久々の探索⑤
「さて、ゼリーは冷えたかな?」
魔導具箱の中で冷やしておいたゼリーを取り出す。
「ひっくり返して、型から抜いて……と」
お皿の上にボウルをひっくり返し、そのまま慎重にゼリーを取り出す。
「ん、完璧!」
現れたのは、海をそのまま形にしたような、青く透明に輝くゼリー。
「ぷるぷるしてていい感じ」
「スライムみたいだな。味もスライムっぽいのか?」
「いやいやルイン。これはスライムとは全然違う味わいだよ。スライムはほんのりと甘みがある感じだけど、このゼリーはもっとすっきりさっぱりした味だもん」
「なるほど、わからん。食ってみるのが早いだろう」
「ちょっと待って!」
早速ゼリーにかじりつこうとしたルインをアイラは全力で止めた。もはやルインの口はゼリーの真上に来ており、食べる気満々だった。というかこれ一つで十人前になろうかという巨大ゼリーなのに、ルインは一口で食べようとしている。口の大きさが、人間と段違いすぎた。
出鼻をくじかれたルインは横目でアイラを見つめた。
「なんなのだ?」
「まだ仕上げ残ってるから」
アイラは大きな塊のゼリーに包丁を入れ、十等分に切った。
今この場にいる人数分をお皿に取り分け、のこりは保存箱へ。
そしてセイアお兄様にもらったもう一つの海の甘味、虹色珊瑚を取り出すと、ゼリーの上にチョンと載せる。
「はい、出来上がり。『海の甘味のゼリー』だよ!」
「おぉー」という声は、エマーベルたちのものだ。特にデザートに関してはシェリーの食いつきがとてもいい。
「わぁぁ、とっても綺麗なデザート! 可愛いし美味しそうですぅ……!」
「でしょ? 早速召し上がれ」
一人一皿ずつ手渡して、みんなでデザートタイムだ。
スプーンを手にしてゼリーをすくえば、ふるんっと揺れるゼリー。
パクッと食べると確かな弾力が舌を押し返してくる。そして海の雫の甘さが口の中に広がった。
上に載った虹色珊瑚も食べてみると、パキッと硬い歯ごたえの後にジューシーなシロップが溢れ出てくる。
「んふふ、美味しい〜」
思わず変な笑い声が出てしまった。
海鮮丼の後に食べるのにぴったりな、見た目も味も爽やかなデザートだ。
「本当、美味しいですぅ」
シェリーも頬を抑えて身悶えしている。
「確かにこれは美味しいですね」
「俺、甘いモンそんなに得意じゃないけど、これなら食べられる」
「俺もこのデザートは好きだ。海鮮丼もそうだが、おっさんになると胃にもたれるものはきつくてな」
「ノルディッシュっていくつなの?」
ふと疑問に思ったアイラが尋ねれば、「三十五歳だ」という返事がきた。
「一人だけ年齢離れてるんだね?」
「おぉ。たまたま故郷の冒険者ギルドで出会ってよ。すごい無鉄砲なガキ三人組だと思った記憶があるぜ」
「へー、無鉄砲」
エマーベルは当時を思い出したのか、若干照れくさそうに頬を掻いた。
「当時はまだまだ冒険者になりたてで……危険性とか大変さとかがわかっていなかったんです」
「放っておけば死ぬと思って、パーティ入りしたんだ。能力はあるし、伸び代ばっかりだったから、成長を見守るのは楽しかったぜ。まー最初は全然俺の言うことなんて聞かなかったけどよ」
「ノルディッシュが根気強く僕たちを説得してくれたおかげで今の僕たちがあります」
「でもリーダーはエマーベル君なんだ?」
「俺が後からパーティに参加したっつーのもあるし、今更帰変えんのもな。『リーダーは僕ですからね!』つってこいつが譲らなかったってのもあるけど」
「一度、リーダーの変更を提案したこともあったんですけど、その頃にはノルディッシュが首を縦に振らなくて」
「お前が始めたパーティーなんだから、お前がリーダーをやるべきだろうがよ。それに……エマが一番リーダーに向いてるって俺は思ってるぜ」
「俺もだ」
「私もぉ!」
ノルディッシュの言葉にクルトンもシェリーもすかさず賛成をする。
「そんなわけで、僕がずっとリーダーをやっている次第です」
「なるほどね、それでバベルまできちゃってるんだから、結果出てるじゃん。向いてるんだよ、リーダー」
「いっぱいいっぱいですけどね」
何よりも彼らは仲がいい。チームワークも抜群だ。この数日、彼らがいなければ店の営業など到底できなかっただろう。アイラは料理は作れるが配膳までは手が回らないし、ルインは四つ足歩行なので給仕には絶望的に向いていない。
「もうちょっとの間よろしくね!」
「はい!」
「おお」
「まっかせといてぇ!」
「まかせておけ」
四人の返事を聞きつつ、本日の営業開始に向けてもう一踏ん張りすることにした。
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