スプリッチャリ 2
ドラゴンはスプリッチャリの方に飛んで行った。
妖精は気を失って川に落ちた。
僕達は妖精を川から救い出し、妖精が目覚めるのを待っていた。
妖精が目覚め、僕達は妖精に事情を尋ねた。
「僕が呪いをかけたのは、たしかに外套に操られたせいもある。数年前から関係性がうまくいってなかったから、そこの部分が外套の力で強く出た気がする」
妖精は言った。
「なんであの外套を着てたの」
僕は言った。
「お供えしてあったんだ。何も考えないで着たのは軽率だったとおもってる。だけど僕の気持ちも考えてほしいよ。呪いのアイテムがお供えされてるなんておもうかい。そんなことを考えるなんてよっぽどの人間不信に陥ってる状態だろ。ましてあの外套はドラゴンを封印したものだぜ。あれをお供えしたやつは相当悪意に満ちてるぜ」
妖精はすこし怒ったように言った。
「危険なものだから君に預かってほしかったんじゃないかな」
「なるほど、そういう考え方もあったか」
妖精は機嫌が良くなった。
「それであのドラゴンがどこに飛んて行ったがわかるかい」
僕は言った。
「スプリッチャリ辺りじゃないかな。数年前にもその辺りで暴れていたし」
「数年前?」
「そう、僕と街の人間がうまくいかなくなった原因さ。信じられる。あの街の人間達は僕にドラゴンを倒せって言うんだぜ。僕に倒せるわけないから、のらりくらりとうまくやり過ごしてたんだ。だけどそのうちしびれを切らした街の人間達に一人でドラゴンを退治するように強制されたってわけ。それで逃げたんだ。しばらくするとドラゴンが退治されたってきいたから、街にかえったら祠が湿原に捨てられていたんだ。頭にくるだろ」
妖精は怒っていた。
「ドラゴンは誰が倒したの」
「街の人間は竜騎士って呼んでたな。この話もひどいんだぜ。竜騎士がドラゴンを退治する前後は英雄扱いしていたのに、ドラゴンの再生力がすごくて倒しきれなかったから封印したってわかった途端に、手のひらを返して役立たず扱いしたんだと」
妖精は呆れたように言った。
「そろそろ僕達は行くよ」
僕とイオリテは立ち上がった。
「まさかスプリッチャリの街を助けに行くとか言わないよね」
「そのまさかさ」
「僕の話きいてた」
妖精は信じられないといった表情で僕をみた。
「ドラゴンが暴れているなら倒さないと」
「なんで?」
「スプリッチャリの街の人達が困るだろう」
「ドラゴンが傷つくのは許されるの?」
その質問に僕は返事に困った。
「ドラゴンが先に街の人達に手を出したのが悪いんじゃないの」
「それは違うね。ここはもともとドラゴンの住む土地だよ。人間があとから住みだしたんだ。そしてドラゴンを追い出した」
「ドラゴンは黒い霧でできたただのエネルギー体じゃないか」
僕の答えに妖精は狂ったように笑った。
「なるほど。僕は川に棄てられるはずだ。人間からみれば僕は生きていないのか」
「君の話じゃないだろう。いまはドラゴンの話をしているじゃないか」
「同じだよ。僕もただのエネルギー体だ。彼もそうだろ。人形に身を宿したただのエネルギー」
妖精はイオリテを指さして言った。
妖精は口元だけ微笑んで僕についてくるように言った。
僕達はついていった。
「ここにバグがある。ここからスプリッチャリの街の中に行くといい。助けてもらったことには礼を言う。さよならだ、もう二度と会うこともないだろ」
妖精は湿原の草の茂みを指さして言った。
妖精は消えた。
僕達は妖精が指さしていた場所に行った。
僕達はいつの間にかスプリッチャリの街の宿屋の近くの路地の脇にいた。
遠くでドラゴンの咆哮がきこえた。
こんなところが湿原に繋がっているなんてと驚きながら、ドラゴンの咆哮がきこえた方角へ向かった。
ドラゴンのところに走りながら、僕は妖精の言っていたことを考えていた。
ドラゴンを退治していいのだろうか、その疑問がどんどん大きくなった。
城壁の上にはドラゴンと戦っている人達がいる。
僕達は加勢してドラゴンと戦った。
ドラゴンは翼を斬られ地面に落ちた。
人々はいっせいに致命傷を与えるために群がった。
ドラゴンはみるも無惨な姿になった。
次第にドラゴンの姿は消えはじめた。
あとには呪いの衣が残された。
人々はその衣もボロボロに切り刻んだ。
衣の切れ端は風に吹かれて僕の身体に引っかかった。
僕は切れ端を掴んだ。
かすかに温もりを感じた。
街はドラゴンを退治したことでお祭り騒ぎになっていた。
僕はただその賑わいに居心地の悪さを感じた。
突然、僕は妖精の祠を川から救っていないことをおもいだした。
僕達はバグのポイントから湿原に向かった。
辺りは暗くなって草むらは不気味にゆれた。
川の側まで行くとさっき祠を救うために草に結んで流されないようにしたロープをみつけた。
僕達は祠を川から出すためにロープを引っ張った。
祠は重くてなかなか引き上げられなかった。
それでも僕達はロープを引っ張った。
急に祠が動き出した。
僕はイオリテの方を向いてこの調子で頑張ろうと言おうとおもったら、いつの間にか妖精が一緒にロープを引っ張っていた。
僕達はそのままロープを引っ張って、ついに川から祠を救い出した。
僕は喜びを分かち合おうとイオリテと妖精の方を向いたが、妖精はもうそこにはいなかった。
イオリテは祠を指さした。
僕は祠をみた。
すると祠の中に光輝く精霊石がみえた。
僕は精霊石を掴んだ。
「フェクダ」
イオリテは精霊石に書いてある精霊文字を読んで言った。
僕達はテルメガングの街に行って、転送ボックスでウェッタリドに帰った。
僕が拠点で横になって寝てるとき、耳元で声がきこえた気がした。
ドラゴンは死ぬ必要があったのだろうか。 僕は身体を起こして辺りを見回した。
そばにいたのは横になって寝ているイオリテだけだった。
「スプリッチャリの街の本当のバグが何かわかるかい」
まるで音声合成ソフトのような声が語りかけてきた。
「湿原と繋がっているバグだろう」
僕は辺りを見回しながら言った。
「あのドラゴンはモンスターじゃなくてNPCなんだ。スプリッチャリの守り神という役割を与えられたドラゴン。本来なら敵ではないんだ」
「それならなんで街を襲ったんだ」
「妖精の呪いさ。精霊石の強すぎるエネルギーが悪さをした。妖精は強すぎるエネルギーに自分をみうしなった。だから祠ごと妖精を川に沈めたのさ」
「竜騎士。君は竜騎士なのかい」
「わかるかい。君は正しいことをしようとおもって行動した。結果として正しさとは正反対の行動をとったんだ」
「それならどうすればよかったのさ」
なんの反応もなかった。
もう竜騎士はここにいない、そう感じた。
僕の声にイオリテは目を覚ました。
「何かあったのか」
イオリテが言った。
僕は首を振った。
僕は精霊石のありかを書いたメモをみて次の目的地を調べた。
そこにはドゥンゼーレの名前があった。
僕とイオリテはウェッタリドの街で旅に必要なものを揃えて準備した。
翌日、僕達はドゥンゼーレに向かって出発した。
いくつかの街を通って泊まったり休んだりして、五日後にドゥンゼーレにたどり着いた。
楽しんでいただけましたか。
毎週月、水、金曜日の午前7時頃に1話ずつ更新する予定です。
またお越しください。




