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旦那に裏切られたので財産を使い倒してやろうと思う

作者: 烏丸じょう

 私、アナリッサ・バーンズワースは由緒正しいけれど没落気味の伯爵家の長女として生まれた。

 女でも爵位が継げるこの国で、大人になったら領地をこの手で立て直そうと、社交もそっちのけで日々勉学に明け暮れていた思春期だったが、十八の時に、呆気なくその夢は終わった。父の後妻が男子を産んで、継承権が異母弟に移ったのだ。


 途端に私は社交に放り出された。

「アナリッサ、お前はその美しい顔で高位貴族の嫁ぎ先を決めてこい。但し、十二分に結納金を見込める家のみ可とする。二十までに決まらなければ、後添いでもなんでも、結納額で嫁ぎ先を決めてやるから、年寄りと結婚するのが嫌なら、私が納得する男を捕まえてこい」

 我が父ながら本当に碌でもない男だ。領地経営が芳しくないのは父の行き当たりばったりの運営能力と、継母、異母妹どもの無駄遣いのせいなのに。

 私への結納金を自分達の散財の補填に費やす気満々なのには腹が立つが、私に選択肢はない。


 かくして、私は初めて舞踏会なるものに参加することになった。


「バーンズワース伯爵令嬢、アナリッサ・バーンズワース様!」

 それは王宮の初夏の舞踏会で、サマータイムのなかなか沈まぬ夕暮れの中、行われた夜会だった。

 由緒ある伯爵家として父が用意してくれた落ち着いた赤紫色のドレスはそれなりに美しく、母の形見のアメジストのアクセサリーと合わせて私の金色の髪を良く引き立ててくれた。

 あまり顔を知られていない私に、会場の視線は集中した。ザワザワと囁く声が聞こえるが、緊張で意味を理解することは難しかった。


 今まで勉強三昧で、領地の農民や商人と話はしても、貴族の付き合いというものに殆ど顔を出したことはない。ましてや貴公子との結婚をもぎ取るなどハードルが高すぎる。


 とりあえず、顔見知りを探すと母方の従姉、ベアトリス・クズリッチがいたので身を寄せた。


「まあ、アナリッサ!こんな所で貴女に会えるなんて!お家の件、耳にしましたわ。弟君は、健やかにお育ちかしら?」

 従姉は人の不幸は蜜の味というようにニンマリと笑ってそう言った。

 全く、いい性格だ。だけど私の数少ない社交の経験が彼女だということはある意味幸いだ。貴族というのは油断ならないといつも教えてくれるから。


 私は素知らぬフリをして答えた。

「ええ、お陰様で。その節は伯父様からお祝いをいただきましたが、有難うございます。父も、義母も喜んでおりましたわ」

「あらあら、だってバーンズワース伯爵家とは貴女という従妹を通じて縁戚ですもの。それぐらい当然よね。まあ、また何か困ったら父に相談すると良いわ。我が家にとってはそれぐらい大したことではありませんから」

 母の実家であるクズリッチ伯爵家は新興貴族ではあるけれど裕福で、その財力で母の姉は王の側室になったほどの家だ。ベアトリスのドレスも金糸がふんだんに編み込まれた豪華なもので、私のドレスとは比べ物にならないくらいゴージャスだ。

 ベアトリスにしてみれば私は体の良い引き立て役の様で、これ見よがしに横に並びたがるのにうんざりしつつ、会場を少しずつ移動していたが、私もそれなりに声をかけられ、ダンスカードの行が埋まっていった。


 一人目は新興貴族の男爵でそこそこの年齢の男性だった。次は古い侯爵家の三男、そして子爵家の嫡男と、初回としてはまあまあの手応えかもしれない。

 だけど五人目とのダンスを終えたところで、私の足に限界が来た。

 何しろ私は、普段は使い古いしたブーツで馬に跨っているような女なのだ。美しく繊細なパンプスに全く慣れていない。


 ちょうどカードのリストも終わったので、もう帰ろうかと会場を出たが、まだまだ外は明るく、迎えの馬車も来ていない。


 仕方なく、私は庭園で時間を潰すことにした。


「綺麗……」

 初めて見る王宮の庭園は流石の美しさだった。

 噴水から四方に流れる水路にそれぞれ小さな美しい橋が架かっており、さらに先には睡蓮の浮かぶ池があった。ちょうど満開で、白い花が美しく咲き誇っていた。


 池に流れ込む水路の水はとても綺麗で気持ち良さそうで、私は靴を脱ぎそっと足を水に浸けた。

 はしたないかしら?と思わぬ事もなかったが、熱を持った爪先を少し冷やしてみたかったのだ。


 予想以上に冷たい水が火照りを冷まし、私の疲れた頭も癒してくれた。


「睡蓮の妖精なんて初めて見たな」


 後ろから響いたその声に振り返ると、そこにはアッシュブロンドの髪と銀色の瞳の美しい男が立っていた。

 私は恥ずかしさに赤面しながらもそっと足を水から抜いた。拭わずに靴を履こうとしたら、男がくすりと笑った。

「せっかくのシルクの靴が台無しになりますよ」

 男はさっと跪いて私の足を拭い、靴を履かせてくれた。

 あまりにスマートな一連の動きに頭の中で警報が鳴る。この見るからに高位貴族の男性は、油断がならない。言葉を間違えれば、私はおろか我が家もただではすまないだろう。


 私はしおらしく俯いて言った。

「あの……、大変申し訳ございません。ハンカチは弁償させていただきます」

「いえ、貴女のような美しい方のお役に立てたならハンカチも幸いというものです。足が少し腫れていましたね。あちらにベンチがありますよ」

 そう言って、彼はそのまま私の手を引いてベンチに腰掛けさせた。

 これが、私と夫、ジャスティン・ガウロン公爵との出会いだった。


 その後二、三話をして、ジャスティンは私のために馬車を手配してくれた。

 ただの親切かと思って、翌日公爵家宛にお礼の手紙に新しいハンカチを添えて送ったところで、何故か我が家に彼の家から求婚状が届いた。


「アナリッサ、でかした!ガウロン公爵といえば若くして国の軍事を一手に引き受ける重鎮であり、最強の騎士だ。資産もたんまりで、結納金も期待できる!これで我が家は安泰だ!」

 思わぬ大物からの申し出に浮かれ切った父は、私の意向も聞かずに瞬く間に婚約を取り付けた。


 ジャスティン・ガウロン公爵は私より五歳上のまだ若い当主で、その美貌と相まって、社交界では一番人気と呼び声の高い男性だ。

 噂では幼い頃から許嫁がいたらしいけれど、随分前に解消されており、今の今までフリーだったのだが、そんな方が何故私を選んだのか疑問しかない。


 顔合わせでやっと二人きりになったところで、私は彼に聞いてみた。


「なぜ求婚を?王宮の庭園であんなことをするような女ですよ。公爵家に相応しくないでしょう?」

 ジャスティンはおかしそうに笑いながら言った。

「確かに、あの水路に足を浸ける女性なんて、子供でさえも見たことはなかったですね。だけど、あの時の情景は幻想的で、本当に貴女が妖精のように見えて、魅せられました。私は詩人ではないが、『妖精の虜になる』というのは、まさにあのような瞬間を言うのだと思いました」

「私が妖精の恋人(リャナンシー)というなら、見当違いですよ。何の変哲もない普通の女です」

 リャナンシーは詩人や芸術家にインスピレーションを与える妖精で、彼らを虜にして生気を奪うとされている。

 歴史上、妖精の恋人を得たとされる芸術家は何人かいるが、彼らは天賦の才と引き換えに皆短命に終わった。

「普通の女なら良かった。私は短命に終わらずに、貴女と長い人生を共に過ごせるでしょう。アナリッサ嬢、必ず貴女を幸せにします。どうか私の手をお取り下さい」


 その言葉が、心からのものにように感じられて、私は彼の手を取った。



 結婚後、私は軍事で忙しい彼に代わって、公爵家本邸の管理や領地経営にも携わり、使用人や領地管理人との関係も良好に築くことができた。

 ジャスティンも忙しいながらも、休みの日には必ず私と共に過ごし、とても大事にしてくれた。

「アナ、愛しています。貴女に出会えて本当に良かった」

 事ある毎に囁かれるその言葉は私の心を解きほぐし、本当に幸せにしてくれた。……そう、あの時までは。



 私の幸せな生活が崩れ去る音が聞こえたのは、彼と出会って三年になろうかというある日のことだった。

 公爵夫人として参加したガーデンパーティーで、その噂を口にする者がいた。


「アナリッサ様はご存知ですか?公爵様が、ベルシラに頻繁にいらっしゃっていることを」

 ベルシラは我が領とは王都を挟んで正反対に位置する国境の街だ。夫から聞いたことはなかったが、国境なら軍事の仕事で行くこともあるだろう。


 私が笑みを崩さずに黙ったままでいると、彼女は話を続けた。


「ベルシラの薬店に入り浸っているそうなのですが、そこにいる男の子が、アッシュブロンドと銀の瞳でご夫婦のどちらにも似てないそうなのですよ。不思議ですわね」

 私は胸が焼けるような気がした。

 嬉しそうに語る彼女の顔は、いつかのベアトリスのものによく似ている。

「……ベルシラか分かりませんが、過去に彼方の方に嫁がれた親族がいらっしゃると耳にしたことがありますわ。その方かもしれませんわね」

 もちろん、そんな親族の話は耳にしたことがないのだが、とりあえず、話を無難に終わらせなければなければならない。

「……ところで、先月のお芝居は喜劇でとても楽しかったのですが、今月は悲劇だそうですね。どなたか、もうご覧になられて?」

 私は自ら話題を変えた。公爵夫人としての仮面を被り直して、心を覆い尽くしていないと正気が保てないような気がした。


 家に帰ると私は事情に詳しそうな侍女頭を呼び出した。


「ねえ、旦那様の交友関係の中に薬屋って心当たりはあるかしら?ベルシラでも良いわ」

 侍女頭のマリサは顔色を変えたが「いえ……」と口を濁した。


「そう、じゃあ、旦那様の幼馴染のアテナ・カルミア侯爵令嬢って薬師と駆け落ちしたっていう噂の方よね。確か、ただの幼馴染じゃなくて旦那様の許嫁だったと耳にしたのだけれど、思い当たることはあるかしら?」

 マリサは可哀想なぐらいに真っ白になった。


 私が人をやって調べさせると、旦那様はベルシラに三年ほど前から定期的に通っていたことがわかった。そして、なんとアテナ嬢は三年前に夫を亡くしているのだそうだ。それから薬店を一人で切り盛りしていたが、先日幼い子を残して彼女も亡くなられたらしい。


 それだけなら、夫を亡くした幼馴染を心配した旦那様が密かに支援しただけという美談で終わりにすることもできたかもしれないが、それでは済まないのが彼女の息子の存在だ。


 両親とも茶色い髪だった夫婦から、アッシュブロンドの子供が生まれるなんてことあるだろうか?髪色どころか瞳の色までジャスティンと同じだなんて。

 これは決定的な不義の証拠である。

 そして、私がその証拠を彼に叩きつけようとしたその夜、ジャスティン自らがその子供を私の目の前に連れてきた。


「遠縁の夫婦の子供なんだ。両親が亡くなったので、公爵家で引き取り、私の跡取りにしようと思うのだが、一緒に育ててくれないか?」


 一体どこの誰がこんなセリフに素直に「はい」と言えるというのだろうか。

 もちろん私は、そんなことに頷く気はない。


「遠縁ですか?アテナ・カルミア様が遠縁とは初めて耳にしました。確かに貴族同士どこかで血が繋がっているかもしれませんわね。それにしても髪色や目の色だけでなく、お顔立ちもどなたかにそっくりですわね、旦那様」

 ジャスティンはアテナ嬢の名前を聞いたとたん狼狽した。まさか全部バレているとは思わなかったのだろう。


 これだけ似ていたなら、事前に調べていなくてもジャスティンの隠し子だと誰でも一目で気付くだろう。

 腹が立つことに、私との結婚前には、アテナ嬢は独り身になり、旦那様と再会してその子を身籠っていたわけだが、どの面を下げて私に求婚したのだろうか。

 アテナ嬢にも私にも失礼だろう。

 絶対に許せない裏切りだった。


 そしてもう一つ許せないことがある。

 この国は長子相続が基本だ。男子がいない時のみ女子が爵位を受け継ぐことができるが、認知されて子供と登録されれば、婚外子でも長子が優先される。

 承継目的でもない限り、わざわざ婚外子を認知しないからだ。


 つまりジャスティンは、まだ見ぬ私との子ではなく、その子を継承者として選んだのだ。到底許せることではない。


 正直差し違えても良いので復讐したいほどはらわたが煮えくり返っている。

 それでも、公爵夫人としての矜持がバカな考えを押し留める。

 私はあのガーデンパーティーに感謝した。お陰で事前に色々考える余裕が出来たから。


 調べていけば、彼が最初から私を騙していたことがよく分かった。

 私が早く子供が欲しいと言った時も、彼は「そうだね。後継も欲しいしね」と言っていたが、その時には、すでにアテナ嬢の子供が産まれていたはずだ。


 もしかしたら、いかにも一目惚れしたかのようなあの出会いも私には思いもつかない政治的な意味があるのかもしれない。

 それともあれかしら。バーンズワース伯爵家程度なら嫁にしてもいつでも切り捨てられるし、アテナ様のことがバレても泣き寝入りすると思われたのかしら。


 まあそんなことはどうだって良い。私は復讐の方法をもう決めている。

 合法的に全てを奪ってあげるから覚悟しなさい!ジャスティン・ガウロン!


 その翌日、私は王都から離れた公爵領にいた。

 既に後継がいるなら私がジャスティンと無理に過ごす必要はないのだ。

 王都にいれば社交に出なくてはならないし、好奇の目で見られるのも腹立たしい。

 何よりも私の復讐のためには公爵領に行くことが絶対必要なのだ。


 執事と領地管理人が出迎えて、慇懃に礼を執り、馴染みのメイド達がテキパキと荷を解く。

「奥様、ようこそお越しくださいました。お疲れではございませんか?湯浴みの用意もお食事の用意も既に整っております。お好きな方を、」

「そうね、まずは少し休みたいわ。先にお茶を用意してちょうだい。食事は遅くて良いわ」

「かしこまりました」

「あと、ラティスタはお茶に付き合って」

「光栄です」

 執事は一礼してお茶の用意に向かい、領地管理人のラティスタは私の後について来た。


「奥様、心中お察しします」

 ラティスタは神妙な顔をして頭を下げた。

「大丈夫よ。旦那様があの子を連れて来る前に、色々計画できたのは不幸中の幸いだったわ。いきなり隠し子が現れたら、私、きっと発狂して何をしていたかわからないわ」

「誠に、旦那様は罪深い方だ。奥様のような価値ある女性を傷付けて……。ところで、お手紙でいただきました領地運営に関する計画書ですが、本当によろしいのですか?いくら潤沢な公爵家の資産を以てしてもあれだけの事業を行うのはかなりの借入額になりますよ」


「大丈夫よ。個別の事業にすれば大した額に見えないでしょう。稟議書を分ければ問題なく通るわ」

「しかし考えましたね。公爵家の資産を事業資金として、運営は奥様の名義の商会の方で取り仕切る。流石です」

「合法的でしょ。ラティスタも商会の方でお給金を弾むから一緒にぼろ儲けしましょうね!」

「はい!この領地の使用人一同は奥様の経営手腕に全幅の信頼を置いております。どうか末長くよろしくお願いします!」

 私たちはにっこりと笑い合ってお茶を楽しんだ。


 私の思いついた復讐。

 それは公爵家の莫大な資産を使って、公爵領に目一杯公共投資をすること、そしてその運営を私の名義の商会の管理下で個別に立ち上げた事業者が行うことで、公爵家の資産を合法的に私の個人資産に置き換えることだ。

 そしてせいぜい搾り取った後は、こちらから離婚を叩きつけてやるつもりだ。ただし、この国では貴族の結婚は厳格で、不義や隠し子程度では離婚はできない。それでも例えば数年に及ぶ別居などがあれば実質破綻として離婚を申し立てることができる。

 離婚条件に達するまで、彼とは没交渉にして、その間に財産をできる限り使い倒してやる!


 領地管理人のラティスタからすれば、公爵家が積極的に公共投資すれば、領地も潤い、領民も喜び、自分たちの給金も増えるのだから、悪い話ではない。私が彼に連絡したら二つ返事で協力すると返事が来たほどだ。


 そもそもこの領地の使用人達は私が嫁いですぐに立ち上げた商会からボーナスを出しているので、皆私の味方なのだ。


 どうせジャスティンは国からの年金もあるし、困りはしないだろうが、公爵家の莫大な資産を私の個人名義にどんどん付け替えることに意義がある。

 だって、私はもう何があっても離婚すると心に決めているのだ。

 もしかしたらジャスティンの方から言い出すかもしれないし、いつでも独り立ちできるように、できる限り個人資産を増やしておきたい。

 まあ、嫌がらせというより正当な報酬よね。

 慰謝料代わりに取れるだけ取ってやる!



「じゃあ、まず、公衆浴場の整備と領都の上下水道工事と道路工事ね。あと、領内五箇所の学校と、領内を繋ぐ水路整備ね。他に何かやりたいことはあるかしら?」

 今日は私の商会のメンバーを呼び集めて、これからの領地発展計画についての説明会と意見交換会を行っている。


 メンバーと言っても、執務室でラティスタと、執事のモルガン、商会責任者のケルヒャー、工業ギルド長のサリマン、土木責任者のバルザックと厳選されている。


 まずバルザックが手を挙げた。

「公衆浴場の整備だけでも結構な人員が要りますぜ。農地からの出稼ぎで賄いますが、宿屋の問題をどうしますか?」

「そうね。日帰り組だけでは足りない感じかしら?」

「農地の繁忙期は過ぎたといっても、一村から何人も集めるのは難しいでさあ。そうなると多少遠方のもんも呼ぶことになりますし、道路工事が始まれば、領外からも人を集めることになりますぜ」

 私は予定の工員数を指折った。なるほど。公衆浴場の工期は五ヶ月で、十月から三月までの農閑期を予定している。この地では雪が降ることがあまりないので、工期が遅れるようなことはあまりないと思うが、大型の公衆浴場を整備するには、確かに近くの村からだけでは厳しいだろう。


「じゃあ、とりあえず郊外に工員用のテントを張って、集まったら彼ら自身に簡易小屋も同時進行で作ってもらうのはどうかしら。テントの数、簡易小屋資材数の予算を立てて、報告をちょうだい」

 私の言葉にバルザックはしっかり頷いてくれた。強面だけど頭の回転が速く、頼りになるのよね。

「食事の方はどうしますか?良ければ工員用の食堂を作って、領都の女衆の小遣い稼ぎにしたいのですが」

 そう質問してきたケルヒャーは、商会の実務以外に領都の商店主たちの取りまとめも行っている。私だけでなく、領地の皆で公爵家に貯め込まれた財産を有効に使おうという趣旨で集まってるので、こういうアイディアは大歓迎だ。

「良いわね。じゃあバルザック、食堂も含めて資材の見積もりをお願いね。まあ、今期は浴場完成が第一目標ね。学校の方は、教会と協力して行くわけだけど、どこまで進んでる?」

 サリマンが静かに手を上げて答えた。

「教会の近くに作業所を作る方向で全て合意は取れました。音の問題がありますから、ある程度距離は離しますが、まあ大体大丈夫です」

 学校といっても、文官を育てるためのものではなく、商工業の担い手育成なので、工業ギルドの親方達の弟子を育成する場でもある。元々教会で文字は教えているので、「学校」で習うのは計算やものの測り方だったり、ものの作り方だ。

 学校では子供たちが実際にものを作って工房に入った時に即戦力になれるように基礎を積ませるのが狙いだ。

「良かった。じゃあそちらの工事の資材の見積もりと工数もそれぞれの現場担当者に出すよう指示を出しておいて。講師の人選も問題なさそう?他領のギルドにも声を掛ける必要はありそう?」

「それは大丈夫です。それぞれの町の工房から人を出しますので」

「そう。育成が軌道に乗ったら工房の規模を拡大する助成金を公爵家から出そうと思うのよ。一年後ぐらいを目処にしたら良いかしら?」

「そうですね。仕事にあぶれた大人も参加できる学校になりますので、もしかしたら、工房拡張はもっと早く必要になる地区も出るかもしれません」

「じゃあ、様子を見て個別に相談してもらって良いかしら。商会の()()()()の製作もあるし……」

「そうですね。()()の生産量の確保のためにも、育成を急ぎましょう」

 サリマンが頷くのを受け、ラティスタがほくそ笑んだ。

「いやはや、楽しみですな!新生ガウロン領!」

「そうね!みんなでガッツリ儲けましょう!」

 私もつられて笑顔になる。他のメンバーも皆期待に表情を明るくしている。


 こうして、私達の公爵家財産食い潰し作戦は始まったのだが、思わぬ方向に進むことになるとは、この時は誰も気付いていなかった。


 バルザックが出してきた予算をまとめて、事業計画としてラティスタが商会の儲け分を上乗せして決裁に送った。まず衛生向上政策として公衆浴場の整備。農村部と違って領都は人が多い分不衛生になりがちなのだ。同様に上下水道の整備も感染症対策として重要なのだが、こちらは道路工事に合算して、運送の向上政策ということで申請している。

 学校の設置に関しては私に当てられた予算の中から行った。社交を放棄した今、ドレス代も掛からないしね。今まで購入した宝石類については、いざという時のためにとってあるけど。

 問題は水路整備なのだが、これについては農村の水分配の問題もあるので、一筋縄では行かない。というかまだ計画が煮詰まっていないので、今は予算取りは見送っている。

 運送能力の向上を考えると川と川を繋ぐ運河は必須で、将来的には領都と農村部を繋げるところまで行きたいのよね。まずは領都の外側に堀を作る案も出ている。

 領都の防衛力も上がるし、空堀を作るだけでも意味はあるしね。掘った後の土は新たに建てる建築物のレンガの材料にもなるしね。


 とにかく予想通り、あっさり予算は降り、各工事は着工した。

 領都の郊外に、出稼ぎ工夫たちのための宿舎や食堂も瞬く間に完成して、領都は一気に活気づいた。


 専用食堂だけじゃなく、街の食堂や商店に繰り出す工夫も多く、各店舗も軒並み景気が良い。工夫達には公爵家から寄付という形で衣類を定期的に提供していったので衣類も取り扱う我が商会の売上も順調に上がっていった。

 そうなると領民の財布も緩み、話を聞きつけて、我が領に出入りしたり、店を出したがる商人が増えた。


「ちょっと何で減ってないの?」

 一年が過ぎる頃、私は異変に気が付いた。


 公爵家の領内の収入は三種類ある。商店や工房の間口に比例した地代と農作物の年貢。領外との取引にかかる関税だ。


 まあその他に投資した鉱山やらなんやらの持分配当などもあるのだが、それは領外の話なので、別にしておく。


 この一年で私の商会の運転資金は大幅に増えた。

 しかしなぜか使い倒したはずの公爵家の資産もほとんど減っていない。

 私が内訳をよく見るととんでもないことがわかった。

「えっ嘘」

 関税がとんでもないことになっている。それと地代も。あっそれに公衆浴場の売上も。

 公衆浴場はサウナ風呂になっていて、出る時に予熱で温めたお湯と水を足した掛け湯で汗をサッパリ洗い流すのだが、サウナというのが良かったようで、今では社交場になっている。そのため入浴習慣が領民についたばかりか、商人達にも評判を呼び、高稼働率なのだ。つまり、かなり儲かっている。

 運営費で六割を商会が取り、四割を公爵家に納めているのだけど、今までなかったものだから項目として目立っている。

 地代も、工夫の宿舎を中心に新たに街が拡張したことで、商店街が増えて、収入が増えている。

 うちの商会の倉庫も増やしたのでその分ももちろん合算されている。

 それから関税だ。これがとんでもないことになっていた。

 全くの予想外。なんと領都の浴場やら道路を整備したおかげで人流が増えて、商人たちが領都に持ち込む物量がとんでもなく増えていた。

 うちの領内で消費される分だけではなく、新たに行き交う商人たちがそれぞれ買付けしあっているのだ。


「こんなはずではなかったのだけれど……」

「流石奥様です。予想以上の成果を上げる経営手腕に我々脱帽です」

 ラティスタの感嘆したようなその言葉は今の私には嫌味のように聞こえた。


 まあ、バブルは弾けるものよね。一時的に違いない、なんて思った私を問い詰めたい。

 翌年はいよいよ水路工事に着工したのだけれど、今度は領都だけじゃなくて各町も活気づきだした。


 領都を真似て浴場を併設希望する町には補助金を出したのだけど、そうすると各町にやはり商人がよく集まるようになって、また物流が増えた。

 それぞれに徐々に宿屋や商店が増えて、我が商会の「人気商品」の売上好調も相まって、工房も増えた。


 そう、()()()()なのだ。

 それは工房ギルドが総力を上げて作った、ランプである。

 ランプシェードはステンドグラスでできており、スチールの本体と組み合わさって様々な形状があり、国内外の貴族や金持ちに大人気なのだ。


 贈り物にも人気で、オーダーも多い。

 工房はフル稼働で、また各工房がオリジナルの商品を出し、途轍もなく忙しい。

 ああ、そうね。ランプの原材料も一部領外から仕入れてるから、あれの関税も大きいのよね。


 私は、私の個人資産を増やすことができたけど、公爵家の資産を使い倒すという嫌がらせは今の所不発に終わり、悔しさで唇を噛んだ。


 この間、ジャスティンとは会っていない。たまに彼もこちらの屋敷に来るのだが、私は視察だなんだと理由をつけて、顔を見ないで済むようにしていた。

 彼は手紙も寄越してくるのだけど、それも私は自分で開封せずに、執事に確認させて、必要なものだけ返事を送るよう指示をしている。


 大概私の体調を気遣い、謝罪するような文面らしいが、文字も見る気はない。

 とりあえず、水路が完成するまでだ。それが終わったら、私は公爵夫人の地位を捨て、商会主として自由に生きることにしている。


 

 水路の完成は、春が来る前のまだ寒い日のことだった。その日、水門が開かれ、領都の堀に水が入った。


 堀の内側には倉庫が立ち並び、簡単に荷揚げができるようになっている。

 水運を使い馬よりも安定して効率よく荷も人も運べるようになったので、物流量はまた飛躍的に上がった。つまりは税収が増えた。


 結局、この二年で領内の経済は飛躍的に向上し、領民の生活も豊かになったし、税収も上がった。

 私の、「皆で公爵家の財産を毟り取ろう計画」は、毟るどころか増やすことに貢献してしまった。悔しい。


 でも、もう潮時だ。二年間彼から逃げ回り、私は婚姻実質破綻の要件を満たした。


 私は弁護士を立てて離婚調停を申し出るつもりだった。彼の隠し子の存在と合わせて、お互いに有責ということで、慰謝料交渉なしで、終わらせるのだ。


 今日、私はその弁護士の事務所にやって来た。

 若いが交渉能力があり、依頼者の満足度が高いと評判の人物だった。


「弁護士のセルジュ・クレイルと申します。お目にかかれて光栄です」

「ご無沙汰しております。やはり貴方でしたのね。この度は引き受けてくださり、ありがとうございます」

「ああ、覚えていてくださったのですね。嬉しいなあ!」


 クレイル弁護士は、黒髪のスマートな男性だった。王都の知人からの紹介なのだが、名前を見た時、もしかしてと思っていた通り、彼は私が初めて参加したあの舞踏会で二人目に踊った人物だった。


「もちろんですわ。ダンスがとてもお上手で、不慣れな私もお陰でとても気持ち良く踊れましたもの」

「こちらこそ、あの一時は至福でした。……さて、ご事情は把握致しましたが、本当に慰謝料は良いのですか?」

「ええ、それよりも、なるべく会わずに、速やかに離縁をしたいと思いますので」

「かしこまりました。ではこちらが契約書兼委任状となりますので、ご確認後サインをお願いします」

 クレイルが差し出した書面を一字一句確認して、最後に日付とサイン記入した。控えをバッグにしまうと、彼の秘書がお茶とお菓子を持ってきた。


「まあ!これはなんですか?」

 白い粉の中に埋もれた見慣れない菓子に思わず声を上げた。

「ロクムです。初めてですか?最近専門店ができて王都で話題になっているんです。甘すぎるぐらい甘いのでお茶が欠かせませんが」

 クレイルはフォークに一つ載せると粉を軽く払って、口に入れた。カリコリと音が響き、どうもナッツが入っているようだ。

「ロクム……。南方の異国のお菓子ですわね?以前噂を聞いたことがありますが、本物は初めて見ました。いただきますわ」

 私は慎重にフォークで粉を軽く払った。ロクムの表面はグミのように弾力があった。

 ゆっくり半分に割ると、小さなナッツが割れずにころんとした姿を露わにした。

 中身はやはりグミのような透明感のある赤い何かで、ほのかに薔薇の香りがした。

 ナッツが残った方を口に運んで咀嚼すると、なるほど確かにとても甘い。これはお茶がとても欲しくなるタイプの菓子だわ。


「何だか甘すぎるぐらいに甘いのに、また食べたくなる不思議なお菓子ですね」

 私は一つ食べ切った後にお茶を飲んで、そう言った。

「そうでしょう。この甘さがクセになるんです。何よりこれを食べると……」

「お茶がとても美味しく感じられますね!」

「そう、その通りなんですよ!これほどお茶の良さを引き立てる菓子もないと思います」

 クレイルはそう言って人懐こい笑みを見せた。


 流石弁護士と言うべきか、クレイルの会話は巧みで私を飽きさせなかった。そして、事務所を後にする頃には私は彼に任せれば大丈夫だと確信を持てるに至った。


「では、しばらくは王都におりますので、何かあれば商会事務所にご連絡ください」

「かしこまりました。早ければ、来週には結果が出ると思いますが、公爵がお会いになりたいと仰る時は、いかがいたしますか?」

 彼はまるで彼がそう言うだろうと確信を持っているかのように言った。

 そうよね。最近も諦めずに手紙を送ってきていたことを思うと、ジャスティンは絶対に私と会って話がしたいと言うだろう。でも私は、彼の顔を見たくない。せめて離婚が成立するまでは。


「……離婚が成立したらお会いしましょう、と伝えて下さい。それまでは絶対に会いません」

「……仰せのままに。では後のことはお任せ下さい。……成立したら、一度お食事などいかがですか?」

「あら、嬉しい。お礼もしたいし、ちょうど良いですわ。王都のお店には詳しくないので予約はお任せしてよろしいかしら」

「もちろんです。お礼は御食事を共にして下さるだけで十分です。……本当はあの後お誘いしたかったんです」

「あのダンスの後ですか?」

「ええ、でもあっという間に嫁がれたので、夢で終わりましたが。だけど神は僕を見捨てなかったようです」

 戯けたようにそう言う彼の瞳に少し熱が籠っているように見えてドキッとした。でも私も真に受けるほど初心ではない。

「うふふ、じゃあお誘い、楽しみにしておりますわ。祝杯の美酒にどうかお付き合い下さいませ」

「ええ、必ず。それまでどうか何処にも行かないで下さい。……貴女は何だか目を離すとどこかに消えてしまいそうだから、妖精のように」

「妖精?」

 いつかのジャスティンの言葉を思い出し、僅かに心が沈んだ。でもクレイルはその印象を覆すようなことを口にした。

「ええ、花々の中を元気に飛び回る妖精です。好奇心が旺盛で、興味のあることにすぐ飛び付いて行きそうな、そんな元気な妖精です」

「まあ!」

 驚いた。それは私が自身に感じる本質に近い気がした。クレイルはこの短時間でそんな風に私を見抜いたのか。

 私は何だか自分の理解者に会えた気がして気分が上がった。そして、彼との食事がとても楽しいものになるような予感がした。

「……クレイル弁護士は鋭いですわね。そうです。私は好奇心が旺盛で新しもの好きなのです。だから、目新しいものがあれば、きっと喜んでそっちに行ってしまうかもしれません」

「どうか、セルジュと。貴女が退屈して飛び立つ前に、必ず全て解決してお迎えに上がります。どうかもう一度素敵な時間を僕にお与え下さい」

「期待してますわ」

 私は微笑みを彼に向けた後、事務所を出た。来た時よりも心が軽くなった気がした。

 

 離婚が成立した知らせが届いたのは、それからきっかり一週間後だった。ジャスティンは随分ごねた様だが、私はセルジュだけではなく、もう一つ圧力を用意していたのでそれも功を奏したのだろう。


 そして、約二年半ぶりに私はジャスティンと対面することになった。

 場所は王都の公爵邸で、セルジュが同席してくれている。

 久しぶりに見たマリサは随分と老け込んでいる様な気がした。

「元気だった?」

「……年波には勝てませんね。奥様はお変わりありませんか?」

「もう奥様じゃないわ。あの時はごめんなさいね。突然出ていってしまって」

「いえ、奥様の、アナリッサ様のお心をお助けできなかった私どもの不徳でございます。どうかお許し下さい」

「貴女達は何も悪くないもの。どうか、もう気に病まないでちょうだい」

 そんな風に彼女と語っていたら、扉が開き、ジャスティンが来た。

 マリサは一礼して部屋から出て行った。


「アナリッサ……。クレイル殿、どうか二人きりにしていただけないか?」

「駄目よ。行かないで。公爵閣下、クレイル弁護士は私の代理人でもあります。お話は一緒に伺いたいと思います」

 ジャスティンは眉を顰めて言った。

「……もう名前も呼んでくれないのだな。アナリッサ、私は何を間違えた?どうすべきだった?アテナと関係を持ったのは、君に出会う前のことだった。子供が生まれた事に気がついた時は、もう私に出来ることはなかった。それでもアテナが生きていたら、あの子を引き取らなければ、君は今でも私の横にいてくれたのだろうか?」

「間違えていたのは最初からですわ。閣下は私に求婚すべきではなかったのです。あの時、私ではなく、アテナ様の手を取っていらしたなら、皆笑っていられたのではないでしょうか」

「彼女は、夫を亡くし、一時的に支えが必要だっただけで、私と愛し合っていたわけではなかったんだ。私が愛したのは、」

「それ以上は口にしないで下さい。愛は信頼の上で成り立ちます。一度壊れたらもう元に戻ることはありません」

 ジャスティンは捨てられた子供のように途方に暮れた顔をした。

 私は溜め息を吐いて立ち上がった。

「さようなら。もうお目に掛かることもないでしょうが、どうかお元気で」

「待って、待ってくれ!せめて慰謝料を受け取ってくれ」

「結構ですわ。それは領民や使用人の為にお役立て下さい」

 振り返ってそう言い放ち、部屋を後にした。

 使用人達が総出で見送る中、私は馬車に乗り込み、公爵邸の門を潜った。



 翌週、約束通り、セルジュと食事に出掛けた。

 元王宮料理人が開いた人気店で、一月先まで予約が埋まっていると評判だった。


「すごいわ。このお店、気になっていたのよ。どうやって予約をしたの?」

「貴女の為に特別な魔法を使いました!……なんて、実は父が出資した店なのですよ。だから侯爵家にはいつでも部屋が用意されているんです」

「そうなのね。うちの商会も王都に接待用のお店を持とうと考えていたけれど、なかなか良い料理人に巡り合えなくて」

「そうでしょうね。名のある料理人はどこも手放しませんから。ここのシェフは、我が家の料理長の弟なんです。たまに料理長も手伝いに来ているようです」

「その縁で出資なさったのね。彼は幸運ね。このような一等地、そもそも空きが出ることが珍しいし」

「この土地は競売にかかる前に僕の所に情報が来たんで、あっさり手に入りました。そこは弁護士の特権ですね」

 自慢げに笑うセルジュは普段の落ち着き払った大人な様子とは別人のように、悪戯好きな少年の面影を宿していた。


 彼との会話は楽しい。ビジネスのことから芸術のことまで引き出しが多い。

 私のような商人脳な変わった女でも、彼の会話に引き込まれて、いつしか普段は語らない読書の趣味の話まで熱く語り合ってしまった。


 思えば、ジャスティンは軍人のせいか、あまり余計なことは喋らず、会話が弾む方ではなかった。それが居心地が悪かった訳ではないが、私達はお互いのことを知らなさ過ぎた気がする。

 他人に言われるまで、彼が遠方の他所の女の所に通っていた事も気付かないなんて、私も間抜けにもほどがあった。

 

 かと言って、会話をもっと交わしていたら関係が破綻しなかったという訳ではないので、考えてもしょうがない事だけど、今改めて思うことは、私達夫婦は本当にお互いの事を理解し合えていなかったということだ。

 そこには信頼ではなく、最初から幻想しかなかったのだろう。まさしく、リャナンシーに惑わされたかのように。


「これから、どうなさるんですか?」

「しばらく、旅行にでも行こうと思うの。商会は別の者に任せているから、私がいなくても周るでしょうし。セルジュのお陰で全て上手く行きました。改めてありがとうございます。これからも商会関係でもお世話になることがあると思いますが、どうかその時はよろしくお願いします」

「もちろんです。貴女のためなら、何でも」

 そう言ってセルジュは私の手を取り、指先にキスを落とした。

 そしてその整った顔を上げて切なそうに微笑まれたら、私は胸の奥がキュッと鳴るような気がした。



 全て終わった後、湖畔の宿で優雅に暮らした。しかし、一月経った頃、思わぬ知らせが届いて、私は再び王都に出向くことになった。


 それはバーンズワース伯爵家からの不幸の知らせだった。

 父と義母、そして異母弟の三人が、事故死したというのだ。


 この三年弱、ほとんど音信不通だった彼らだが、出戻りの私には家族に違いない。普通なら嫁いだ娘に継承権はないのだが、私は離婚した後だったので、籍が伯爵家に戻っていた。


 碌でもないと思っていても、父は父だ。まさかこんなに早く逝ってしまうと思わず、離婚の時も何の相談も断りもしていなかった。

 手紙で事後報告と、個人資産の中から十分なお金を送ったら、好きにしろとの返事があった程度だった。


 伯爵邸に着くと私が生まれる前から仕えてくれている執事のマーティンが迎えてくれた。

「お嬢様、よくお戻り下さいました」

「マーティン、一体何がどうしたの?」

「御三方が領地からこちらに戻る途中で、事故に遭われました。土砂崩れが起こり、巻き込まれたのです。それよりも、問題がありまして……」

 マーティンの神妙な顔に嫌な予感がした。

「土砂崩れは実は鉱山の岩盤崩落の影響で起こったのですが、崩落のせいで鉱山が稼働不能になりました」

「なんですって⁉︎」

 大変なことが起こった。バーンズワースの鉱山はとても規模が大きい。採掘量も多く、沢山の貴族が出資している。口数に応じて配当が支払われているのだが、まあ、それは良い。問題は融資の方だ。規模が大きいからこそ運転資金としてかなりの額に登っているはずだ。私が帳簿を見ていた時は、領地の年間収入の半分くらいだった。

 まあ年間収入の大半が鉱山からの利益だったから、そうなったのだけれど。


 運転資金だから返済期間もあまり長く設定されていない。このまま鉱山の再稼働が遅れたら、半年後には債務不履行に至るかもしれない。


「マーティン、財務資料と落盤事故の状況の報告書は?」

「財務資料は執務室にございます。事故の方は第一報のみで、詳しくは現地に赴く必要がございます」

「分かったわ。じゃあ、貴方はこの人達に連絡してすぐにこちらに来ていただいて」

 私はセルジュと我が商会の王都担当の名刺を渡した。

 

 執務室は予めマーティンが整えてくれていたのか欲しい資料をすぐに確認できた。


 借入先は大きな銀行が二つ。一つは昔から契約しているラムダス銀行のもので、金利は少々高めだが、返済期間が長く設定されており負担が少ないものだった。まあ、これは今すぐどうこうする必要もない。

 もう一つはクルーズィ銀行というところで、金利は問題ないが、額が大きい。最近契約したのか、今まで利用した覚えのない銀行だが、最悪なことに担保に鉱山そのものが設定されていた。

 返済期限も予想以上に短く、三ヶ月しかない。


 鉱山の運転資金は、私が帳簿を見ていた頃とそう変わりはないけど、短い返済期間が繰り返されており、この数年は資金繰りで苦労したであろうことが帳簿から読み取れた。

 こんな借入ならしない方がマシだろうが、金利が低いからと父が考えなしに契約したのかもしれない。


 崩落の被害状況によっては、鉱夫への補償や治療費、再稼働のための工事費など莫大な資金が必要になる。

 とりあえず、早く領地に行きたいが、まずは父達の葬儀と、爵位の継承を終えないと何も決済ができない。



 今後の資金繰りの算段をつけていた所で、マーティンが扉をノックした。


「アナリッサ様、クレイル弁護士がお見えです」

「お通ししてちょうだい」


 扉が開き、入ってきたセルジュはよほど急いで来てくれたのか、髪が乱れていた。

「アナリッサ、大丈夫ですか?私に出来ることは何でも言ってください」

「セルジュ、ありがとうございます。父と弟が突然逝ってしまったので、私しか引き継ぐ者がいないのです。生憎領地で大きな崩落事故があり、早急に決裁権を私に移す必要があります。また代理人を引き受けてくださるかしら」

「もちろんです。すぐに手続きに取り掛かりましょう。お二人の死亡届は?」

「こちらにございます」

 マーティンがさっと差し出した。

「では、委任状を作成しましょう。テーブルをお借りしても?」

「ええ、もちろんよ」

 私は彼の為に椅子を空けようとした。

「いえ、僕は立ったままで大丈夫です。アナリッサは、顔色が悪すぎます。どうか無理をせずに休んでください」

「……ありがとうございます。……貴方と知り合えて良かったわ」

「それは僕のセリフですよ。さあ、この文章をよく読んでこちらにサインをお願いいたします」

 あっという間にできた委任状は、前回とほぼ内容は変わらなかった。

 私がサインをすると、彼はすぐに王宮の役所に行って手続きを行ってくれた。

 その間、私は父達の葬儀の手配を行った。

 商会からケルヒャーが来てくれて、債務状況の確認や出資者への連絡などの手配を商会全体で手伝ってくれた。

 金額が少なく金利が高かった債務は、商会から借り換えることにした。金利もオーナー特権で最低にしたのでひとまず安泰だ。


 崩落事故の詳細な報告書も届いた。幸いな事に人的被害は死者はなく軽傷者のみと最小限で済んだようだが、坑道の入り口が完全に塞がり、危険な状態ということで、再開するにはかなりの時間と予算を要することが分かった。

 これではとてもじゃないけど三ヶ月以内に再開することは難しそうだ。


 あの鉱山の労働者は二千人を超える。

 鉱山のすぐ近くには彼らの居住地があり、小さな町になっている。

 三ヶ月も収入が途絶えたなら町が一つ潰れてしまう。

 彼らが何とかそのまま生活ができるよう支援も行う必要がある。


 金策を行うにしろ、正確な見積もりと再開の目処をある程度立てなければならないが、机上の空論ばかりで本当にそうなるか誰も見当がつかない。そもそも鉱山再開方法の案さえもないのだ。


 マーティンから連絡を受けて三日後には葬儀と埋葬を無事終えられた。他家に嫁いだばかりだった異母妹に義母のドレスや宝石、その他思い出の品を全て持って帰らせた。

 場合によってはこの王都にあるバーンズワース伯爵邸も売りに出さなければならないだろう。鉱山の再開計画をしっかり提示しなければ出資金を引き揚げると言い出す出資者も出るだろう。そうなった時に、金銭を用意する手段は限られているのだから。


 爵位授与の為に王宮を訪れることになった。

 私はいつもお世話になっている方に先にご機嫌伺いしに行くことにした。

 私の母の実姉で現王側妃のマルガリータ様だ。


「アナ、可哀想に。ちゃんと食事はできている?」

「伯母様……」

 マルガリータ様は幼くして母を亡くした私にとって母親代わりと言っても過言でない方だ。

 彼女には娘、つまり王女が一人いるのだが、王女様も実の姉のように私を可愛がってくれている。

 私のランプが爆発的に売れたのも彼女達が上手に宣伝してくださったことも大きかった。この離宮のサロンには私が贈ったツリガネ草を模したランプが飾ってあるのだ。

 すりガラスにステンドグラスで縁を彩ったそれは、訪れた人々の目を釘付けにするほど評判を呼んだという。


 実はジャスティンとの離婚の時もマルガリータ様に協力していただいたお陰でスムーズに話が進んだのだ。いくらジャスティンでも王族には表立って逆らえない。


「ねえ、アナ、クルーズィ銀行からの債務があったんじゃない?」

「あります。でも、どうしてそれを?」

「やっぱり。それは兄が買収した銀行よ。兄はバーンズワースの鉱山を狙っていたから、上手い話で、貴女のお父様を嵌めたのだと思うわ」

「そんな!酷いわ!」

「兄も貴女が伯爵家を継ぐと分かっていたならこんなことをしなかったと思うわ。とりあえず、私も手紙を出しておくから、承継が終わったらすぐに兄の所に行って交渉しなさい」

「分かりました。行ってみます」

 私はマルガリータ様の言葉に安堵した。

 銀行の返済に余裕を持たせることができるなら、まず一つクリアだ。

 それでも再開に向けた資金の用立てや、着工計画など問題は山積みだけれど。


「可愛いアナ。貴女なら大丈夫よ。貴女はおばあ様に本当によく似てるから」

「ひいおばあ様ですか?」

「ええ、クズリッチ家が伯爵家となった功績を立てた方よ。不毛の大地を蕎麦畑に変えて、飢饉を乗り越えたのですって」

「えっ、それ絵本で読んだことがあります。『銀の穂』ですね」

 マルガリータ様は頷いた。


 「銀の穂」というのは、蕎麦の白い花のことだ。小麦の金の穂に対して、詩的に表現されたのだけれど、物語では貧しい村の領主の娘が、一人で不毛の地を耕し、大人になるまでに大きな蕎麦畑を作ったとあった。

 その後小麦に広まった病で、飢饉になった年、娘が育てた蕎麦の粉が皆を救ったという。

 この国の人間なら誰でも知ってる物語だが、まさか主人公が自分の身内だとは思わなかった。


「ひいおばあ様のように貴女の力で民を救ってあげてちょうだい。きっとこの一週間だけでも随分不安なはずよ。不安は不和を呼ぶわ。どうか、取り返しがつかない事が起こる前に。貴女ならきっと上手くやれるから」

「ありがとうございます。私、絶対にやり遂げて見せます」

 そう誓う私に、マルガリータ様は優しく微笑んで下さった。


 国王陛下から伯爵位継承の承認をいただいたその足で、私はクズリッチ伯爵家に急いだ。

 マルガリータ様の手紙のお陰でスムーズに伯父様と会うことができた。


「アナ、この度は御愁傷様。そして伯爵位継承おめでとう。お前が継ぐならバーンズワースも安泰だな」

「伯父様、ありがとうございます。では承継祝いにクルーズィ銀行債権を放棄して下さい」

「いやいや、無茶を言うな!そんなことができるわけないだろう!せいぜい返済猶予を設けるぐらいだ」

「じゃあせめて返済期間を十年に伸ばして下さい。ついでに無利子で」

「いや、それ違法だからな!」

 身内への無利子融資は贈与と見做され、この国では銀行法違反になるのだ。

 私は怒りに任せて続けて言った。

「融資を伯父様の個人出資に切り替えて下さっても良いんですよ。可愛い姪を苦しめた罰です。私がこの数日間どんな気持ちでいたか思い知って下さい」

「その口だけ笑顔なのは怖いからやめなさい。分かった。まさかお前が後を継ぐ奇跡が起こると思わず、鉱山利権を奪う気だったのは認めるし、謝ろう。だがお前の父親はダメ過ぎた。我が家も随分出資していたのに、あのままでは無配当になる日も近かったから堪忍袋の緒が……」

 そう伯父はバツが悪そうにモゴモゴと言った。


 伯父は末妹の私の母を溺愛していたらしく、母と同じ金髪と紫の瞳を受け継いだ私のことも何かと気にかけてくれていた。

 ただ、それは姪への愛のみというより、お金好き同士の連帯感というか、商売好き同士の一体感というか、まあ要するに昔からウマが合うのだ。

 倹約家の伯父は無駄にお金を垂れ流すのが大嫌いだ。常々「生きたお金の使い方」を語りたがる人で、私は幼いながらも感銘を受けていた。


「まあ、債券は金利据え置きで、返済猶予三年にしてやろう。それなら何とかなるだろう」

「三年ですって、せめて五年でお願いします。五年後から支払い開始で分割払いの更に五年!」

「……無茶苦茶だな。まったく!まあ良いだろう。その代わり、今後お前の商会が調達する銀行融資の半分はクルーズィ銀行から借りなさい」

「金利はもちろん優遇してくれますよね?」

 伯父様は苦虫を噛み潰したような顔をした。


 私達は早速覚書を交わした。

 私が書面にサインをすると伯父はほっと息を吐いて徐に言った。

「それで、鉱山の再開の目処は立ちそうか?」

「……それは現地に行ってみないと何も言えません」

「はあ、では可愛い姪にヒントをやろう。鉱床はどう広がっている?」

「鉱床ですか?えっと、地層に沿って広がっているのが通常です」

「そうだ。金銀鉱脈など例外があるが、鉄鉱床は地層に沿って広がっているもんだ。で、あそこの地層は横か?縦か?斜めか?」

「えっ?地層は横に広がっているものではないのですか?」

 伯父様は呆れたように首を振った。

「あそこは火山帯じゃなくて褶曲山脈だ。地層は斜めに傾いている。そして最初に鉱石が見つかったのが坑道入り口付近だった。あそこの様子を覚えているか?」


 坑道入り口は岩が聳え立つような姿をしていたはずだ。

 確かに上下に筋が伸びていて、あの山自体、草木が少なく、全体的に岩盤の露出が多かった。

 伯父様は書棚から大きな一枚の紙を取り出した。

「これを見ろ」

「ちょっと!これうちの鉱山地図じゃないですか⁉︎どこでこんなものを!」

「担保設定する時に調査した。ついでに鉱床の当たりもつけた」

 流石は伯父様だ。抜かり無い。私は、怒りを通り越して脱帽したい気分になった。


 伯父様は地図の北側を指差した。

「ここが坑道入口だ。で、鉱床はここから南東に広がっていると思われる。立体構造でいうと、上部は西に寄っているので、この位置当たりになる」

 伯父はある箇所に指先でくるりと丸を示した。

「この場所って……」

「そうだ。土砂崩れがあったのはこの下の街道だろう?多分頂上付近では鉱床が見つけやすくなっているはずだ。至急調べさせろ」

 頂上付近に鉱床が露わになっているなら、露天掘りで開発しやすくなる。仮予算よりも再開発は随分楽に進められる計算になるだろう。


「分かりました。……伯父様って地学にも通じているのですね。どうやって?」

「鉱山を手に入れようと思ったらこれぐらい知ってて当然だ。お前も経営者になるのだから、専門の教師でも付けて学んでおけ。あともう一つ良い情報があるがいくらで買う?」

 伯父はニンマリと笑った。

「可愛い姪にプレゼントではないのですか?」

「この情報は流石にただではやれんな」

「いくらなら御満足いただけますか?それを聞いて判断します」

「そうだな。新しい鉱床の権利、五割で手を打とう」

「新しい鉱床?山頂のですか?」

「いや、こちらの山だ」

 伯父は街道の反対側の手付かずの山を指差した。

「まさか、ここにも?」

「あの鉱山を手に入れると決めた時に専門家に話を聴きまくった。褶曲山脈というのは、まあアーチのように地層が折れ曲がっている。そしてこの街道は、断層が走り、そこに水が流れて侵食してできたものだそうだ。そうなるとこちらの山にも鉱床があるはずだと、指摘を受けた。そして実際に調査をしてみると……」

「鉱床があったのですね」

「その通り」

「その話は、父には?」

「言うわけないだろう。鉱山の権利を手に入れてからじっくり開発するつもりだったんだ」

 伯父様が私の味方でよかったとつくづく思った。末恐ろしい。


 私は交渉してなんとか新しい鉱山の利益の二割ということで、納得してもらった。

 だって開発費は追加で出してくれないと言うのだ。私の個人資産だけでは足りないので、また新たに出資者を募らなければいけない。

 そして、新鉱山についても覚書を交わし、私が帰る時、伯父様は気の抜けない交渉相手の顔ではなく、優しい伯父の顔で言った。

「公爵領での手腕は見事だった。お前ならまた皆を巻き込んで、上手くことを収められるよ。そう期待している」

「伯父様の期待に応えられるようにせいぜい頑張ります。有益な情報とご配慮ありがとうございます。またご報告にあがります」

「ああ、()()()()()()()()()、ご健勝を」

「ええ、クズリッチ伯爵、貴方とご家族に神の祝福がありますように」

  私は、その期待に応えるために、ここからは振り返らずに、前に進むことを心に決めた。


 領地の状況は大体報告通りだった。鉱床も伯父様の情報通り、頂上から掘り進められることが分かった。

 ケルヒャーが補佐についてくれたので、予算立てはスムーズにできたが、今まで整えたインフラは大部分が使えないので、新たに大きな設備投資が必要になった。


 まず一番は物流だ。

 今までのトロッコがダメになったので新たに頂上付近から地上まで鉱物を効率よく下ろす設備が必要になる。


「頂上にこちらから鉱夫が登って作業するとして、運搬は険し過ぎるわね。貴方達はどう思う?」

 私は鉱夫監督責任者のダズリーと鉱夫長のゲイリーに尋ねた。


「露天掘りで進めるのは結構ですが、その前に邪魔な木の伐採と土砂を除去する必要があります。まず伐採の作業をここからではなくて東側のこの辺りから進めていけば、尾根に沿ってレールを引いて、安全に運搬できると思いますがいかがですか?」

 ダズリーが地図を片手に示しながら提案したそれは理に適っているように見えた。

「そうですな。崩落があった後だからここの山の土砂はまたどこかで崩れるやもしれません。そうなると、さっさと上澄みを取り払って岩盤が見えるようにした方が、危険性は減りますな」

「木はともかく、土砂はどうする?」

「街道の嵩上げに使用するのはどうですか?落差が減れば、そちら側も運搬ルートとして使えるようになります」

「じゃあ、まずは伐採と、土木工事ね。あちらの鉱床の分布は伯父の調査通りだったから、鉱夫達の一部はあちらで掘削作業を始めてもらうとして、どちらが早く軌道に乗るかしら?」

「あちらもここと条件は変わりませんが、川が近い分、水運を使えば効率よく軌道に乗ると思います」

「どういうこと?」

 ダズリーは今度は黒板を取り出して説明してくれた。

 切り立った崖と横に流れる川の絵を描き、上に滑車、下に水車の絵を更に描き足した。そして、水車と滑車を繋ぐ線をぐるりと描き、言った。

「鉱床はこの崖からさほど離れておらず、崖の上は比較的平坦でなだらかです。ここに手を入れて、運搬路を開き、水車と滑車で荷の上げ下げを行えば、速やかに軌道に乗せることが可能です」

「ダズリー、貴方天才ね!」

「いえ、滑車は坑内作業でも使用しておりますので」

「ねえ、ゲイリー、貴方はこの案について何か意見はあるかしら?」

「はあ、あちらの山の場合、まず町からあちらに渡る橋があったらと思いますな。今架かってる分では遠回りで、馬車も通れませんし。鉱夫が山に登る道として北西側がかなりなだらかですんで、そちら側に道をつけていただけたら、後はここらの崖に梯子を掛けて上に上がれそうでさあ」

 ゲイリーが地図を指し示して具体的に述べた。

 梯子ね。あちらは切り立った崖が多く、簡単には上れなさそうだったけど、確かに人だけなら梯子で登るのは難しくなさそうだ。結構高いはずだけど。

 二人の話を聞くと、まずあちらの新鉱山を開発して、こちらの鉱山はじっくり取り組んだ方が効率が良いように思った。


「二人ともありがとう!貴重な意見だったわ。ケルヒャーは今の意見についてどう思う?」

「良い案だと思います。まずは橋の見積もりを手配しましょう」

「ええ、バルザックは呼び寄せられる?彼の所に良い設計士がいたでしょう?」

「今頃いつ呼び出されても良いように準備していますよ。きっと。何しろ我が商会頭の一大事ですから、皆馳せ参じたくてうずうずしてると思います」

「そうかしら?またこき使われると戦々恐々なのじゃなくて?」

「いえ、我らは皆、女神の敬虔な信者です。貴女様に仕えることが至福ですので」

 ケルヒャーは芝居がかった礼を執った。

 たまにこういうお巫山戯をして私を揶揄う所が、我が商会のメンバー達の悪い癖なのだ。

 でも私も大袈裟にそのお巫山戯に乗ってあげることにしている。

 私は髪をかき上げ、腰に手を当てポーズを付けて言った。

「よろしい。では、すぐに私の満足のいく働きを見せて、私にその信仰をお見せなさい!」

「「「仰せのままに」」」


 なぜか、ダズリーとゲイリーまで敬礼して、私は慌てて冗談だと言い訳する羽目になった。



 作業はすぐ始められたけど、私は瞬く間に壁にぶち当たった。

 資金繰りだ。

 鉱夫、人夫の賃金に加えて資材費が嵩み、鉱山の産出量が損益分岐点を超える前に、資金が底を尽きそうなのだ。


 前の少額の方の借入を、商会に付け替えたのは失敗だった。

 あれを放置しておけば、商会からお金を引っ張り出せたのに。


 とりあえず、資金が底を尽く前に出資者か融資してくれる銀行を見つけなければならない。


 商会を通じて伯父様の銀行から融資を受けようとしたら、それはできないと突っぱねられた。伯父様自らが笑って言ってたので何か考えがあるのだろう。

 別れ際の言葉は、『復讐が不発のままで良いのか?』だった。

 

 そんなことを言われても、もう何の関係もない人のお金を好き放題に使うことはできない。そもそもガウロン公爵家はかなりの金額をこの鉱山にすでに出資しているのだ。

 

 そんな頭の痛い私のところに意外な人物がやって来た。

「アナリッサ様、ラティスタが馳せ参じました。どうか何なりと御命令ください!」

「ラティスタ!貴方どうしてここに?公爵領はどうするの?」

「あちらはモルガンがおります故。それより、アナリッサ様、ケルヒャーの見積もり通りに予算を分取って参りましたので、どうかお納め下さい」

 そう言って、ラティスタは小切手を差し出した。

 予算ですって⁇どういうこと?

「商会の新規事業の一環として金融事業部を立ち上げました。金融事業部への助成金として旦那様に公爵家の資産を突っ込んでいただきました」

 ラティスタは自慢げに笑って言った。


「金融事業部って銀行ってこと?銀行の免許は純資産がある一定以上じゃないと取れないはずよ」

「いえ、銀行ではなく、投資会社です。つまり旦那様のお金で、合法的に商会名義の出資を鉱山にさせていただきます」

「ああ、助成金って言ったわね。でも領内への投資じゃないのに助成金なんて出るわけないでしょう?」

「商会の本店所在地はガウロン公爵領ですので問題ございません。何よりランプが売れすぎて、領内では各種鉱物の取引量が鰻登りです。商会が鉱山に投資するのは理に適っておりますでしょう?」

「それはそうだけど……」

 誰に似たのかああ言えば、こう言う。流石は大公爵家の領地管理人だ。


「アナリッサ様の『一緒にぼろ儲け』のお言葉、商会一同期待しております。どうかこの資金で、更なる高みに連れて行って下さいませ」

 ラティスタのその言葉にケルヒャーもしっかり頷いた。二人の期待の籠った眼差しに、私は意を決した。

「そうよね。前回は公爵家の財産を使い倒すつもりが、反対に増やしてしまったのだもの。今度こそ、公爵様が大損してもそれこそトントンよね」

「……まあまた増える未来しか見えませんが、そういう事にしておきましょう」

「鉱山からの産出が軌道に乗ったら公爵領には割り引いて卸すわね。それで良いかしら?」

「我らの商会で何でも買い取らせていただきますので、アナリッサ様の利が最大限になりますれば本望でございます」

「私の利だけじゃなくて、皆で『一緒にぼろ儲け』よ!忘れないで!」

 ラティスタとケルヒャーは顔を見合わせた後、並んで深々と礼をした。

「「仰せのままに」」


 ラティスタの持ってきてくれた小切手のお陰で資金繰りは余裕になり、半年もしない内に以前の産出量に達することができてバーンズワース伯爵家は危機を脱した。


 旧鉱山の方も徐々に再開発が進んでおり、あと数ヶ月もすれば再び稼働できる所までになった。


 鉱山が二つに増えたおかげで、領内外から人が多く集まり、我が領の人流、物流も増えて、結果伯爵家の財政は不安のない所まで回復することができた。


 私の個人資産は当然またまた増え始めている。最近、我が商会の売上が国内一に達した模様で、このままだと私が国内有数の富豪になる日も近いだろう。


 そして、ラティスタによるとガウロン公爵家の資産はやはりまた増えているとのことだった。

 おかしい。

 だって助成金として結構なお金をぶんどった筈なのに、どこに増える余地があるのだろう?

 そう聞くと、我が鉱山からの卸を優先的に商会に行ったことにより、副産物的にできた鉱物取引所のせいだった。

 取引所は公爵家の名義なので、関税に加えて手数料がバンバン入ってくるらしい。

 流石ラティスタだ。ちゃっかり領地管理人としての仕事も行っていた。本当に侮れない。


 ラティスタを始めとした商会メンバーにボーナスを弾み、伯爵家の使用人たちや鉱山労働者たちにも還元することができた。

 

 そうしてまた夏がやって来て、いつかの舞踏会にまた参加することになった。

 今度は伯爵家当主として。

 伯父様からは見合いをしろとせっつかれているが、事業の忙しさを理由に先送りにさせてもらっている。

 それでも、そろそろ本気で自分の将来について考えないといけない時期なのは分かっている。


 舞踏会では、セルジュと会える予定だ。

 彼とはあれからずっとビジネスパートナーの一人として良好な関係を築いているが、今の所一歩先に進む様子はない。

 私自身が無意識に避けているのかもしれないが、まあこの十数か月はそんな余裕はなかったのだけれど。


「バーンズワース伯爵、アナリッサ・バーンズワース様!」

 高らかに叫ばれたその名に、会場中の視線が集まった。

 あれから随分経つので、珍しいものを見る目半分、誰だ?と窺うような目が半分。


 私は今は侯爵夫人になったベアトリスを見つけてまた身を寄せた。


「久しぶりね。父から聞いたわ。色々苦労したみたいね」

 やはり面白がっていそうな笑みを浮かべて、そう口にするベアトリスは、相変わらずいい性格をしている。

「貴方のお父様のお陰で事なきを得たわ。今は全て落ち着いたの」

「あら、父から貴女に合いそうな相手を引き合わせるように申しつかっていてよ。どんな方がお好みかしら」

 伯父様!よりによって一番駄目な人にそんな事命じるなんて!裏切り者め!

 いえ、ベアトリスは伯父様の実子だし、性格が多少問題あるだけで、根が悪い訳ではないけれど、それでもそんなことを命じないで欲しかったわ!


 半ばベアトリスに引きずられるようにして移動しようとしたところで、救世主が現れた。

「アナリッサ!」

 遠くから駆けてきたように息を上げて頬を紅潮させたセルジュに呼び止められた。

 ベアトリスはさっと手を放し、後ずさっているけれど、扇子で隠した口元が弧を描いているのが見え隠れしている。

「セルジュ、もういらしてたのね」

「ええ。今日こそ一番に貴女に申し込みたくて」

 そこでセルジュは息を呑んで、背筋を伸ばした。そうしておもむろに私の正面に立つと手を差し出した。

「よろしければ、本日、貴女をエスコートする名誉をいただけませんでしょうか」

 エスコートとは?普通は入場の時にするものではないのかしら?

 そんな疑問が湧いたけれど、まあ、これが彼のギリギリの交渉術なのかもしれない。

 不利にならない距離感を探りつつ、拒絶されないように糸口を探す。

 何とも弁護士の彼らしい。


「……ダンスのお誘いということでしたらお受けいたしますわ」

「ええ、ファーストダンスもその後も僕に独り占めさせてください」

「あら、それは無理ね。伯父様と踊る約束がありますもの」

「クズリッチ伯爵ですか?それは仕方ありません。伯爵にだけはお譲りします」

「ふふふ。嘘よ。他の誰ともまだ約束していないわ」

「本当に?……良かった。何とか間に合いました」

「今日はご出張のご予定と仰っていらしたものね」

「そうです。下手をすれば今日は来られませんでしたが、今度こそ誰にも先を越されたくなかったので」

 そう言うと一旦言葉を切って、セルジュは私をじっと見つめた。


「ダンスの後、お話ししたいことがあります。お時間をいただけますか?」

「ええ、予定はありませんから」

「では約束です。ああ、飲み物がありませんね。僕一人で取りに行きたいところですが、貴女を一人にしたくないので……」

 セルジュはボーイを探すそぶりを見せた。

「まだ喉は渇いていないから私は大丈夫よ」

「僕は緊張で渇いてしょうがないです。ああ来ました」

 ボーイがスパークリングワインを差し出し、セルジュはそれを一息で飲み干した。

 そんなに急いで飲んだら、酔いが回るのではとこちらが心配になる。

 空のグラスをボーイに渡したところで、ちょうど曲が流れ始めた。


 セルジュは少し耳を赤くして、お酒のせいか潤みを帯びた瞳で私を見つめた。スッと前に出された手を取ると、瞳を逸らさず私を(いざな)った。


 彼のダンスは相変わらず危なげもなく、流れるように私をリードする。

 彼に身を任せる心地よさは、不思議な安堵をもたらし、私は夢のようだと感じた。


 気が付けば二曲連続で踊り、少し息が上がった私に、セルジュは微笑み、「少し休みましょう」と言ってくれた。まだ昼間のように明るい庭園に移動すると、噴水ではなく、東屋の方に歩みを進めた。

 東屋の方にも飲み物が用意されており、私たちはグラスを一つずつ持って近くのベンチに腰掛けた。


「クズリッチ伯爵が貴女の見合い相手を探していると噂で聞いて、居ても立っても居られなくなりました。まさかもう話は進んでいますか?」

「いいえ。何人か釣書は頂いたけれど、今のところ全てお断りしているの。後継者を作れと伯父に言われても、いざとなれば妹の子どもに継がせれば良いと思っているし」

「……もしかして、まだ忘れることができませんか?」

「忘れるって、結婚で失敗したこと?そんなの忘れようもないでしょ」

「いえ、元ご主人のことです」

「……忘れるも何も、彼は永遠に彼のままよ。元夫だとかそういうことじゃなくて、」

 ジャスティンを忘れることはこれからもないだろう。思い出しては割り切れない気持ちが私の心に影を残し続ける。彼とのことが良い思い出になる気がしないのは、あの時、私の中のガラスの何かが完全に割られて、今も棘のようにそこかしこに突き刺さっているからだ。


「アナリッサ、どうか貴女の心の傷に、寄り添う資格を僕に与えてくださいませんか?貴女が苦しむとき、悲しむとき、一番近くで貴女を慰める資格が僕は欲しい」

「資格?」

「ええ。今までは、僕たちの関係はクライアントと弁護士の関係でしかなかったけれど、今日から僕が貴女の恋人だと口にする資格を僕に与えてください。僕は初めて会ったあの日から、ずっと貴女に恋い焦がれています」

 あまりに真剣なその様子に、少し可笑しな気持ちになった。この人は、初めて会った日からずっと真っ直ぐで、今まで会った誰の言葉よりも、私の心の奥に届く。


「うふふ……恋人になるのに、資格っているのかしら?」

 そんな固い言葉じゃなくて、もっとシンプルに伝えてほしい。例えばそう。

「好きよ。セルジュ。貴方の横は心地よくて、貴方の手は私をいつも導いてくれた。これからは舞踏会の度でも何でも、貴方が私の横にいつもいてくれる?」

「アナリッサ……。はい!もちろんです。どんな時も僕を信じていて下さい。必ず貴女と共にいることを誓います」

 感極まったように、私の両手をギュッと握り、彼は宣誓した。

 やっぱりどこか固いのは、弁護士という職業柄かしら?でもそれさえも愛しく感じて、私は何年かぶりに心からの笑顔になった。


 しばらく語り合ったところで、セルジュがクライアントの貴族に見つかり、少し話をしてくると席を外した。

 私は手持無沙汰で、またあの睡蓮を見に行こうかと立ち上がった。


 あの時と同じような夕暮れ時が近づき、記憶の中の景色と全てが重なって見えた。

 白い花々は変わらず美しく、水はやはりとても綺麗だった。


「アナリッサ?」

 思わず振り返ると、ジャスティンがそこにいた。

「ジャスティン……。元気だった?」

 記憶にあるよりも少し痩せたジャスティンは、儚いような笑顔を浮かべた。

「ああ。君は変わらない?」

「お陰様で。……会えて良かったわ。私、お礼が言いたかったの。

「お礼?」

「小切手。本当に助かったの。ありがとう」

「……あれは、領内の発展のためだ。お礼を言われるようなことじゃない」

「『助成金』なんて、よく分からない名目であれほどの大金を出すなんて、あり得ないでしょ。……ラティスタを問い詰めたら白状したわ」

「……君になら私の持っている物を全て捧げても惜しくはないと今でも思ってる。ラティスタ達と、公爵家の財産を使い倒す計画を立てていたんだろう?」

「知ってたの?」

「ラティスタとモルガンに、当然の権利だとはっきり言われたしね。実際、君の気持ちを思えば、それぐらいしか私の罪を償う方法はないと思っていた。だけど、結局、君のお陰で総資産はどんどん増えつつある。これじゃあ、いつまで経っても私は君に許しを請うことができない」

「そうね。貴方の財産を全部使い倒して、私のものにしてやろうと思ったのに。結局失敗ばかりで、気は晴れなかったわ。ふふっ」

 私は自分で言ってて、可笑しくて笑ってしまった。

 腹いせで始めたことだったのに、少しでも嫌がらせをしてやろうと思ったのに、結局仕返しが一度も成功しなかった。だからいつまでも貴方のことが心の楔になっていた。

 だけど、もう、手放して前を向かないといけない。

 

「ジャスティン、改めて、ありがとう。私、クレイル弁護士と恋人同士になったの。もうだから……」

 その先の言葉が出てこない。さよならはもう言ったし、忘れるというのは無理だろう。この気持ちを、関係を言い表す言葉が見つからずに、躊躇っていたら、なぜか、目頭が熱くなった。


「アナリッサ、君はやっぱり妖精のような人だ。誰よりも輝き、自由で、美しい。そして、君は誰かに幸せにしてもらうのではなくて、自分で幸せになれる人だね。そして、誰かを幸せにできる人だ。……私も君に会えて本当に幸せだった」

 切なく微笑むジャスティンこそ、妖精のように、手を伸ばせば消え入りそうで、私を不安な気持ちにさせた。

 でも、もう私はその手を掴むことはしないし、できない。そう二度と。

 出会いのタイミングが早いか遅いかしていたら、ここまで拗れることはなかったかもしれない。

 でもそれが「私たち」だったのだ。


 私は彼に背を向け、歩きながら言った。

「私、貴方のこと一生許さないわ。この意味分かる?」

「もちろん、許さなくて良い。一生憎まれて当然だ」

 私は、振り返って言い放った。

「違うわ。『忘れない』って意味よ」

 そうして驚く彼の顔を見て、少し心の蟠りが溶けた気がして、今度こそ、振り返らずにその場を去った。


「ねえ、セルジュ。私たちのデートの場所って、これで良いのかしら?」

「アナ、僕は貴女と一緒ならどこでも天国です」

「でも流石に、お互いの事務所を行き来するしかないのは残念過ぎるわ」

 私は色々な書類にサインをしながら愚痴をこぼした。

 伯爵家の書類に、商会からの借り入れや出資への返済や配当手続きの書類、商会の議決書への署名。

 仕事が多すぎて、食事さえもままならない。

 私に時間ができると、セルジュの方も忙しかったりして、今度は私の方から彼の所に出向いたりもあるけど、基本的にセルジュが、私の所に来てくれる。

 というか、セルジュは随分前からバーンズワース伯爵家と商会の顧問弁護士でもあるので、来てもらう用事も多いのだ。


「アナリッサ様!ラティスタ、馳せ参じました!」

「また来たの?モルガンだって忙しいんだからいい加減にしなさいよ」

「いえ、アナリッサ様の下に侍る以上に重要なことはありませんので!」

「もう!で、一体何の用よ?」

「それがですね。我が商会のランプの模造品が他国で出回っておりまして……」

「何ですって⁉︎何で速達で知らせないの?えっ、模造品なの?類似品じゃなくて?」

「模造品でございます。ご丁寧に箱までそっくりに仕上げておりますが、随分粗悪な品でして」

「大問題じゃない!」


 こんな風に何だかんだと安らぎとは程遠い日常だけど、今私の隣には愛する人がいるので、やっぱり何だかんだと幸せなのである。

 


 




 




 









お読みいただきありがとうございました。


「公爵令嬢は婚約破棄したい」と同じ世界観の別の国のお話でした。


また評価や感想をいただけたら今後の励みになります。

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嫌がらせが嫌がらせになってない様な、なっている様な? アナリッサの美しいのにチャキチャキ振りな性格が良いですね。 何か「ヨコハマ物語」の万里子を思い出しました。
 クズリッチの思い切ったネーミングに、ヒロインの自分ですら制御しきれない程の経営手腕やいまいちダーティになりきれないスタンス、若干裏がありそうで結局あくまで真剣にヒロインに接しようとしていたセルジュな…
面白かったです。 なるべくしてこうなったというしかない広いんですね。 仕返しするはずが、と言いながらの最後の別れの場面がとてもいいと思います。余韻を感じられました。 忙しくないと生きている実感がないよ…
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