久々の探索②
「いいかアイラ。オレは絶対に海には入らないからな。浜辺で貝を仕留めるだけにするからな」
「わかってるって。それでいいってば」
ルインはアイラの後をついて歩きながら、ぶちぶちと念を押してくる。
部屋で起こしてからというもの、ルインはずっとこの調子だ。
「前回は海に叩き落とされたのだ。また同じことが起こってはたまらん」
「前回は船で沖まで行って化け物みたいな魔物と戦ったけど、今回は近くの浅瀬で海藻を取るだけだからそんな危険はないってば」
バベル内を移動しながらアイラはルインに根気強く言い聞かせる。ちなみにこのセリフも、もう十回目だ。
「ルインはクルトン、ノルディッシュと一緒に浜の魔物を討伐してよ」
「うむぅ」
「美味しいやつ期待してるからね」
「ぬぬぅ」
ルインは炎のような尻尾をブンブン振りつつ、渋めの返事をよこしてくる。それでもついてくるので本気で嫌がっているわけではないのだろう。
「……まぁ、いい。そろそろ体を動かしたいと思っていたところだ」
「ずっとこもってたもんね」
「客席の間をウロウロするだけでは体が鈍る。浜辺で適当に魔物を狩るとしよう」
「よろしく!」
アイラたちがバベルの南門へと降りていくと、そこには準備を済ませたエマーベルたちが待っていた。
エマーベルとシェリーは外套を羽織っており、クルトンとノルディッシュは釣り竿をかついでいる。
「お待たせ。じゃ、行こっか」
アイラは幾度目かになるパルマンティア海を目指し、南門をくぐった。
パルマンティア海はバベルから南門を出てすぐの場所に広がっている。
南国を思わせる背の高い木がそこかしこに生え、足元には砂浜が、そしてキラキラと輝く広大な海が目の前に広がっている。
これだけみればバカンスにぴったりな場所のようだが、残念ながらここは女神ユグドラシルの恩恵から最も離れた土地。
木にはヤシの実を食べようと鳥型魔物が群がり、砂浜には人間を食ってやろうと貝型の魔物が潜み、海にはエビやイカに似た魔物が住み着いている。どう考えても、のんびりできるような場所ではない。さすがはバベルに隣接している海だ。
だがアイラにとっては、美味しい海の幸が取り放題食べ放題の楽園みたいな場所だ。海神がいなくなった今、色々な魔物が海に戻ってきているという話だし、これは期待できるだろう。
とりあえず今日の目標は花藻の採取だ。
アイラは浜辺で軽く体を捻ったり屈伸運動をしたりとストレッチをしながら、共に海に潜る仲間に話しかけた。
「エマーベル君、シェリー、準備はどう?」
「はい、大丈夫です」
「私もですっ」
振り向くと二人は外套を脱ぎ捨ててアイラのように準備運動に励んでいた。
シェリーはいつものヒラヒラした服ではなく、水中での抵抗が少ない体にピッタリとフィットした服を身につけていた。エマーベルも然りだ。
「アイラさんはぁ、いつもと同じ格好でいくんですかぁ?」
「うん、靴だけ脱ごうかな」
アイラはブーツをぽいぽいっと脱いで浜辺に転がす。
ノルディッシュ、クルトン、ルインはそんなアイラたちの様子を遠巻きに見つめていた。
「無理はしないようにな」
「斥候の俺は素早さには自信があるから、いざとなったら海に助けに行くぞ」
「オレに助けは期待するなよ、アイラ」
「わかってるって。ルインは安心して浜辺の貝魔物を捕まえておいてよ」
ぐぐーっと最後に伸びをしていると、エマーベルの腕がにゅっと伸びてきた。手には一本のガラス瓶が握られている。
「これが水中で呼吸を可能にする魔法薬です。飲み干せば一時間は潜水可能になります」
一瓶飲んで一時間とは、魔導具に比べてあまり効率がいいとはいえないが、今回はそんなに深くもないところに生えている海藻を取ってくるだけなので一時間あれば十分だ。
「ありがと、エマーベル君」
ぐぐーっと飲み干すと、味は生魚をそのまま丸呑みしたかのような生臭さを感じられるものだった。魔法薬は性能重視で味が美味しくないことが多いが、これはなかなかひどい。ひどいものを散々食べてきたアイラからしてみても、ひどいと思う味だ。エマーベルとシェリーも顔が若干青くなっていた。
「よし……では行きましょうか」
3人で岩場の上に立つと、眼下の海を見下ろした。
波は穏やかで、天候は快晴。絶好の海藻採取日和だ。
アイラはつま先で立って岩場を軽く二、三回ジャンプした後、綺麗なフォームを描いて海面へと飛び込んだ。
1/30書籍2巻発売&ライコミにてコミカライズスタートします。
コミカライズのページにて告知漫画が読めますので、ぜひどうぞ。
カナイミズキ先生による漫画は、料理が美味しそうなのはもちろん、原作の十割増しもふもふ要素が増えています!
【コミカライズはこちらから↓】
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【書籍情報】
https://gcnovels.jp/book/1808






