ドゥンゼーレ 1
ドゥンゼーレの街について、城門を通ってすぐに街の異様な雰囲気を感じた。
街のいたるところで人々が家の壁を黒く塗り替えていたのだ。
「何をやっているんですか」
僕は近くの人に尋ねた。
「みてわからないか。壁を塗っているんだ」
「なんでみんな壁を黒く塗っているんですか」
「王様がこの街の壁は黒いと言ったからだ。王様が嘘をつくはずがないだろ。だから壁が間違えているんだ。俺たちが壁に間違えを教えてやってるんだ」
「この街では壁が間違いをおかすことがあるんですか」
「壁に限った話じゃない王様以外のすべてが間違いをおかすんだ。王様は偉大だ」
僕はなんだか疲れてきた。
この世界のすべての街に城があり、すべて城下街という設定である。
この街以外では王は不在であり、この街が唯一の王によって治められてる街である。
この街には頻繁に通っていたが、いままでこんな異様な雰囲気だったことはなかった。
「この異変は精霊石のせいかな」
僕はイオリテに言った。
「その可能性が高そうだ」
「どうにかして王に会えないだろうか」
「侵入するか」
僕は首を振った。
「それは最後の手段にしよう。まずは慎重にいきたい」
僕達は王に会う方法を街の人達にきいてまわることにした。
わかったことは王は特別な用がないと一般人には会わないということ。
僕達は精霊石を餌にして会ってみることにきめた。
精霊石を持っていると伝えると案の定会うことができた。
僕は玉座の間で王と会うことになった。
「そちが余に精霊石をみせたがっているという若者か。早速みてやろう。みせるがよい」
兵士達が僕を取り囲み精霊石を出すように要求した。
僕は精霊石を一つ取り出した。
「そちが持っている精霊石はそれですべてか」
僕はうなずいた。
王はほほえんだ。
「誰か!!こやつを捕らえよ!!こやつは余の精霊石を盗んだ!!」
兵士はいっせいに僕を抑えつけて拘束した。
「余のものを盗むとはとんでもない悪党だ。
監獄に入れておけ」
兵士達はいっせいに僕を担いで運び出した。
僕は監獄に投げ入れられた。
監獄には多くの人がいた。
おもに囚人とそれを見張る看守など。
囚人達は十人ほどでグループをつくり花いちもんめをしている。
本当に監獄なのか疑わしくなるほどのどかな光景が広がっていた。
近くにどのグループにも属していない男がいたので、僕は話しかけた。
「なんのために花いちもんめなんかやってるんです」
大きな口髭を生やした男は驚いた表情をうかべて僕をみた。
「あんたは花いちもんめの本質を知らないのか?」
「本質。ただの子どもの遊びでしょ」
男は笑った。
「子どもの遊び。あれが子どもの遊びだと。よくみてみろ、囚人達の苦痛に歪んだあの顔を。あれは悪魔のゲームだ。永遠に繰り返されるお前は必要ないという言葉の蓄積。繰り返すうちにいつしか本気で信じてしまうのさ、私は必要ないと。自分の存在を否定するだけの目的で繰り返されるあの儀式が子どもの遊びだと。あんた正気か」
男の熱量に僕は驚いた。
僕は何も言えなかった。
「ジョテ、俺の名前だ。彼らみたいになりたくなければ俺の言うことに従ったほうがいい。いくぞ。ついてこい」
ジョテは僕についてくるように手で促した。
僕はジョテについていった。
ジョテは獄舎の中に入っていった。
獄舎の中は複雑に通路が入り組んでいてジョテとはぐれたら二度と外に出られないんじゃないかとおもえた。
ジョテはどんどんと奥に入って進んでいった。
「どこまで行くんだ。君は何者。なんで君は他の囚人達と違って自由に行動できるの。この先に何があるの」
僕は歩きながら少しずつ尋ねた。
ジョテは何も答えなかった。
しばらく歩いてからジョテは立ち止まった。
「ここまでくれば大丈夫だろう。あんたの質問に答えよう。なぜ俺が自由に行動できるか、俺が自由だからだ。何者も俺を縛ることなどできないのさ。俺が何者かだって、俺はジョテそれ以外の何者でもない。あえて言うなら世界を守るナイトさ。このさきに何があるか、希望だ。この世界の希望だよ。あんたには感じないのか、この溢れるばかりの希望の光を。さあ、会いに行くぞ俺達の希望に」
ジョテはそう言うなりまた歩きだした。
僕はついていった。
通路は監獄の外に繋がっていた。
「脱走したら騒ぎになるんじゃない」
「気にするな、たいしたことじゃない。脱走騒ぎはしょっちゅう起こっている。いまさら誰も気にしないだろう」
監獄内で鐘が鳴り響いているのがきこえた。
「なんで僕を連れ出したの」
「愚問。あんたにはその価値がある。あんたはあんたの価値を信じてないのか」
ジョテの言葉に僕は微笑んだ。
それをみてジョテはそうだろと言って微笑んだ。
「ここだ。ここに俺達の希望がいる」
ジョテはそう言って森の中に隠れるように建っている家の中に入っていった。
僕も中に入った。
家の中に入るとイスに座った若い上品な男にジョテは跪いて何か話していた。
「跪け!!畏れ多くもキュイ王殿下の御前であるぞ!!」
ジョテは僕に向かって叫んだ。
僕は慌てて跪いた。
「良い。楽にいたせ」
キュイ王は言った。
「殿下、この者ならば必ずや玉座の奪還に役立つでしょう。さぁ、我らにお命じください。命の限り戦えと」
ジョテは涙ながらに訴えた。
僕はついてきたことを後悔した。
「そなたのような忠臣に恵まれて余は幸せだ。いざ、行くぞ、ついて参れ」
キュイ王はそう言って監獄に向かって歩きだした。
ジョテは僕を連れて王に続いた。
監獄の広場につくと、鳴り響く鐘の音に広場は混乱していた。
囚人も看守も兵士も誰もが自分がどこに行けばいいのか分からずに戸惑っていた。
王は広場の中央に進むと、その場で両手を天に広げて詠唱を唱えた。
「天よ!! 喜びの雨を降り注げ!!」
王がそう言うとたちまち雨が降り注いだ。
雨に打たれた人々は歓喜に震え、たちまち王にひれ伏した。
「皆、立ちあがれ!! 喜びを広げるぞ!!」
王がそう言うと人々は監獄を出て城へと向かった。
僕はその光景にただ圧倒された。
そして、僕は何のためにジョテに連れられて王にあったのだろうかと考えていた。
僕がいなくてもこの光景に変わりはなかったはずだ。
「たった一人でも自分の帰りを待っている民がいる。そのおもいがキュイ王殿下の心を動かし自信を取り戻させた。あんたがいないとこの光景は起こらなかった」
ジョテが言った。
僕は驚いてジョテをみた。
「心の声に反応されて驚いたか。俺には心の声がきこえる。あんたの心は筒抜けだ。あんまり自分を疑うな、心が悲しんでいる」
僕は心に謝った。
人々は城門を通り、城下街を通過して城に向かった。
城に通じる城門の前では王に従う人々が立ちすくみ戸惑っていた。
城門の屋上には偽王がいて、そこから人々に魔法をかけていた。
「余は世界のすべてであり、余に逆らうと言う事は神に逆らうと言う事だ。下々のものたちよ。なにゆえ、神に逆らうのだ」
キュイ王は進み出て人々に向かって、キュイ王をみるように身体で促した。
「余は世界のすべてであり、余に従うと言う事は神に従うと言う事だ。同胞よ、なにゆえ、神の祝福を受けようとしないのだ」
キュイ王の魔法をきくと、人々はたちまち城門を開けるべく動きだした。
人々の城門を押す力に耐えられず城門は開いた。
楽しんでいただけましたか。
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