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探し物⑤

 山を降りてざくざくと雪を踏みしめながら雪原を歩く。先頭を行くルインが熱で雪を溶かしてくれるので、相変わらず歩きやすい。フレデリックが周囲を見回しながら緊張した声を出した。


「気をつけろ。この辺りはマンムートの生息域だ。他の出てくる魔物も狡賢く、バベルから探索拠点付近にかけて出没する魔物とは一線を画する強さを持っている」

「うん、さっき食料探しに行ったときに感じた」


 フレデリックが寝ている間、アイラは軽く奥地を探索してみたのだが、樹氷林はかなり木々が密生しており、おまけにそこに雪がまとわりついているためさらに厚みを増して薄暗く、嫌な感じだった。そこかしこの木々がもげていて、マンムートが荒らした跡が生々しく残っている。幸い先ほどは岩窟から近い場所で、雪の間からドシュドシュと飛び出してくるアルミラージを捕獲できたので助かった。

 雪原での食料確保は生死に関わる重要事項。岩窟内を軽くあさってみたのだが、調味料の類は見つかったが食料はなかったので出かけたというわけだった。


「ところでフレデリックはマンムートとよく一緒に行動してるんでしょ? 制御できるような魔物には見えないけど、一体どうやってんの?」


 この問いかけにフレデリックは顔を顰めた。


「奴の行動パターンを把握しているから、それを利用してスムーズに冒険者たちから荷物を略奪していただけだ。それだって完璧じゃないから、今回みたいなことが起こった。もっとも、マンムートに突っ込んでいく人間がいるとは思わなかったが……普通、命を優先して撤退するだろう」

「あたしにとってこの調理器具は、命と同じくらい大切なものだから」


 腰にぶら下げた愛用の調理道具たちをぽんと叩く。


「昔、住んでた街の人が作ってくれたんだ」

「魔物に襲撃されたという、生まれ故郷か?」

「んーん。それとは別に住んでた街。まあ、そこも爆破されて跡形も無くなっちゃったけど」


 あっけらかんと言い放つと、フレデリックは理解できないとでも言いたげな表情でアイラを見つめる。


「そんなに何度も過酷な目に遭っていながら、どうしてそう明るくいられるんだ」

「え……悲しいことが起こった以上に楽しいことが起こってるから?」

「……楽しいこと?」

「うん、そう。たとえば両親がいなくなって、悲しくて辛くてお腹も空いて、自分も死んじゃおうかと思ったときには助けてくれた人がいたし、その人とルインと一緒に旅をするのは楽しかった。魔法を覚えて、いろんな魔物を倒して、知らない場所を旅して……その後に滞在した街で、色々な料理を食べたらすごく美味しくて。あたしも美味しい料理が作れるようになりたいって思ったんだ。それからその街が爆破されて、旅して辿り着いたバベルでは見たことも聞いたこともない魔物と植物がいっぱいで、料理のしがいがあるなぁって。……辛いことも悲しいこともたくさんあったけど、それに呑まれるんじゃなくて、それ以上に楽しいことがたくさんあるって考えたら、ワクワクするじゃん?」


 どうせ一度は捨てた命だった。両親が死んでたった一人になったとき、うら寂しい荒野で自分もこのまま野垂れ死ぬんだなと覚悟した。

 シーカーが拾ってくれたから今の自分がある。

 なら、助けてくれたシーカーのためにも、今を精一杯楽しんだほうがいい。きっとその方が、彼だって喜んでくれるだろう。自分の境遇を悲観するために生きているわけじゃない。日々を楽しむために生きているのだから。


「世の中ってまあ理不尽だよねって思うけど……捨てたもんじゃないとも思うよ」

「……捨てたもんじゃない、か」


 フレデリックはゆっくりと噛み締めるようにアイラの言葉を復唱した。


「そうそう、捨てたもんじゃないよ。ね、ルイン」

「そうだな。美味いものを腹一杯食えば、良い気分にもなる」


 まだ迷いがありそうな表情だったが、もうあとは彼の気持ちの問題だ。妹が行方不明になってから人生が停滞していたであろうフレデリックの背中を、自分が少しでも押せたのであれば良いなと思った。

 ひとまずアイラは目的を果たすために話題を変える。


「フレデリックはさー、ジーナちゃんが行方不明になった場所ってわかってるの?」

「いや、正確な位置まではわからない。この樹氷林のどこかということしか……何せマンムートが現れるときはひどい吹雪が吹くから、周囲の景色が見えなくなるんだ」

「じゃ、地道に探すしかないね。何年くらい探してるんだっけ」

「もう五年になる」

「手がかりみたいなものは見つかった? 衣服のかけらとか」


 胸元を握りしめてうなされていた様子を思い出し、形見になるようなものを肌身離さず持っているのではないかと予想して尋ねたのだが、フレデリックは首を横に振った。


「何も」

「そっか」

「何かあれば、ニオイから辿ることもできるのだが……」

「あったとしても、随分前のものだ。この広い雪原で、匂いを頼りに探すなんて可能なのか?」

「オレの鼻は人間とは違うから、大いに可能だ」

「でもないんじゃしょうがないね」


 五年もこの場所にとどまり続けて手がかり一つ見つからないのに、アイラたちが加わったところで進展があるかはわからない。だがまあ、なんとかなるだろうと思うことにした。

 アイラは不気味に静まり返る周囲を警戒しながらフレデリックに再び問いかける。


「どの辺りを探す?」

 フレデリックは樹氷林ではなく空を見た。

「もうじきに日が傾き始める。あまり奥まで行くと夜までに岩窟に戻れなくなるから、今日はこのあたりを探そう」

「わかった」


 雪原で人を探すというのは大変だ。時間が経てば経つほど降り積もる雪に埋もれてしまうし、おまけにここは魔物が跋扈する土地なので食われてしまったという可能性も十分にありうる。それでも、五年も探して衣服のかけらさえ見つからないというのは不思議だった。捕食されたにしても服は食べられないだろうから、引き裂かれた肉片とともに散らかっていてもおかしくはない。

 その日は手がかりらしきものは何も得られなかったが、再び飛び出してきたアルミラージを全員で討伐した。


「お肉ゲット」


 アイラは目をバッテンにして息絶えたアルミラージの耳の部分を持ち、同じく三羽のアルミラージをぶら下げたフレデリックとともに岩窟に戻った。


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もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ 



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3巻は雪山編!

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! 生きててほしいと思う自分もいるけど、5年の間戻らないのはね〜 良くて記憶喪失でどこかに居るとか? それでも雪(氷の)の中ならキレイに残ってるかもね。悲しいけ…
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