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幻想解放  作者: 佑貴早純
10/25

クリッジ 2

「こっちに来い!!」

 突然、身体が宙に浮きどこかに引っ張られた。

 しばらくすると身体が地面に叩きつけられた。

 服を引っ張られて起こされた。

「ばかやろう!! 死にたいのか!!」

 僕が目を開けるとフラッグマンの顔が近くにあった。

 フラッグマンは僕の服から手を放した。

「死にたくないならついて来い!!」

 僕はイオリテを探した。

 イオリテはフラッグマンに掴まれていた。

 僕はフラッグマンのあとをついていった。




 フラッグマンは洞窟の中に入った。

 僕もあとに続いた。

 洞窟に入ると入り口に結界が張ってあるのに気がついた。

 洞窟の中は入り口付近がひらけていて木でできた小屋が建っている。

 入り口からはレールが伸びていて奥へと続いている。

 奥の方は人が一人通れるくらいの横穴になっている。

 フラッグマンは小屋に入っていった。

 僕もあとに続いた。


 小屋の中にはテーブルとイス、ベッド、食料品だけが置いてあってさっぱりしている。

 フラッグマンはイスに座って、テーブル越しに置いてあるイスを指差して僕に座るように促した。

「お前、ベータテスターか?」

 フラッグマンは僕の目をのぞき込んで言った。

「……。違う」

 僕は質問の意図がわからず戸惑った。

「だよな。そんなはずないよな」

 僕は戸惑い続けた。

 フラッグマンはイオリテをまじまじと観察し始めた。

 僕はイオリテを奪い取った。

「助けてくれてありがとうございます。助かりました」

「お前と同じ戦い方をするやつがいたんだ。そいつはベータテストの時にはネクロマンサーのジョブ使ってて、けど倒したモンスターを操る描写がグロくて非難殺到したんだ。本配信ではネクロマンサーは廃止されて、代わりにパペッティアが追加された。

そいつはベータテストの段階で古代文字を完全に理解してて、本配信では廃止になったはずのネクロマンサーの魔法を全部使えたのさ。そいつは人形にモンスターの魂を入れて、独立した意思を持つ人形を作り出した。通常、パペッティアは人形を操っている間無防備になる。だがそいつは意思を持つ人形を作ることでその弱点を克服した」

「そんなことできる人がいるの」

 僕の質問にフラッグマンは笑った。

「お前もやってるだろ」

 そう言われて僕は困った。

 僕の表情をみてフラッグマンは話しを続けた。

「なるほどそいつとは別のやり方なのか」

「その人の名前は?」

「エクリプス。チートを使うサイテーなやつさ。あいつがチートを使わなければ、俺はこの世界で英雄だったんだ」

 理解力があるのはチートなんだろうか、解析ツールを使ったこの人に相手を責める権利があるんだろうかという疑問が湧いてきたが僕は何も言わなかった。解析ツールを使ってなんで垢バンされなかったんだろう、次から次に新たな疑問が湧き上がったが僕は話しを変えることにした。

「さっきのモンスターはいったいどういう能力があるんですか?」

「あれはハンガジン。あいつは三つの能力を持っている。一つめは、モンスターを食べることで食べたモンスターのエネルギーを自分に吸収する能力。だからハンガジンは常にエサにするモンスターを探して彷徨っている。エサにするモンスターをみつけしだいに貪り食う」

「モンスターがモンスターを食べる。そんなことしたらエネルギーが衝突してダメージを受けるんじゃないの」

「本来ならそうなる。ハンガジンはエネルギーの性質を自分のエネルギーと同質化できるから、吸収できる」

 フラッグマンは僕が理解したか目で確認しながら話しを続けた。

「二つめは、月の満ち欠けでエネルギーが増減する。新月の夜のエネルギーを一とすると満月の夜には十になる。最近のハンガジンは冒険者の手に負えないくらい強くなってる。お前の行動がいかに無謀だったか理解したか」

 僕はなにも言えなかった。

 僕の反省した顔をみて満足したのかフラッグマンは話しを続けた。

「三つめは、いくらでも分身をつくって自在に本体を分身と入れ替えることができる。この三つめの能力があるからハンガジンを倒したプレイヤーはいないだろうと言われている。俺が知っている限りだと一人もいない」

「本体も分身を全部まとめて倒せばいいんじゃないの」

 フラッグマンは鼻で笑った。

「それができないから倒せないわけだ。ハンガジンは常に安全な場所に自分の分身を隠している。それがハンガジンを倒せない理由だ」

 僕は黙り込んだ。

 しばらくするとフラッグマンは退屈したのか、ベッドに横になって寝た。

「何を考え込んでいる」

 横になったフラッグマンが言った。

「どうすればハンガジンを倒せるかなって」

「お前が倒す必要があるのか」

「僕が倒す必要はないけど、誰かが倒さす必要はあるでしょ。いまの段階で冒険者の手に負えないくらい強いなら、このままほっといたらどうなるかわかるでしょ」

「そのうち誰かが倒すだろう。俺には関係ないね」

 そう言ってフラッグマンは本当に寝た。

 僕もそのままテーブルに伏せって寝た。




 物音がして目を開けるとフラッグマンの姿はすでになく、洞窟の奥の方から音がきこえるだけだった。


 洞窟を出ると朝になっていた。

 巨神像はぼやけてみえた。

「そんなにハンガジンが気になるのか」

 いままで人形みたいだったイオリテが動きだして言った。

「力不足なのはわかっているけどやっぱりほっとけない」

 イオリテは笑った。

「ハンガジンを倒す方法ならある。一緒に倒そう」

 イオリテは僕の目をみて言った。

 僕はうなずいた。

「それでどうやって倒すの。新月になるまで待つ」

「いや、ハンガジンは用心深い。自分に不利な状況で戦うことはしないだろう。だから今夜もう一度戦おう」

 イオリテは勝算あり気な表情を浮かべて言った。

 僕はその表情をみて期待が高まった。

「僕にできることはあるかい」

「当然。一人では難しいからな」

 そう言って、僕のリュックから杖の説明書を取り出した。

「この魔法を覚えて使いこなせるようにしてほしい。これならエネルギーの消費を抑えて何十発でも使える」

 イオリテの言葉をきいて嫌な予感がした。

「もしかして君の言うハンガジンを倒す方法って、全部倒すってこと」

 イオリテは僕の言葉に不思議そうな表情を浮かべた。

「他にどんな方法がある。目の前に敵がいるならひたすら戦えばいい。そうだろ。考えるだけ無駄だ」

「それだと昨夜と同じことになるんじゃない」

 イオリテは首を振った。

「昨夜とはすでに状況が違う。昨夜、私達と戦ったことでハンガジンのエネルギーは消耗している。だが私達のエネルギーは休んだことで回復している。繰り返せばいい。今夜決着がつかなければまた明日。明日、決着がつかなければまた明後日。決着がつくまで何度でも続ければ必ず勝てる」

「何度でも……」

 僕は呟いた。

「何度でも」

 イオリテは僕に微笑みながら言った。


 僕は新しい魔法を覚えて、使いこなせるように練習した。

 僕達はクリッジの街に戻り今夜の戦いに備えて準備した。

 夕方、僕達はハンガジンと戦うためにクリッジの街を出た。



 楽しんでいただけましたか。

 毎週月、水、金曜日の午前7時頃に1話ずつ更新する予定です。

 またお越しください。

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