピオンを襲撃した参加者を食べた大きな顔が結界の中に入ってきた。
大きな顔はそのまま顔のない巨大な物体と合体した。
合体にともない強い衝撃波が放たれた。
僕達は飛ばされないように踏みとどまった。
広場にいた人々は吹き飛ばされ、その痛みや混乱によって、人々から黒い霧が大量に発生した。
「あれが魔王ディスター」
まるで正義の味方をおもわせる姿に僕は好感を抱いていた。
そういう感情を抱いたのは僕だけではなかったらしく、広場にいた人々はたちまち魔王ディスターに対して好意をあらわにするようになった。
広場は魔王ディスターを英雄として迎えた。
広場は歓喜の渦に包まれた。
「タリオ、槍を地面に置いて」
イオリテが僕に言った。
僕は槍を地面に置いた。
イオリテは一本の槍を右手で掴み、残りの五本の槍で地面に五角形をつくった。
精霊文字を詠唱した。
五本の槍は浮かび上がりまるで意思を持つかのように独立して魔王ディスターに襲いかかった。
イオリテは槍に続いて魔王ディスターに飛びかかった。
イオリテと魔王ディスターの激しい攻防が始まった。
僕はイオリテを援護するため杖を魔王ディスターに向けようとした。
だが何者かの手によって僕の腕は制された。
僕は僕を制する手の持ち主をみた。
そこには見知らぬ人がいた。
まったく特徴がなく、顔をみたまさにその瞬間に忘れてしまうような、そんな顔をしていた。
「君は誰。なんで邪魔するの」
「ひどいなぁ。僕を忘れちゃうなんて。まぁ、いいけど。一つだけ大事なことを君に教えてあげよう。邪魔をしているのは僕ではない。君なんだ。みてご覧よ。あの二人の楽しそうが顔を。彼等は戦うことでその存在を証明できるんだ。君とは違うのさ」
その男の喋り方に覚えがあった。
「デム?」
デムはほほえんだ。
「君はなんのために魔王ディスターを倒すつもりなんだ」
「そんなの魔王ディスターが悪いやつだからに決まってるだろう」
「君とイオリテは同じ考えなのかい」
「当たり前だろう。イオリテは世界を救うために戦っている」
僕がそう言うとデムは笑った。
「昔、王は神に近い存在だった。王を支える貴族や士族も同様に人の上に立つ存在であった。彼等はドラゴンや悪魔を倒して世界を守ったんだ。ときに王女を餌にして勇敢な戦士を傭った。そうやっていくつもの物語が生まれた。しかし、あるとき人々は疑問を抱いてしまったのさ。戦士達が世界を救うのは本当に世界のためなのだろうか。富、名声、権力、恋心あるいは下心のためなのだろうか。無条件に自分達の上に置いていたものが、自分達よりも卑しいものかもしれないと」
「その話にイオリテとなんの関係があるんだ」
僕は食い気味に怒鳴り込んだ。
「みてみなよ。誰が君のイオリテを応援してる。誰も彼も魔王ディスターを応援しているじゃないか。傍観者達の英雄は欲望や負のエネルギーを隠すことなく撒き散らしている魔王ディスターなのさ。誰も世界を救ってほしいなんておもってないんだ。それよりもイオリテが正義の味方になることが気に入らないんだ。正義の味方に富も名誉も権力も愛も与えるなと。ただ正義の味方が下心を出すことだけを望んでいるんだ。そのとき傍観者達は嘲笑でもって正義の味方の上に立つんだ。何もすることなく神になるのさ」
「君が何を言いたいのか分からない」
「分かりやすく言おう。君が杖を向ける相手は魔王ディスターでいいのかい。本当に向けたい相手は傍観者達じゃないのかい」
「そんなわけないだろう」
デムは呆れた顔をした。
「まぁいいさ。それなら別の話をしよう。君はイオリテが魔王ディスターに勝てるとおもうかい」
「分からない。だから援護するんだろう」
「それはやめた方がいい。イオリテは強い相手と戦うのが好きなんだ。邪魔するべきではない。しかし、このまま戦えば間違いなくイオリテは負けるだろう。なんで、そうおもっただろう。いいかい、全体のエネルギーをよ~くみてみるといい。魔王ディスターにエネルギーが集まっているのが分かるかい。傍観者達の応援エネルギーだ。どうだい、杖を向ける理由ができただろう」
デムが言うようにイオリテはいままでみた中で一番楽しそう表情を浮かべていた。
広場にいる人々から与えられるエネルギーで魔王ディスターは魔力が尽きることなく溢れていて、イオリテは徐々に劣勢になっているようにみえた。
「そんなことできるわけないだろう。罪もない人々を攻撃するなんて」
デムは腹を抱えて笑いだした。
「なるほど。どうやら僕は君に誤解を与えたようだ。僕が言っているのは君は君自身に杖を向けなくていいのかってことさ。君も傍観者だろう」
「僕は違う。僕はイオリテの負けを望んでいない」
「それならなんで援護なんだい。君が戦えばいいだろう。君は安全圏からしか攻撃できないのさ、自分が傷つくのが怖いからね。さっき君はイオリテが正義のために戦っていると言ったね。本当にそうみえたかい。僕には君と精霊石を集める冒険を続けるために戦っているように見えるぜ。君はイオリテを高尚な存在にすることで、君が安全圏にいることを正当化しているのさ」
「そんなことない。僕は……」
「心当たりがあるだろう。そんな君に朗報だ。そんな状況を簡単に解決してしまうアイテムがある。これがそれ。チーターのサイコロ。例えばいまの状況を変えようとおもったら傍観者達を洗脳して、イオリテの応援をさせればいいんだ。どうすればいいかってこれを転がすだけだ、簡単だろう。これがあれば君は簡単に主人公になれるんだ。手に入れるしかないだろう。ほら、受け取れよ」
デムはサイコロを僕に差し出した。
デムはなおも喋り続けた。
「君が君の物語の主人公になりないのならば、君は君自身を特別な存在にしないといけない。君が選べる選択肢は二つ、ハイかイイエだけだ」
デムの話に僕は戸惑った。
僕の戸惑いを察してデムはほほえんだ。
「さぁ、君の物語を始めよう。冒険の始まりはいつでも簡単な質問から始まるんだぜ。質問はこうだ。あなたは冒険を始めますか」
「ハイ」
僕は言った。
楽しんでいただけましたか。
毎週月、水、金曜日の午前7時頃に1話ずつ更新する予定です。
またお越しください。




