久々の探索③
海の水は冷たくて心地いい。
肌を撫でるような海水に目を細めながらアイラは目当ての海藻を探して深く深く潜っていく。
陽光が差し込んでいる海中は水がキラキラしていて綺麗だ。
素足で水を蹴るようにして進み、目当てのものがないか探す。
すると、さほど深くない岩場にパッと人目を引く一際鮮やかな色の海藻が見えた。
薄桃色の海藻は水の中で花開くかのように広がり、緩やかな水の流れに沿って揺蕩っている。
(あった、花藻!)
簡単に見つかった花藻に近づき引きちぎろうとしたが、結構しっかりと根付いているためひっぱったくらいでは取れなかった。ファントムクリーバーを抜いて、根本からスッパリと切断する。
背後からトントンと肩を叩かれ、シェリーとエマーベルが並んだことに気がつく。二人は小型のナイフを取り出して、アイラ同様花藻を刈り取る作業をしてくれた。
(あ!)
ここでアイラは、岩の影から黒い大きなハサミが伸びてきていることに気がついた。魔物だ。迷わずファントムクリーバーに魔力を流し、氷の刀身に変えると、ハサミが伸びている岩の隙間に向かって差し込む。
(えい!)
硬い殻を突き破るような手応えを感じ引き抜いてみると、くっついてきたのは大きなカニの魔物だった。真っ黒い甲殻が禍々しさを感じるが、すでにコト切れているので危険はない。
このカニ、食べられるんじゃないか。
そう思ったアイラは久々に鑑定魔導具を取り出して鑑定してみる。
【マッドクラブ】
魔力を吸い込みすぎて魔物と化したカニ。見た目の禍々しさとは違い、身はホクホクしていて旨味がたっぷり。殻を剥いたら余すところなく食べられる。
(食べられる!)
食べられる系の魔物のおでました。もっといないかなーと、もはや花藻そっちのけでマッドクラブを探し出すアイラ。岩の影にひそんでいたので、適当にクリーバーを刺してみよう。そうしよう。
(えい!)
氷の刀身を伸ばして突き刺すと、もう一体マッドクラブが獲れた。刺さったマッドクラブを見てみれば、先ほどと同じくらいの大きさのものだった。
(おー、すごいすごい)
まだ獲れないかな? という思いでもう一度クリーバーを突き刺す。
しかしさすがに警戒されたようで、ひっかからなかった。残念に思っていると、またも肩を叩かれた。振り向くとシェリーが自分を指差している。任せてと言っているようなので場所を譲った。
シェリーが短い杖を掲げ、魔法を放つ。ピンク色の風が放たれ、岩陰に吸い込まれる。そして数秒後には、マッドグクラブの一団がガサガサガサガサと岩陰から這い出てきた。
シェリーが指をくるっと上向かせれば、それだけでマッドクラブたちは岩を駆け登り、海上目指して一目散に去って行った。アイラは呆気に取られて見ているだけだ。
(魅了魔法、すご……!)
七大属性魔法の範疇に収まらない魅了魔法。その威力は以前、魅了魔法の生みの親であるシングスに見せてもらったことがあった。精神干渉系の洗脳魔法に近く、対象者を意のままに操るという恐ろしい威力を誇る魔法だが、改めて見ると凄まじさを感じる。
シェリーがピースをしていたのでアイラもピースを返しておいた。
海から上がったマッドクラブはルインたちが捕獲してくれているだろう。
アイラたちは、まじめにせっせと花藻を採取してくれているエマーベルの元へと戻り、自分達も花藻採取にいそしんだ。
三人で両手にどっさりと花藻を抱え、海の上へと戻っていく。
「ぷはっ」
「はぅっ」
「はーっ、獲れた獲れた」
海上に顔を出した三人は、浜辺に花藻を置くと周辺をキョロキョロした。
すぐ近くの岩の上に座り込んで釣り糸を垂らすノルディッシュとエマーベル、それに砂浜で貝の魔物と戯れているルインの姿を発見する。アイラは手を振って大声を出した。
「おーい、花藻の採取おわったよ」
「そちらの進捗はどうですか」
エマーベルに問われ、ノルディッシュとクルトンがバケツを指差す。
「レモラが数匹。釣り糸を垂らすと糸を食ってよじ登ってくるから、釣りより討伐に時間がかかったぜ」
「大物はかからなかったな。マッドクラブの方がよっぽどレアだ。よくもあれだけの数を見つけ出したな」
「アイラさんが巣穴を見つけてくれたんだぁ」
「でも一網打尽にしたのはシェリーの魅了魔法だから、シェリーのお手柄だよ。あたしは串刺しで二匹が精一杯だった」
「えへへ……」
褒められたシェリーが嬉しそうにはにかんでいる。
「何はともあれ、こちらの花藻採取も終わったし、いい時間になったことだし、一回キッチンに戻ってお昼ごはんにしようよ」
ひと泳ぎしたアイラはお腹が空いている。
「ルインはいつまで貝であそんでんの?」
「足先をっ食われてっ離れんのだっ」
ルインは右の前足を掲げた。そこには確かに、大型の貝ががっちりとルインの足を食っている姿がある。
「何の貝だろ……前に見た人喰いアサリよりも大きいけど」
「あれは人喰いハマグリですね。アサリよりも大きくて、アサリよりも凶暴です」
「食べられるかな」
アイラが鑑定してみると、食用可と出てきた。
「ルイン、その貝食べられるよ」
「ぬっ」
貝が離れないかとブンブンと前足を振っていたルインだったが、食べられると聞いてピタリと動きを止めた。がぶがぶと前足を噛んで進んでくるハマグリに火球を浴びせて黒焦げにしてから、中身をムシャムシャ食べ始めた。
「ふむ……結構美味いな」
「バターとか魚醤とか垂らして食べても美味しそうだね」
「よし。次に出てきたらそうやって食べよう」
「残念だけど今日はもう時間切れだから、また今度ね」
「うぬぬ……」
ちょっと名残惜しそうにしつつ、ルインも一緒にバベルへと戻る。
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(1/30昼修正)
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https://comicride.jp/series/1169e5ea878d7
カナイミズキ先生にとても素敵に仕上げていただいてますので、ぜひ読んでみてください。
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https://gcnovels.jp/book/1808
続刊につながりますので、応援よろしくおねがいします!






