ランディンガング 2
僕達はすぐに支度を済ませて城門へと向かった。
「城門を壊そうとしてもすぐに修復されるのに、どうやって壊すつもりなの」
「簡単なことだ。修復するより早く壊せばいい。短期勝負だ」
イオリテは自信満々に言った。
城壁についた僕達はさっそく武器を構えて、城壁の壊したい部分に目印をつけた。
僕達はいっせいにエネルギーを最大まで込めた魔法を目印に向けて放った。
城壁には大きな穴が開いた。
僕達は急いで穴の外に出ることにした。
まずはイオリテを穴の外に出した。
続いて僕も穴の外に出ようとした。
突然、身体が後ろに引っ張られた。
デ厶が僕の襟首を引っ張っていた。
イオリテが穴を通って街の中に戻ろうとしたが、デ厶が左手を振るとイオリテは穴の外に吹き飛ばされた。
「ヒーローは必要ない。この街では誰もが自分を自分で救わないといけない。あんたの出る幕じゃない。わかるかい、ヒーロー。君にこの少年は救えない。さよならだ」
デ厶はイオリテにそう言ってから、バイバイと手を振った。
「なんのために邪魔をするんだ」
僕は襟首を掴んでいるデ厶の手を振り払って身構えてから言った。
「ノー。僕は邪魔してないだろ。あんたを助けてあげたじゃないか。忘れたのか。あんたはまだこの街でしなきゃいけないことをしてないだろ。それとも諦めて帰るかい。それじゃああんたは永遠に少年のままさ。あんたが杖を向けなきゃいけない相手はあんた自身さ、『なんのために邪魔をするんだ』ってね」
デ厶は笑いながら消えた。
僕には何が起こったのか理解できなかった。
一つだけ彼は正しいことを言っていた。
僕がランディンガングの街に来たのは、精霊石をみつけるためだ。
大事なことを忘れていた。
僕がこの街で探さなければいけないことは、この街から脱出する方法ではなくて、精霊石を探すことだった。
いつの間に目的が変わったんだろう。
僕は一人で精霊石をみつけられるんだろうか。
どこを探せばいいんだ。
次から次へと不安や疑問が頭に浮かんで来た。
僕はイオリテと引き離されていなければ、イオリテが居ただろうとおもえる場所を眺めた。
僕は一人で精霊石をみつけられるだろうかときいた。
イオリテはきっとほほえんで問題ないって言うだろう。
僕は僕ならできる気がした。
僕は精霊石の手がかりを求めて街を探索することにした。
探索してみて気がついたのは、僕達はここ数日の間城壁に気をとられすぎていた。
どこにいても目に入るあの城壁に知らず知らず意識が向くのだ。
街の人達の会話は常に上に意識が向かっている。
この街では常に意識を上に向けないといけない気持ちにさせられるのだ。
下を向けばいいのだろうか。
僕は下を向きながらランディンガングの街を探索することにした。
しばらく歩いていると道に不思議な模様があることに気がついた。
注意して目を凝らさないとみつけられないほどかすかな模様だった。
その模様の全容をみようとおもい、街全体を見下ろせる高い建物を探した。
残念ながら高い建物は見当たらなかった。
しばらく街全体の位置関係を意識しながら歩いてみて気がついたのは、ランディンガングの街は中心部から放射状に道が広がっているということ。
なんでいままで気がつかなかったのか不思議におもった。
街の中心部には円柱状の建物が存在感を感じさせないように建っていた。
僕はしばらく円柱状の建物に沿って歩きながら、城門に向かって放射状に伸びる道を眺めていた。
僕は僕がこの街を探索していたときに感じた違和感に気がついた。
放射状に伸びる道沿いにある建物が、すべての通りでコピーしたように同じなのだ。
不意に僕は宿屋の中を確認したくなり、すべての通りの宿屋の中を確認するため走った。
結果は予想通りだった。
内装も店主もまったく同じだった。
僕が感じたこの街の違和感に答えがでた。
僕は空をみた。
今頃気がついたことがあった。
この街に来てから、僕は一度も太陽をみていない。
そんなことがあるだろうか。
太陽はいつだって僕の真上に登ってきた。
この世界でだってそれは変わらなかった。
僕は杖を真上に向けて構えた。
「突き刺せ!! 金牛砕角弾!!」
僕は魔法を放った。
杖から出た魔法は金色の角になり、そのまま空に突き刺さった。
空に刺さった角はまるで太陽のように光った。
僕がみていた空は空ではなかった。
視線を道の果て、城壁に向けると空間が歪んでみえた。
次の瞬間、空間の歪みが消えて城門が現れた。
僕は急いで杖を構え、魔法を放った。
開いた扉の隙間に魔法の角が入り込んだ。
城門からイオリテが街に入って来た。
イオリテは僕の魔法に気がつくと、僕の意図をくみ取って扉が閉まらないように、両手で扉が閉まるのを防いだ。
突然、地面に描かれていた模様が赤く輝き街中にけたたましい騒音が流れた。
空は赤く点滅し、鐘とラッパの音が鳴り響いた。
「緊急事態!! 緊急事態!! 異端を排除せよ!!」
ブリキのおもちゃの兵隊みたいなものが大量に城壁から落ちて、城門を開き続けているイオリテの方へと向かった。
僕はイオリテに向かって杖を構えた。
「弾き飛べ!! 宝瓶反攻壁!!」
僕が放った光の壁はイオリテに当たって、イオリテを弾き飛ばした。
城門は僕が具現化した金色の角を壊して扉を閉めた。
扉が閉まるとたちまちすべてが収まった。
街はすっかり暗くなり、僕は宿屋のベッドで横になっていた。
さっき起こった出来事を整理しようと頭をひねっていた。
考えれば考えるほど、堂々巡りしてただ考えてるふりをしているだけのような気がしてきた。
僕はベッドから起きあがり、窓の外をみてみた。
僕が昼間突き刺した角はいつの間にか消えていた。
生きてる?
不意にこの街は生きてるんじゃないかとおもえてきた。
街が一つの意思を持つことなんてあるんだろうか。
もしこの街全体に張り巡らされたなにかに精霊石が宿っていたとしたら、あり得るかもしれない。
そうおもうと急に睡魔が襲ってきた。
僕は寝た。
突然、目が覚めた。
僕は起きるなり窓にむかった。
窓の外をみるとこの街の秘密に気がついた。
家も道も城壁もすべて一枚岩でつくったかのように接着面を持たずに繋がっているのだ。
この街は一つの物体だ。
この街の心臓に当たる場所にきっと精霊石はある。
そう確信した。
街の中心部にある円柱状の建物が目に入った。
僕はすぐに支度して飛び出した。
円柱状の建物につくなり入り口を探した。
何周してみてもドアはみつからなかった。
普通の建物の二階に当たる部分に窓が放射状に伸びるすべての道の直線上についている。
まるで監視塔のようだ。
僕は近くにある酒屋の前に置いてある酒樽を三つ運んできて、階段状に積んだ。
階段状に積んだ酒樽を登り、僕は窓から中に入ろうとした。
窓には鍵がかかっているのかまったく開きそうになかった。
仕方ないので壊すことにした。
僕が杖を窓に向かって構えると、地面の模様が赤く光輝いた。
警報システムが作動したらしい。
けたたましい騒音と大量の兵士が僕をめがけて突き進んできた。
楽しんでいただけましたか。
毎週月、水、金曜日の午前7時頃に1話ずつ更新する予定です。
またお越しください。




