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沼地の浄化作業⑥

 パシィとイリアスが瘴気を結界で封印した翌日。


「さて、瘴気もどうにかなったし、パシィも元気になった。誤解も解けたし、魔導具作成に必要な材料も揃った。もうそろそろバベルに戻っても平気かな」

「そうだな。先ほど確認してきたが、安定して魔法陣は稼働していた。定期的な魔力供給と綻びが生じないかの点検さえ怠らなければ問題ないはずだ」


 地下の魔法陣の状態の確認から戻ってきたイリアスが首を縦に振った。その隣では、パシィが明らかに落ち込んだ様子で佇んでいた。三角帽子は紫色の髪からずり落ち、体を小刻みに震わせ、目をうるうるさせてアイラを見上げている。


「……アイラ、行っちゃうの……? さみしい」


 まさに捨てられた子犬そのものの状態に、アイラの庇護欲がそそられる。たとえ中身が百五十年生きる魔女で、アイラよりよほど年上だとわかっていても、この見た目は反則だろう。パシィを一人残していくことには、良心が痛んだ。しゃがみこんだアイラは、パシィの薄い肩に両手を乗せ、パシィにというより自分に言い聞かせるように言った。


「また遊びに来るから。そしたらまた、ごはん作ってあげるから。そうだ、今度はもっと色んな食材とか調味料とか料理道具を持って、もっとおいしいもの作ってあげるから」

「ほんとに? 約束だよ」

「うん、約束する」


 パシィはガラス玉のような大きな目でアイラをじっと見つめた後、素直に頷いた。


「わかった」


 返事を聞いて安心したアイラは、小屋にいる面々に声をかける。


「みんなはどうするの?」


 オデュッセイアが真っ先に口を開いた。


「私は戻る。今回起こった事をギルドマスターに直接話し、魔女殿の誤解を解き、沼地にギルド職員を派遣するよう要請しなければならない。探索拠点が完成したから、常駐する手筈を整えてもらわなければ」

「僕はもう少し残る。ギルド職員が来たら、地下の魔法陣の説明をしないと」

「お兄が残るなら、わたしももうちょっとここにいようかな」


 シングスがテーブルに頬杖をつき、ピンク色の髪をくるくる人差し指に巻きつけながら答えた。

 イリアスとシングスが残るなら、パシィの寂しさも少しは和らぐだろう。ギルド職員が来て、ここが拠点になるならば、もう一人でいる必要もない。


「じゃ、あたしは、バベルに戻るね」

「私の風魔法で送っていこうか?」


 アイラはオデュッセイアの申し出に首を横に振った。


「ルインと一緒に森を抜けていくから、いいよ」

「そうか。道中気をつけたまえ」

「うん、ありがとう」


 前足に顎を乗せて眠っていたルインがのそりと起き上がる。


「行くのか?」

「うん」


 簡単に荷物をまとめて小屋を出た。すべて魔導具作成に必要な素材たちだった。オデュッセイアが扉の前で立ち止まり、頭ひとつ分小さいアイラを見下ろした。


「今回、湿地帯や森で採取した素材の代金については、全額を君付けで保管するよう伝えてある。バベルに戻ったら、ギルド職員にその旨尋ねるといい」

「え、全部もらっちゃっていいの? お兄様とかシングスに結構手伝ってもらったけど」

「構わない。ここでの生活中、君にはよい料理をたくさん作ってもらったし、私たちからのほんの礼だと思ってくれ」

「シングスもそれでいいの?」


 小屋から出てオデュッセイアの隣に立っていたシングスにも問いかけてみると、彼女もあっさりと頷いた。


「うん、もちろん! アイラの作る料理美味しかったよ。また今度、作ってね!」


 沼地で関わった人たちが、横並びになっていた。イリアスが右手を差し出してくる。


「誰とも争わずに済んだのは君のおかげだ。おかげで研究に集中でき、瘴気の大元を特定し、こうして封印することができた。感謝してる」


 アイラも右手を差し出し、握り返した。イリアスの指先はほんのり冷たい。


「大したことしてないよ。なりゆきってやつじゃない?」

「パシィもヘルも、アイラに感謝してる……ありがとうアイラ」


 アイラはパシィの頭を、三角帽子越しに撫でた。


「なんか困ったことがあったら、ギルドの人経由でもいいから教えてね」

「うんっ」

「よし、行くかアイラ。乗るといい」


 促され、アイラはパッと片足を上げてルインにまたがった。


「じゃあね!」


 右手を上げて笑顔で挨拶をし、小屋を覆う結界の外に出る。瘴気が薄くなった今、視界は多少広くなり、薄紫色の靄がかかっていた空には鈍色の太陽が上っていた。



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もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ 



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