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【9/30書籍3巻&コミカライズ発売】もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
ACT7:臨時開店!アイラの料理店

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社会科見学②

 オルトはぶすくれていた。

 何も、卵が買えなかったことをそんなに根に持っているわけじゃない。

 おつかいに失敗した自分が恥ずかしいとか、ムキになってモカに子供扱いされたのが悔しいとか、断じてそんなことはない。

 ただ、共同キッチンにみんなで見学にいくと決まった時の周囲の喜びようが理解できなかったのだ。

 みんな、アイラとかいう冒険者だか料理人だかよくわからない人物に騙されてんじゃないのか? と思う。

 だいたい、カラフルベリーもココラータも超貴重な食材だ。

 どちらも入手困難だし、手に入ったとしても大方の冒険者は換金するか自分で食べるかするだろう。

 それを、どうしてオルトたちバベルにいる子供に振る舞うような真似をしたんだ?

 あの時は「いい人がいるんだなぁ」と思ってありがたく食べた。ほっぺたが落ちるんじゃないかと思うくらい、ものすごく美味しかった。ココラータの濃厚な甘さも、カラフルベリーのジューシーな味わいも、きっとオルトは生涯忘れることはないだろう。

 けれど、よくよく考えてみると、あんな貴重なものをくれるなんておかしい。


(もしかしたら……わいろかも! いい人ぶって、酒場を乗っ取るつもりなのかもしれない!)


 そして共同キッチンで店を始めたのは、そのための足がかりなのかもしれない。

 ゆくゆくは父ロッツのポジションに取って代わり、酒場を支配する。だからこそ子供たちにいい顔をしたのだ。


(……なんて悪いやつなんだ!!)


 オルトは自分の妄想を現実のものだと信じ込み、その恐ろしさに背筋を震えさせた。

 みんな騙されている。こいつはいい奴なんかじゃない、と今すぐに叫び出したかったが、グッと堪えた。

 見学してれば、何かボロが出るかもしれない。

 今日この瞬間を無駄にしないようにしなければと、オルトは密かに拳を握りしめ、キッチンの壁際に佇んでアイラの動きを注視することにした。



 店は、盛況だった。

 オルトがいつも働いている酒場ほどではないにせよ、そこそこの人が入っている。

 そして働き手の人数が圧倒的に少ない。

 給仕が三人、指示出しが一人、そして料理人は驚くべきことに、アイラ一人だった。

 この少ない人数でどうやって店を回しているのか。謎は見学しているうちに解けてきた。

 どうやらメニューが一種類しかないらしく、しかもほとんど既に作ってあるらしい。今の調理作業としては肉を焼くくらいのようだった。

 スープとデザートは盛り付けるだけで、メインの肉を焼くだけならば確かに一人でも対応できる。

 そして給仕係もいちいち注文を取る必要がなく、数だけ厨房に伝えればいいのだから楽だ。

 指示役は出来上がった料理をどこに何皿運べばいいのか的確に指示していて、給仕係がそれに従っている。無駄がないなぁと見つめながらオルトは素直に感心した。


「……酒場もメニュー減らせばもうちょっと楽かもね」


「お酒もあるから、あれが重いよな」


 などと、一緒に見学している仲間が喋っている。

 しばらく見ていたが、アイラに不審な点はない。少なくとも今この瞬間は、真面目に仕事に従事しているようだ。


(でも、このくらいのことで、父ちゃんに替われると思うなよ!)


 オルトの父はすごいのだ。

 どんなに忙しくても声を荒げることなく、いつもにこにこおだやかに酒場を切り盛りしている。指示は的確。もちろん料理も上手だ。父の作るオムライスは世界一だとオルトは思っている。

 帰ったら父に、自分の考えを伝えよう。

 乗っ取り作戦をへし折ってやるんだ。

 オルトはモカの肘をつついた。


「……なぁ、そろそろ帰ろうぜ」

「あ、うん。そうだね。……あっ、ちょっと待って」


 オルトたち一行がキッチンを出ようとしたその時。

 場違いなほど存在感と華やかさのある二人組が入ってきて、全員の視線がそちらに吸い寄せられた。


「やっほ、アイラちゃん! さっそく料理食べたくて、来ちゃった」

「もう少し人気が落ち着いた時間帯にしろと言ったんだが……」

「いいじゃん。お腹すいたもん。お兄だってお腹すいてちょっとイライラしてたじゃん」

「していない。シングスの気のせいだ」

「ぜーったいそんなことないって。私がお兄のことで、間違えるわけないじゃん」


 オルトは息を飲んだ。


「……シングス様とイリアス様だ……」とモカが呟く声が聞こえる。


 バベルを統べるフィルムディア一族の二人、シングス様とイリアス様。

 双子である二人はいつも共に行動をし、勇名は子供たちの間にも響いている。

 シングス様は時々酒場に来るが、イリアス様まで見かけるというのはとても珍しい。

 二人は堂々とした足取りで室内を闊歩すると、ちょうど空いていたキッチン前の席に腰を下ろした。


「お店、大盛況だね」

「うん! おかげさまで。二人ともありがとね。食材助かっちゃったよ」

「結局どんな料理にしたんだ?」

「それは……見てからのお楽しみということで!」


 アイラはシングスとイリアスの大物二人を前にしても全く動じず、むしろ仲良さげに喋っている。オルトは信じられなかった。

 驚く周囲に目もくれず、アイラは先ほどまでと同じようにちゃきちゃきとした動きで調理をする。

 肉を取り出し鉄板の上で焼いていく姿は堂に入ったものだった。

 そういえば一体、どんな食材を使ってるんだろう?

 オルトは今まで人の動きにばかり注視していたので、肝心の料理がどんなものなのか全く気にしていなかった。

 しかし、今の会話を聞く限りでは、どうもイリアス様とシングス様の二人が食材を提供しているらしい。

 ならばとてつもなく希少なものが扱われている可能性がある。

 オルトはごくりと生唾を飲み、メニュー名を聞き漏らすまいと全神経を耳に集中させた。

 フィルムディア一族の双子が現れたせいで緊張していた空気も既に緩んでいて、雑談が飛び交い賑わっている。

 その中でオルトの耳には確かにアイラの声が届いた。


「はい、お待たせ! 『フェンネルの香草焼き』と『宵闇の硝子瓜の冷製スープ』と『暁の林檎と風切狼の蜜露草のアップルクランブル』だよ!」

「!?」


 告げられた料理名にオルトの思考が停止した。

 なんて言った??

 宵闇の硝子瓜と暁の林檎、風切狼の蜜露草……?

 フェーレ大渓谷にある三大珍味じゃないか!

 そんな貴重なものが日替わり定食として振る舞われているっていうのか……!


「わぁ、おいしそう!」

「なるほど……上手く料理されてるな」


 シングスとイリアスの二人も感心し、それぞれフォークとナイフを手に料理を口にしている。


「んんっ、このスープ、爽やかな味わいで美味しい」

「フェンネルの肉も香草が効いていて食べやすいな」

「でしょ? 自信作なんだよね」


 アイラはよほど自分に自信があるようで、そんなふうに胸を張っていた。

 隣にいるモカに今度は逆に肘をつつかれ、我に返る。


「行こ。次の子たちがくる時間になっちゃう」

「あ、ああ」


 共同キッチンを出て、グループでどやどやと廊下を歩いた。


「まさかシングス様とイリアス様に会えるなんてびっくりしちゃった」

「かっこよかったね、お二人とも」

「食材、二人が届けたのかな?」


 仲間がそれぞれ今しがた出会った場面の感想を述べていたが、オルトは黙って床を見つめていた。


「オルト? どうしたの?」


 モカに問われてハッとして顔を上げた。

 オレンジ色のおさげをしたモカのまん丸い緑色の瞳と目が合う。

 オルトは少し迷った後、口を開いた。


「あのさ……アイラさんってさ……いい人なのかな。それとも悪いやつ?」

「いい人に決まってるじゃん」


 即答された。


「アイラさんはね、わたしといっしょにカラフルベリーを採りに行ってくれたり、おやつをくれたりしたんだよ。それに、シングス様とイリアス様とも仲良しみたいだったし、あのお二人と仲が良くて悪い人なわけないじゃん」

「そう……だよな」


 フィルムディア一族はバベルに生きる人にとっての憧れの存在だ。

 彼らは全員いばったり偉そうにしたりしないで、バベルという都市のことを一番に考え、行動してくれる。全員が一級冒険者で、何かあれば率先して動いてくれる。全冒険者の憧れの存在だ。

 そんな憧れの存在が協力したくなるような人物がアイラだというのだ。

 なら、アイラは、酒場を乗っ取るような悪い奴じゃないのかもしれない。

 自分の妄想に取り憑かれていたオルトは目が覚めたような気持ちで、頭の上で腕を組んで天井を見上げた。


「あーあ、おれも三大珍味食べてみたいなぁ」

「わたしも!」

「よし、いつかすごい冒険者になって自分たちで採りに行こうぜ」

「それ賛成!」

「がんばるぞー!」


 もやもやした気持ちが吹き飛んだオルトは、仲間たちと共に自分の居場所へと戻っていくのだった。


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【コミカライズはこちらから↓】

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【書籍情報】

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もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ 



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