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【9/30書籍3巻&コミカライズ発売】もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
ACT7:臨時開店!アイラの料理店

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220/225

アイラは興味を抱く②

 共同キッチンの扉を開ければ、エマーベルたちが既に待機していた。アイラがいなかったから手持ち無沙汰だったのか、長テーブルに腰掛けている。


「おはよ、みんな!」

「おはようございます。どこかへ行ってたんですか?」

「うん、そう。サラマンダーのお肉をもらっちゃった!」

「サラマンダーの……? ということは今日は、ゴア砂漠産の食材ですか。一体どなたからの差し入れですか?」

「今日はね、あたしの命の恩人にして戦いの師匠、シーカーからのプレゼントだよ」


 アイラの声かけに応じるかのようにひょっこりとキッチンに入ってくるシーカー。フーシンとルインもぞろぞろとやってきた。


「やあ、お邪魔するよ」


 シーカーは手近な椅子を引いて腰掛け、ルインはアイラの脇に座って、フーシンはキッチンに興味があるのかウロウロと空中を漂っている。

 アイラはサラマンダーの肉を焼くべく部屋を横切りキッチンに立った。


「僕たち何か手伝いますか?」

「とりあえずはいいや。お肉焼いて出すから座ってて」

「はぁ」


 アイラはサラマンダーの肉を改めてしげしげと見つめる。

 サラマンダーの肉は黄色みがかっていて、独特の香りがあった。魔物にありがちな臭みなどではなく、どちらかというと食欲をそそる類のものだ。


「このお肉、なんかいい匂いがする……! スパイシー!」


 スパイシーな香りの肉というのは初めてである。焼く前からこの香り。焼いたら一体どうなってしまうのか。

 アイラはいそいそそわそわしながら、鉄板の上に肉を広げた。

 肉がじゅうじゅうと焼ける音と共に、ますますスパイシーな香りが増し、今やキッチン中に強烈に胃袋を刺激する香りが漂っていた。

 この香りは、とんでもない。食べたくて食べたくて仕方がなくなるような香りだ。

 ルインが口の端から涎を垂らさんばかりの勢いで焼けていく肉を見つめていた。


「うまそうだな」

「ほんと、美味しそう!」


 この焼けたサラマンダーのお肉。絶対に美味しいに違いない。食べる前から本能が告げている。

 アイラが肉から一瞬目を離すと、長テーブルにはシーカーとエマーベルたちが座り、そしてエマーベルが律儀に自己紹介をしていた。


「アイラさんには色々とお世話になっています。メンバーの命を助けてもらい、魔物の落とす希少な実の採取に行き、そして今は店の手伝いをさせてもらっています。料理人としての腕前はもちろん、戦闘力もすごく、おまけに気さくで話しかけやすい……我々のような三級冒険者パーティがアイラさんと出会えたのはとても幸運だったと思います」

「うん、まあ、アイラはあんまり細かいことは気にしない性格だから、そうかしこまらなくてもいいよ」

「アイラさんのお師匠様ということは、さぞかし凄腕の冒険者なのでしょうね……!」

「俺は好き勝手やってるだけだから、そうでもないよ」


 気負いのないシーカーとは対照的にエマーベルたちは緊張気味だった。

 フーシンは顔面に包帯が巻かれているノルディッシュが気になるのか、顔をしげしげ見つめ、そして突然叫び出した。


「オイラ、こういうマモノ見たことアル! ミイラ男! ミイラ男!!」

「なっ!? ちげえ! 俺は人間だ!」

「ウソだ! マモノ! マモノ!」


 奇妙な姿のノルディッシュが魔物に見えたらしく、フーシンは牙を剥き出しにして怒り出した。エマーベル、クルトン、シェリーは慌て、シーカーは笑い出した。


「フーシン、違うよ。彼はれっきとした人間だ」

「……ホントに?」

「本当に。ほら、落ち着いて」


 シーカーに手招きされたフーシンは、まだちょっと疑り深そうな顔をしていたが、すごすごと引き下がってシーカーの隣で浮遊し出した。

 なんだか騒がしいようだけど、とにかくお肉が焼けた。

 アイラは人数分のお肉を皿に盛り付けると、テーブルへと運ぶ。


「はい、できあがり! 『サラマンダーの焼肉』だよ!」


 朝っぱらから豪快に焼肉だ。

 シーカーの隣の空いている席に腰掛けたアイラは、さっそくフォークを手に持ってぷすりと刺した。

 サラマンダーの肉は香り同様、スパイシーな味わいだった。肉質はなかなか硬く、しっかり噛まないと噛み切れない。どのくらい硬いかというと、靴底くらいの硬さだ。ヘルマンが文句を言うレベルだろう。

 ただ味としてはすごくいい。

 次々に食べたくなるし、ごはんかパンが欲しくなる。


「んんー、おいしーね。初めて食べる味っ」

「やはり匂いと同じで食欲をそそる味だな!」

「俺も久々に食べるけど、ちょっと癖になるよね」

「オイシイ、オイシイ!」


 アイラたちは夢中でサラマンダーの肉を食べたが、エマーベルたちはもう少し吟味している様子だった。


「ゴア砂漠の南西には独自の魔物が多く出現するという話ですが、その魔物の一種でしょうか……変わった味ですね」

「初めて食べる味だけど……確かに癖になるかもぉ」

「アイラさんといると珍しいものをいっぱい食べられるな」

「もう一生食えんかもしれないから、噛み締めておかねえと……」


 全員朝から顎が痛くなるほどに硬い肉を噛み締め、満腹になる。


「シーカーはしばらく砂漠にいるの?」

「そうだね、多分そうなるかな」

「ふぅん……砂漠、おいしいものあるのかなぁ……」

「どうだろう。食べられるものは結構ありそうだったけど」

「そっかぁ……」


 サラマンダーの他にどんな魔物が生息し、動植物が生えているのか。

 アイラはバベルにくる時にゴア砂漠を抜けてきたが、あの時には真っ黒いデザートワームとサボテンしか食べるものがなかった。もっと色々な生き物がいるならば、是非ともお目にかかりそして食べてみたい。


「…………」

「…………」

「…………」


 キッチン中に妙な沈黙が流れた。

 全員がアイラを見ている。ルインはやや期待に満ちた目で、シーカーは何を考えているのかわからない笑顔で、そしてエマーベルたち四人の顔はややひきつっている。

 一体アイラが次に何を言い出すのだろうかと戦々恐々としているかのようだった。

 だけどアイラだって、こうみえて時と場合を選んで発言する。あんまりにも空気を読まないことは言わない。

 緊張気味な空気を壊すかのように立ち上がり、声を張った。


「さっ、夜のお店開店に向けて、仕込み仕込み!」

「うむ」

「あ、はい」

「はぁい」

「そうだな」

「おう」


 ルインは少し残念そうに、そしてエマーベルたちはホッとした表情で返事をする。


「俺はそろそろ行くよ。フーシンも」

「ウン!」


 立ち上がったシーカーにアイラはひらひら手を振った。

「また寄ってね!」

「ん」


 軽く頷き、手を振って、フーシンを伴いキッチンから去っていくシーカー。

 まだバベルに滞在するっぽいから、また会うこともあるだろう。手土産ありでもなしでもシーカーが来てくれるならそれだけで嬉しい。


「じゃあ、今日の料理の準備しよっかな」


 砂漠のことは一旦考えないようにして、とりあえず今日の営業に集中しよう。


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もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ 



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