ランディンガング 1
僕達はランディンガングを目指して出発した。
二日後、僕達はランディンガングについた。
空にも届きそうなほど不要に高くそびえ立つ城壁に囲まれた街、人間の十倍はある巨人が通るために作られたんじゃないかとおもうほど不要に大きい城門。
この街を前に僕は小人になった気がした。
僕達は城門を通った。
何事もなく通ることができた。
街に入ると街のいたるところで言い争うような声がきこえた。
僕が一歩前に踏みだしたとき後ろでガシャンっとまるで鍵をかけるような音がきこえた。
僕はすぐに振り向いた。
いままであったはずの城門が、いままさに通ったばかりの城門がなくなった。
はじめから城門などなかったかのように城壁はそこに存在していた。
「消えた……」
わかってはいたが驚いて僕はおもわずつぶやいた。
「ランディンガングへようこそ。僕の名前はデム。こんなときにこの街に来るなんて、あんた運悪いな。いや、運がいいのかもしれない」
まるでピエロのように奇妙な服装をした人が話かけてきた。
僕が警戒していることを察すると彼は話を続けた。
「この街はご覧の通り奇妙な現象に苦しめられているというわけだ。この街にいる人間はどいつもこいつも気が狂っている。『空が青いのが気にいらない。それは間違っている、空が青いのお前が空が青いとおもっているからだからお前が気にいらないのは空が青いとおもったいるお前自身だ。それは間違っている、お前が気にいらないことを言うからなおさら気にいらなくなる。それは間違っている、もともと全部気にいらないのさ。それは間違っている、気にいるものもある。それは間違っている、気にいるものがあるならそれを証明してみろ』 そんなのが延々と続くわけだ。まともな人間も知らず知らずに気が狂っていく。あんたもそのなりたくなければこの街には近づかないことだな。もう手遅れだけど」
そう言うなり彼は笑いながら消えた。
僕はゾッとして立ちすくんだ。
「この街にいて大丈夫だろうか」
「彼らには出口がみえないから気が狂う。私達には出口がみえている。問題ない。疑うな」
イオリテはそう言って僕に進むように促した。
僕達は出口がなくなる現象を解決する手がかりになりそうなものを探して、街を探索することにした。
街ではいたるところで言い争いがおこっていて、歩き回っているだけできこうとしなくても嫌でも言い争う声が耳に入ってきた。
こんな環境にいると僕まで気が狂いそうになる。
「大丈夫か」
イオリテが心配しながら言った。
「ありがとう。なんでもいいから早く手がかりをみつけないと」
「私達はすでに一つ手がかりをつかんでいる」
「いつの間に!!」
僕は驚いて言った。
「以前城門が消える現象にあった人達の話だと、彼らはいつその現象が解消したのかを知らないみたいだった。つまり人気のない場所か人気のない時間がこの現象の解消に必要な要素なのかもしれない」
イオリテは僕の肩に登って話を続けた。
「この喧騒がそなたの気持ちを乱すのなら私が耳を塞ごう。焦るべきではない。私達は常気持ちを落ち着かせるべきだ」
そう言って僕の耳を塞いだ。
結局この日、僕達はなんの手がかりも得られないまま宿屋に泊まった。
翌日、まだ夜も明けきらないうちから僕達は探索をはじめた。
人気のない街並は昨日とは違う印象を僕に与えた。
日が暮れるまで探索したが何も手がかりになりそうなものはみつからなかった。
街の人達は昨日は誰もが空の話をしていたのに、今日はみんな鳥の話しかしなかった。
僕達は宿屋に泊まって寝た。
さらに翌日も、まだ夜も明けきらないうちから僕達は探索をはじめた。
人気のない街並は昨日とも一昨日とも違う印象を僕に与えた。
日が暮れるまで探索したが何も手がかりになりそうなものはみつからなかった。
街の人達は昨日は誰もが鳥の話をしていたのに、今日はみんな雲の話しかしなかった。
僕達は宿屋に泊まって寝た。
さらに翌日も、まだ夜も明けきらないうちから僕達は探索をはじめた。
人気のない街並は昨日とも一昨日とも一昨昨日とも違う印象を僕に与えた。
「なにかおかしくないかい」
僕の声は夜更けの街に響いた。
「何かがおかしい」
イオリテは僕の意見に同意した。
だが僕達は何がおかしいのかを説明できなかった。
日が暮れるまで探索したが何も手がかりになりそうなものはみつからなかった。
街の人達は昨日は誰もが雲の話をしていたのに、今日はみんな太陽の話しかしなかった。
僕達は宿屋に泊まって寝た。
「なんでみんな上ばかりみているんだろう」
不意に僕はつぶやいた。
上をみる意味はなんだろうか。
「ねぇ、城壁って乗り越えられないかな」
自分でも驚くほど突拍子もない考えが浮かんだ。
「面白い発想だ。たしかに私達は城門から外に出ることに囚われすぎていたようだ。何か方法を探してみよう」
イオリテは横になったまま僕の方をみて言った。
今日も、まだ夜も明けきらないうちから僕達は探索をはじめた。
人気のない街並は毎日、違う印象を僕に与えた。
なんでこんなに印象が変わるのか、それが不思議だった。
僕達は城壁を飛び越えるために近くの城壁まで行った。
城壁はどこも同じ高さだったので、乗り越えられるか試す場所はどこでもよかった。
城壁は僕が百人いても届かないんじゃないかとおもえるほど高くそびえていた。
「これ本当に乗り越えられるかな」
イオリテは珍しく何も応えてくれなかった。
イオリテは城壁を登りだした。
掴めそうなところが一切ないほど綺麗な真っ平らにつくられた城壁は、よじ登ろうとするものをいとも簡単に払い落とした。
イオリテは魔法を城壁に向かって使った。
城壁は傷ついたが、みるみるうちに傷は修復されていった。
「どうやら乗り越えるのは無理そうだ」
イオリテは諦め顔で言った。
城壁はあまりにも高かった。
僕達は他に方法がないか日が暮れるまで探索したが、何も手がかりになりそうなものはみつからなかった。
街の人達は昨日は誰もが太陽の話をしていたのに、今日はみんな虹の話しかしなかった。
僕達は宿屋に泊まって寝た。
「話したいことがあるんだ」
僕はベッドに横になったままイオリテに言った。
イオリテはベッドに横になったまま僕の方を向いた。
「街の様子が毎日少し違う気がするんだ。具体的にどこがどういうふうに変わっているのか分からないけど、重要な手がかりな気がする」
「重要かもしれないし、重要じゃないかもしれない。それを判断するのはあんたか、それとも神か、それとも他の誰かか」
突然現れたデ厶を言った。
僕とイオリテは起き上がり武器を構えた。
「そんなに怖がらないで。僕は弱いんだ。あんたらに敵意を向けられたら怖くて怖くて泣いちゃうよ」
デ厶は窓のそばまで歩いて行った。
窓を開けると身を乗り出して言った。
「よくみてご覧。あの高い壁を。みんな同じ。あの高い壁の前ではみんな同じなんだ」
彼はそう言って消えた。
僕はゾッとして怯んだ。
イオリテも僕と同じように気味悪がっているんだろうかとおもい、顔を覗いてみた。
イオリテは笑っていた。
「なんで笑ってるの?」
「彼はとてもいい手がかりをくれた。私達は間違えていたのだ。城門がないのに城門を探し、越えることのできない城壁を越えようとした。もっと簡単に考えるべきだったのだ」
「どうするの」
僕は期待に溢れる声で言った。
「壁を壊せばいい」
イオリテは自信に満ちた顔で言った。
楽しんでいただけましたか。
毎週月、水、金曜日の午前7時頃に1話ずつ更新する予定です。
またお越しください。




