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作ろう! カラフルベリーのポットパイ②

「もうすっかり夜になっちゃったねー」

「腹が減ったな」


 並んでキッチンに入ると、そこではすでに他の冒険者たちが夕食を取っていた。だだっ広い黄土色の空間に適当に配置されている長テーブルに座り、わいわいがやがやと食器がぶつかる音と会話が聞こえてくる。


「あ、アイラさん」

「あぁ、石匣の手のみんなお揃いなのね」


 アイラが皿の間から顔を覗かせると、そこには昨日出会ったエマーベル、ノルディッシュ、シェリーの三名の姿があった。


「これから何か作るんですか?」

「うん、そう。パイをね」

「へえええ」

「石匣の手のみんなは、何食べてるの?」

「今日は廃鶏の肉を」


 エマーベルが見せてくれたのは、パンの上に焼いた肉を載せた簡単な夕食だった。廃鶏は産卵期間を終えた鶏のことで、その肉はおせじにも美味いとは言えない。視線を受けたノルディッシュが肩をすくめた。


「昨日、クルトンの治療代でほとんど金を使い果たしちまったから、あんまり贅沢してる余裕がないんだ」

「まあ、手持ちの金額で治療が受けられただけマシだと思いましょう」

「死ななくってよかったよねぇ〜」


 廃鶏をチキンにしてパンに載せてムシャムシャしながら、石匣の手のメンバーは言う。アイラは、何かを食べている人たちを見て、そしてキッチン中に漂っている美味しそうな食べ物の匂いを嗅いで、無性にお腹が空いた。


「よし、あたしたちもはやいところ夕食にしないとね」

「うむ」

「ルインは休んでていいよ。荷物とモカちゃん載せてくれてありがと」

「何の。お安い御用だ」


 全ての荷物を取り去ると、ルインは身を伏せてぐぐっと伸びをしてからあくびをする。あくびとともに小さな火の玉をぽっと吐き出すと、その場に伏せてくつろぎ出した。

 アイラはキッチンに向き合い、よしっと気合を入れた。

 パイを作ろう。だがしかし、肉の処理を先にしてしまおう。

 アイラはウィトティントの解体処理からはじめることにした。

 ウィトティントは、鱗がない分ドラゴンよりも解体が簡単だ。血抜き、皮剥ぎ、筋切り、骨取りなど各種の工程を終わらせて、ミートパイにするために肉をミンチにした。あまり細かくしすぎると粘り気がでそうだし、肉の食感を残したいので少し大きめの塊も残しておく。

 先に肉だけ炒めておこうと、共同キッチンに備え付けられているフライパンを熱してそこに肉を投入した。ジュージューと肉が煙をもくもくあげながら香ばしい匂いを発しつつ焼けていく。


「くうう、お腹すいたー」


 アイラは焼ける肉に塩をふりつつつぶやいた。丸一日動いた後なので、お腹ペッコリだ。


「あああ、早く食べたいよー」


 独り言を言いながらも、美味しいパイを食べるためには自分が頑張るしかない。頑張れ、あたし。このために今日一日頑張ってきたんだと言い聞かせる。背後ではルインの寝息が聞こえてきた。

 食事を終えた人々が、遠巻きにアイラを見つめる視線を感じていた。昨日派手にドラゴンステーキを焼いて食べたので、今日は何を作るのかと興味があるに違いない。アイラはそうした好奇の目線を気にせずに、もくもくと料理に没頭した。とにかくごはんを食べなければ。


「よし、お肉が焼けたから次はパイ生地を作ろっと」


 肉をフライパンにいれたままにしておき、お次はパイ生地作りだ。

 パイ生地は、そんなに難しくない。

 デア粉とアル粉を同量ボウルに入れ、ここに角切りにしたバターを投入。ある程度形になるまで混ぜたら、次は冷水を入れる。


「冷水、冷水っと。ウォーターフロック!」


 アイラは掌に水を生み出す。この時、ただの水ではなく、ひんやりした水を生み出すように注意しなければならない。この微妙な温度調整が難しい。失敗すると氷入りの水が出来上がってしまうし、加減が弱すぎると常温の水が生み出される。

 掌に溢れたのは、まるで山の湧水を汲んできたかのようなひんやりと刺すような冷たさの水。


「よし、完璧!」


 パイ生地作りは量るのが大事だ。水をきっちり量り、ボウルに入れて、手でぐいぐい捏ねて生地をひとまとめにする。ムラなく均等に混ぜたら、デア粉粉を打ち粉にして、生地をめん棒で伸ばす。伸ばしたら生地を三つ折りにする。

 この伸ばす→三つ折りにする、の工程を五回くらい繰り返す。


「パイ生地、完成〜。次はジャム作りだね!」


 アイラは出来上がったパイ生地を脇にどけ、カラフルベリーがぎっしり詰まった袋を取り出した。周囲からおお、とどよめきの声が上がり、食事を終えてアイラの調理を眺めていた石匣の手のメンバーの一人、シェリーが声を上げた。


「すごい、こんなにたくさんのカラフルベリーがあるなんてぇ!」

「モフモは複数の魔法属性攻撃をしてくるから防ぐのが大変なのに……」

「一帯のモフモを全滅させるくらいじゃないと、こんなにたくさん取ってこられないぜ」

「そう? あのアンテナ、意外に簡単に切断できたよ」


 カラフルベリーをどんどん鍋に投入していくアイラに、ノルディッシュが言い募る。


「並の剣だと無理だろ。魔法剣を使うにしても、同属性のモフモを相手にするときは苦労する」

「まあ、ジャイアントドラゴンに比べれば軟かったし、いけるいける」

「さすが二級冒険者は格が違う……」


 アイラは赤いカラフルベリーだけを鍋にポイポイ入れていた。氷魔法を使えばこのままでもしばらく保存ができそうだし、全部を今すぐジャムにしてしまう必要はない。パイにする分と、パンにつけて食べる分があればいいだろう。鍋いっぱいに赤いベリーが入ったら、火にかけて煮込む。砂糖なしでも十分甘いので、このままジャムにしてしまおう。砂糖、高いし。

 鍋底が焦げ付かないように木ベラで掻き回しながら、注意深く慎重に溶けてゆく真っ赤なベリーを見守った。それにしてもいい匂い。甘い香りが鼻腔をくすぐり、先ほど食べた少しピリッとした赤いカラフルベリーの味が思い出され、空腹に疼く胃にますます刺激をもたらした。ああ、お腹すいた、早く食べたい。

 ぐつぐつぐつぐつ煮込んでいたら、皮も繊維も溶け出して、とろっとしたジャムが出来上がる。これでやっと具材の準備は完了だ。

 十枚の皿と、ついでにマグも並べて、ここに先ほど作ったひき肉とカラフルベリーのジャムをたっぷりと入れた。


「よし、あとは、上からパイ生地を載せれば……準備オッケー!」


 アイラは丁寧に皿とマグの上にパイ生地を載せ、はみ出した部分は皿にぺたりとくっつけた。アイラが作り上げた手の込んだ料理を見て、周囲の人々がおぉ、と感嘆の声を漏らす。シェリーが口の端から涎を垂らしながらアイラに問いかけてきた。


「そ、それで完成ですかぁ!?」

「んーん。オーブンで焼いてパイ生地をこんがりしっとりさせたら出来上がり!」


 パイ生地がオーブンの中でこんがり焼きあがる様を想像しながらアイラが答える。ジリジリ熱せられたオーブンの中でじっくり焼けてふくらむパイ生地、熱々の具材。空きっ腹にこれほどのご馳走はないだろう。

 アイラは間も無く自分の口に入るパイの味を空想しつつ、お皿を手にした。


「さあ、オーブンで焼こう!」

「あ、非常に申し上げにくいんですが、低層階の居住区には、オーブンがないんですよ」

「えー!?」


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もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ 



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