クリッジ 3
僕達は昨夜ハンガジンと戦った場所で、ハンガジンが現れるまで待つことにした。
しばらく待ってもなかなかハンガジンはあらわれず、もしかしたら今夜はあらわれないのかもしれないとおもった。
巨神像はこわばった表情をしているようにみえた。
不意にイオリテは短剣を抜き身構えた。
「囲まれてる」
イオリテは僕に身構えるように促しながら言った。
僕は杖を構えた。
闇の中から狼が襲いかかってきた。
「射貫け!! 人馬追撃弾!!」
僕は叫んだ。
杖から出た光の弾が次から次にモンスターを射貫いた。
この魔法は狙った対象を目がけて飛んでいく光の弾を放つ。
ハンガジンの分身はすべて同一個体とみなされて、一発の弾が次から次へと貫通して分身を倒していく。
イオリテも次から次へとモンスターを斬り裂いていく。
どんどん増えていくモンスターを次々に倒し続けた。
僕は肩で息をするくらい疲れ果てていた。
それでもモンスターはまだたくさんいた。
僕はイオリテをみた。
イオリテも疲れているようにみえた。
イオリテと目があった。
「モンスターの増え方が遅くなっているのに気がついたか。私達が疲れているようにハンガジンも消耗している。もう少しだ」
イオリテはそう言って僕を励ました。
僕は視野を広くするように心がけた。
モンスター達をみわたすとイオリテの言うように、僕達がモンスターを倒すスピードに
モンスターの増加するスピードがついていけてないようにみえた。
もう少しだ。
そうおもうと呼吸が整った。
「危ない!!」
突然、イオリテは叫びながら僕に飛び込んで、僕を押し倒した。
僕の後ろ側から僕のいた空間を喰らうように魔法の弾が飛んでいた。
「あれがハンガジンだ」
僕の上に乗っていたイオリテが魔法の飛んて来た方をみて言った。
僕も魔法の飛んで来た方をみた。
そこには二本足で立つ狼がいた。
そこにいた狼は次第にその姿を変えていった。
周りにいた分身は霧になりハンガジンの口の中に戻っていった。
ハンガジンはどんどんと膨らんでいった。
まるでボールに大きな口と手足をつけたような姿に変貌した。
強そうにみえないその姿に僕はほっとした。
イオリテは立ち上がり身構えた。
僕も立ち上がり身構えた。
「気を引き締めて。ハンガジンはあの出で立ちで俊敏だ。油断したら喰われる」
ハンガジンは俊敏に襲いかかって来た。
僕達は回避した。
イオリテはそのまま反撃した。
僕はハンガジンと距離をとった。
イオリテとハンガジンはそのまま激しい攻防を繰り広げた。
攻防はしばらく続いた。
イオリテもハンガジンも次第に疲れが見えて、攻防が中断しがちになった。
僕は隙をみてハンガジンに魔法を使おうとおもっていた。
そんな僕の考えが伝わったのか、イオリテは首を振りながら左手で僕を制止するように動かした。
イオリテの意識が僕に向いて隙ができた。
ハンガジンはその隙を逃さずにイオリテに襲いかかった。
イオリテはハンガジンの攻撃を回避した。
「タリオ!!いまだ!!」
イオリテの叫び声をきっかけに僕は魔法を使った。
「射貫け!! 人馬追撃弾!!」
僕が魔法を使ったのをみるなりイオリテはハンガジンを斬り裂いた。
放った光の弾はたったいまイオリテが斬り裂いたハンガジンを無視して近くの林の中へ飛んて行った。
「追うぞ!!」
イオリテはそう言って走りだした。
僕も走りだした。
林の中に飛んでいった光の弾は木の影に隠れたハンガジンに当たると衝撃を放った。
衝撃に怯んだハンガジンをイオリテは斬り裂いた。
ハンガジンは浄化されて、通常の魔石の十倍はある魔石を残して消えた。
僕は拳よりもすこし大きい魔石を拾った。
魔石には文字のような模様が描かれていた。
「精霊文字だ。ドゥーベ、そう書かれている。この魔石が私達が探していた精霊石で間違いなさそうだ」
イオリテは僕の横から精霊石を覗き込んで言った。
「これが精霊石……」
僕は身体が疲れを訴えているのに気がついた。
精霊石をリュックにしまって、リュックを抱きかかえるて横になった。
僕達はそのまま朝まで眠った。
僕達は転送ボックスで拠点に戻るためクリッジの街に戻った。
巨神像は微笑んでいるようにみえた。
僕は立ち止まってしばらく巨神像をみていた。
イオリテも僕と同じように巨神像をみてから、僕の顔を覗き込んだ。
「巨神像が気になるのか」
「すこしね。表情や雰囲気がひんぱんに変わってる気がして不思議なんだ」
「それ自体をみているのか、みえてるものをみているのか、みようとしているものをみているのか。私達がそれを判別するのは難しい。すべて目に映るものでしかないのだから」
イオリテはそう言って微笑んだ。
僕も微笑んだ。
僕達は転送ボックスでウェッタリドに行った。
僕達は拠点に帰って次の旅の準備をすることにした。
「次の目的地は」
イオリテが言った。
「次は……。ランディンガングか……」
僕はメモをみながら言った。
「ランディンガング……。憂鬱な気持ちになる街ではなかったと記憶しているが。なにかあったのか」
イオリテは心配そうに言った。
「ランディンガングは不具合の街と呼ばれているんだ。ランディンガングに入ると城門と転送ボックスが消えて、街の外に出られなくなった人が多いんだ。ログアウトはできたみたいだからそこまで大きな問題にはならなかったみたいだけど。なかには一年以上ランディンガングから出られなかったプレイヤーもいたみたい。そんな訳でプレイヤー達の間では、閉じ込められたくなければ絶対にランディンガングの街に入るなっていわれてる。
僕が直接被害を受けた訳ではないけど、僕もランディンガングの街に入るときには慎重に情報を集めてから街に入ったんだ」
僕の話を聞いてイオリテはうなずきながら言った。
「その現象は精霊石と関係ありそうだな」
「そうか!! エクリプスが精霊石を回収したから不具合が直ったのか。もし僕達がランディンガングの街に閉じ込められたら、その時は精霊石を手に入れられるかもしれないっことか」
「そうとは限らない。エクリプスが街の中で精霊石を手に入れいたのか、それとも外で手にいれたのか。それはまだわからない。いずれにしてもその現象と何らかの関連性がありそうだ」
「ランディンガングに入る前に周辺の街でしっかり情報を集めた方が良さそうだね」
僕達は旅の準備を整えて、翌日クリッジの街からランディンガングに向けて出発した。
途中いくつもの街に寄って休んで泊まって、八日目にフェレンデの街についた。
ランディンガングに一番近い大きな街フェレンデ。
情報を集めるならこの街が一番向いてるとおもい、しばらくこの街で情報を集めることにした。
いろいろな人に話をきいて、興味深い内容だった話が二つあった。
一つめは、四年前にフェレンデの街の近くにあるダンジョンの深層階に隠し部屋がみつかったこと。
その隠し部屋には宝箱があり、中には何も入っていなかったことでまったく話題にならなかった。
二つめは、ログアウトできなくなってからランディンガングに行った人達が誰も戻って来ないこと。
ランディンガングの街の様子をみに行った人達の話だと外からだとなんの異変も確認できなかったらしい。
この二つの話から僕達は、フェレンデの街の近くにあるダンジョンの深層階に隠してあった宝箱に入れるはずだった精霊石がランディンガングの街に悪影響を与えていると考えた。
街の中に入らないことには異変と向きあうことができないことがわかった。
僕達はランディンガングの街に行くことに決めた。
楽しんでいただけましたか。
毎週月、水、金曜日の午前7時頃に1話ずつ更新する予定です。
またお越しください。




