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【9/30書籍3巻&コミカライズ発売】もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
ACT7:臨時開店!アイラの料理店

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久々の探索④

 大量の花藻、マッドクラブ、レモラを土産に共同キッチンまで戻ってきた一行。 潜水組は海水でべたべたになってしまったのでシャワーでさっぱりと洗い流し、それからお待ちかねの調理の時間だ。


「食材が増えたから、海鮮丼の具材が増えたね!」


 アイラは持って帰ってきたマッドクラブとレモラをさっそく処理していく。

 マッドクラブはハサミが大きくて、中身がぎっしりと詰まっていた。とても食べ応えがありそうだ。


「セイアお兄様にもらったシーサーペントとキングサーモンも薄切りにして、と」

「あのー、アイラさん。まさかと思うんですけど、火を通さないでそのまま食べるつもりですか」

「そだよー。お刺身だよ。美味しいよ」


 新鮮な魚は生で食べられるとアイラの料理の師匠であるソウは言っていた。


「我々の故郷では、魚の生食はありえませんでした」

「そうなの? 美味しいのに……絶対食べた方がいいよ、人生損してる」


 アイラは力説した。しかしエマーベルたちは、なおも引き気味だ。


「毒に当たったりしませんか?」

「ちゃんと処理すれば大丈夫だって。あたし結構お刺身食べてるけど、どうにかなったことないよ。それに万が一お腹痛くなっても、知り合いの聖職者に治して貰えば大丈夫!」


 アイラはフレイのことを思い浮かべた。彼はアイラのほぼ視力を失った左目も治してくれたことだし、腹痛ごときあっという間に治してくれるに違いない。


「前にルーメンガルドのピエネ湖でキュウリュウウオのお刺身作ったけど、あれも美味しかったなー。この海鮮丼も絶対に美味しいよ。あっ、そうだ、お米とお酢が必要なんだった」

「では、買いに行ってきます」

「米は重いからオレも手伝うぞ」


 エマーベルたちが買い出しに行こうとすると、ルインも自ら名乗りをあげる。

 そこにクルトンとノルディッシュも加わり、買い出しは男性陣がすることになった。


「わたしはお料理の方のお手伝いをしようかなぁ」

「そしたらさっき持って帰ってきた大量の花藻を洗っておいてくれる?」

「はぁい!」


 元気よく返事をしたシェリーに花藻の下処理を任せ、アイラはひたすら刺身作りに没頭した。

 なるべく薄く削ぐことで、舌触りをよく、そして酢飯との相性も良い刺身へと仕上げていく。

 マッドクラブの殻は硬かったが、割ってみるとぎっしり中身が詰まっていて、薄赤い身は見るからに美味しそうだった。氷水にしっかりと漬けて身を引き締める。

 アイラの刺身の準備が終わる頃、シェリーの花藻の準備が終わり、同時に米をどっさり買い込んだ男性陣が帰ってきた。

 アイラは保存用魔導具箱に刺身を入れて保存し、お米を炊く準備にとりかかる。


「丼用のお米はちょっと硬めに炊くのがポイントなんだよね」


 こないだ作った銀獅子の角煮丼もそうだったが、水分を少なめにして炊くと上に載せたおかずとの相性がよくなる。角煮丼の時は角煮の汁をご飯が吸うし、海鮮丼の場合は酢を混ぜ合わせるのでその分の水分を計算に入れる必要があった。

 普通の水の量で炊くと、べちゃっとしてしまう。

 厚手の鍋に米を入れ、水を入れて魔導コンロの上に載せて炊いていく。


「お米を炊いている間に、ゼリーも作っちゃおうっと」

「ゼリーって、どうやって作るんですかぁ?」

「けっこー簡単だから見てて」


 シェリーの疑問にアイラは実演してみせる。こういうのは口で説明するより見せた方が早い。


「まずは、この大量の花藻を刻みまーす」


 アイラはシェリーが丁寧に洗ってくれた山のような花藻を微塵切りにしていった。


「なるべく細かくしないと火にかけた時に溶かしムラができちゃうんだよね」

「へぇぇ。アイラさん、刻むの早いしすごく綺麗に刻みますねぇ」

「いっぱい作ってるからね、もう慣れっこ」


 花藻は海藻なのでぶよぶよしているけど、コツさえ掴めば切るのは簡単だ。

 包丁の刃先を立ててスッと引けば切れる。

 アイラは花藻の微塵切りを大量に作り上げていった。


「そうしたら次に、海の雫を鍋いっぱいに空けまーす」


 鍋の中にセイアお兄様が持ってきてくれた海の雫を注いでいく。あっという間に鍋が海の青色に早変わりだ。


「海の雫がふつふつと茹だってきたら、ここに花藻を投入」


 微塵ぎりにした花藻をぱらぱらと入れていく。どのくらい入れるかは、感覚だ。入れすぎると固くなりすぎるし、少なすぎるとちゃんと固まってくれない。

 かき回して溶かしながら感覚を掴んでいくことが重要だった。


「よし……このくらいかな」


 とろっととろみがついた位で花藻を入れるのを止めて、溶け切ったのを見計らって火を止める。


「これをボウルに移して、粗熱が覚めたら冷やすよ」


 花藻を溶かした海の雫をボウルに注ぎ入れたらキッチンの脇に退けておく。


「よし、ちょうどお米が炊き上がったから、酢飯を作っちゃおう」


 アイラは米にお酢と粗ごし糖とをどばどばと入れた。


「……お米に粗ごし糖を入れるんですか……」


 エマーベルたちが信じられないという顔でアイラを見ている。既視感だ。銀獅子の角煮丼を作った時もこんな顔をされた。


「東国の料理を作る時は、結構砂糖を使うんだよ」

「僕たちからしてみたら信じられない光景ですね」


 確かに、普通砂糖はお菓子で使うものなので驚くのも無理はない。かくいうアイラも初めて見た時にはびっくりしたものだ。


「まかせておいて。すっごく美味しい海鮮丼が出来上がるから」


 酢飯をひたすら切るように混ぜながらアイラは真剣に請け負った。

 大丈夫だ。絶対に美味しいものを作ってみせる。

 アイラの気迫が伝わったのか、エマーベルたちも頷いて静かに見守ってくれていた。

 ほかほかご飯にお酢と粗ごし糖とを入れて混ぜ、丼へと盛り付ける。残りの酢飯には乾燥防ぎの布巾を被せて冷ましておく。


「ここにシーサーペント、キングサーモン、レモラ、マッドクラブの身を盛り付けて、と」


 そして魚醤を回しかければ……。


「できた! 『海の幸たっぷり海鮮丼』!!」


 シーサーペントは薄青、キングサーモンは淡い桃色、レモラは白、マッドクラブは紅色。なんとも色鮮やかな出来栄えの海鮮丼は見ているだけで胃袋を刺激する。

 とても美味しそうだ。

 アイラの声を聞いて耳をピクリと動かしたルインは、パッと目を覚ます。


「できたか!」

「うん、できたよ!」


 アイラとルインはいそいそと海鮮丼を食べる準備をする。

 スプーンを持って、いただきます! とアイラは元気に唱え、どのネタから食べようかなと考える。


「やっぱりセイアお兄様が持ってきてくれたシーサーペントからかな!」


 薄青いシーサーペントの身をスプーンですくって一口でパクリ。

 シーサーペントのお刺身は、ほのかな甘味があるあっさりとした口当たりのものだった。海の雫という甘味を食べる魔物らしいので、身にもその甘さが染み込んでいるのかもしれない。魚醤のしょっぱさとの対比効果で、非常に美味しく感じる。

 次に食べるのは、マッドクラブだ。

 薄紅色の細長いカニの身を口に入れる。

 繊維がほろっと口の中でほぐれ、噛み締めるたびにカニの旨味が存分に味わえた。


「んん! おいひぃ!」


 マッドクラブの身は、見かけの豪快な感じとは裏腹にかなり繊細な味わいだった。先ほどのシーサーペントとは異なる甘味も感じる。

 お次はレモラ。これは以前、共同キッチンで出会った冒険者が塩焼きにしていたが、刺身だとどんな味になるのだろう。

 パクッと食べると、まずコリコリとした歯ごたえが感じられた。味としては一番淡白で、これはこれで魚醤との相性がよくていい。


「最後にキングサーモンっと」


 これを最後に取っておいたのにはわけがある。

 薄桃色のキングサーモンの身は、明らかに他の刺身とは段違いの脂のノリ具合なのだ。こんなに脂がのっているものを食べてしまったら、他の刺身の味がわからなくなってしまう。

 というわけで最後のお楽しみだ。

 アイラは酢飯と一緒にキングサーモンの身をスプーンですくい、パクッと食べた。


「!!」


 とてつもない食感と味だった。

 脂ののったキングサーモンの刺身は、さながらミディアムレアにしたドラゴンステーキほどの旨味がある。とはいえこれはあくまで魚の魔物なので、肉ほどのしつこさはなく、舌に残るのはさっぱりとした余韻だけだ。


「キングサーモン、おいし!」


 間違いなく万人受けする類の味だ。


「うむ、オレもキングサーモンが気に入ったぞ!」


 ルインもこう言いながらムシャムシャと食べている。


「ところでエマーベル君たちは食べないの?」


 アイラは、未だ海鮮丼に手をつけていないエマーベルたちを見て言った。


「そんなに警戒しなくても、お腹壊したりしないから大丈夫だって。ご飯の熱でお刺身がぬるくなっちゃうから早く食べた方がいいよ」

「は、はい」


 とは言いつつも覚悟が決まらない様子のエマーベルたち。状況を打破したのはシェリーだった。


「私、食べてみます!」


 勇ましい表情でどんぶりを掴みスプーンを手にしたシェリーは、シーサーペントと酢飯とをスプーンですくう。エマーベルたちが見守る中。大きく口を開けてパクリと豪快にいった。


「!! お……おいふぃ!」


 ぎゅうっとつむっていた目が見開かれ、驚きに溢れている。


「おいふぃ! あっさりさっぱりしてて、食べやすい!」

「でしょ?」


 シェリーがすごい勢いで海鮮丼を食べているのをみて、他の面々もようやく食事に手を伸ばした。


「シェリーが食べているんだから、僕も……」

「俺もだ」

「最年長の俺がびびってるわけにはいかねえよな」


 おっかなびっくり刺身を口にする三人だったが、すぐに目の色を変え、そして最終的には嬉々として海鮮丼を食べ始める。


「美味しいですね」

「ああ、びっくりだ」

「生の魚がこんなにうまいとは知らなかったぜ」


 三人とももぐもぐと海鮮丼を食べてくれ、アイラとしても嬉しい限りだ。


「絶対気に入ってもらえると思ってたよ」


 海鮮丼は美味しい。魚本来の美味しさが存分に味わえる料理だ。


「唯一欠点があるとすれば、なかなか腹が膨れないところだな……」

「ルインは体が大きいから、お刺身でお腹いっぱいにするの難しいよね。ご飯をたくさん食べて」

「うむ、そうしよう」


 海鮮丼はそんなにたくさん食べるものではないし、ルインのお腹に溜まるほど刺身を食べてしまっては営業で出す分がなくなってしまう。

 代わりにルインにはご飯をたらふく食べてもらうことにした。



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3巻は雪山編!

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