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【9/30書籍3巻&コミカライズ発売】もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
ACT7:臨時開店!アイラの料理店

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フレイとヘルマンと銀獅子

 翌朝、アイラが共同キッチンに降りてみると、昨日同様先客がいた。


「フレイとヘルマンさんだ。おはよー」

「よう、アイラ……」

「朝からお邪魔してすまんのう」


 フレイとヘルマンは対照的な様子だった。

 ぐったりとテーブルに突っ伏して、見た目もぼろぼろなフレイ。

 顔色が良くツヤツヤとしていて、埃ひとつついていないヘルマン。

 そして前日まではなかった木箱が床の上にうず高く積み上げられている。

 アイラはフレイとヘルマンと木箱とを見つめつつキッチンの中へと入って行った。


「こんな早くからどうしたの?」

「実は、アイラ殿が店を始めたと聞いてのう。祝いの品を持ってきたわけじゃよ」

「いきなり夜中にヘルマンさんに叩き起こされて、ルーメンガルド側からフェーレ山脈を登らされたんだ」

「ほっほ。先の『海神』討伐の一件で、こやつに中々骨があることがわかったからのう。陽動と荷運びに若い者の力を借りたかったのじゃよ」


 銀色の長い顎髭をしごくヘルマンは実に元気そうだ。

 彼は聖騎士という特殊な立場にある聖職者で、荘厳な見た目と威厳に満ちたオーラを纏っているのだが、実質かなりの脳筋だった。アイラにも手合わせを申し込もうとしていたし、二つ名になっている『流星』の魔法は広範囲を殲滅する魔法で威力がえげつない。ぼうっとしていると味方の魔法の餌食になりかねなかった。

 きっとヘルマンは嬉々としてフレイを連れて山を登り、そしてあたりかまわず「流星」の魔法を使ったのだろう。


「フレイってヘルマンさんの『流星』を防げるくらい丈夫な結界魔法使えるんだっけ?」


 これに対し、フレイはテーブルに突っ伏したまま怨嗟の声を上げる。


「無理に決まってるだろ。俺はそもそも治癒魔法の使い手だし、ヘルマンさんの魔法を防げるほど強力な結界魔法なんて使えるわけがない」

「じゃ、どうしたの?」

「そりゃあもちろん、ワシが結界魔法をかけてやったんじゃよ。こやつには陽動を頼んでいた故、敵の真っ只中を走っておったしな。生身のままでは『流星』のいい餌食じゃ」

「そっかぁ。じゃあ、大丈夫だったんだね」

「まあな」


 ぐったりしているフレイだが、まあバベルまで帰ってきたことだし外傷は見当たらないし、問題ない。フレイは心も体も頑丈なので、ちょっとやそっとのことではへこたれないはずだ。


「これが土産の品じゃ」


 ヘルマンはぐったりするフレイに構わず、床の上に積み上がっていた木箱の蓋をぱかりと開けた。

 中には、肉の塊がぎっしりと入っていた。サシの部分がうっすら銀色に光っている。


「きれーなお肉。何のお肉?」

「銀獅子と呼ばれる魔物のものじゃ。フェーレ山脈をルーメンガルド方面から登っていった場所に生息しておる」

「へぇぇ」


 アイラは肉をそっと木箱から取り出してまじまじとみつめた。

 職業柄、アイラはさまざまな魔物の肉を扱ってきたが、これは全く初めて見るタイプのものだった。


「銀獅子は肉同様に毛も角も銀色に発光しておる。それはそれは神秘的な見た目の魔物じゃ。ナワバリ意識が強いので、侵入者が出れば駆逐しようと群れ全体で追いかけ回す。そこを一網打尽じゃよ」

「……魔法耐性が強いから並の攻撃魔法なんか効かないはずなのに、ヘルマンさんはそういう常識を全部無視して『流星』で薙ぎ倒すんだ」

「あー、想像できるかも」


 銀獅子の群れの中に放たれたフレイ。

 必死で逃げるフレイを追いかけ回す銀獅子。

 そして離れたところから『流星』を撃ち込むヘルマン。

 アイラの脳裏に一連の出来事がまるで見てきたかのように浮かび上がる。

 アイラはフレイの肩をポンと叩いてねぎらいの言葉をかけた。


「お疲れ様、フレイ」

「……いや……これも贖罪のうちだ」

「そうだね、美味しい食材のためなら仕方ないね」

「ほっほ。お前さんたち、微妙に会話が噛み合っておらんのう」


 銀色の顎髭を撫でながらヘルマンが楽しそうに言う。


「それでじゃのう、アイラ殿。この銀獅子の肉を使って料理を作って欲しいのじゃが、おいぼれの身に肉の塊はちと堪える。脂っぽいのはごめんじゃ。噛み締めるのも疲れるので勘弁してほしい。胃に優しく食べやすい肉料理を用意して欲しいのじゃよ」


 ヘルマンのこの言葉に、フレイが顔をしかめる。


「ヘルマンさん、探索中に歯がへし折れそうなほど硬い携帯用のパンを平気で食べてたじゃないですか」

「それはそれじゃ。非常時には文句は言っておれんが、ここはバベル。都市内部では好みの料理を食べたいと思わんんか」

「まあ、確かにそうかもしれませんが……」

「というわけでアイラ殿。老体にも優しい肉料理を作ってくれんかの」

「わかった。任せておいて」


 アイラはヘルマンの要望を二つ返事で請け負った。


「あたしがヘルマンさんのために、食べやすくて胃に優しい肉料理を作るから!」

「楽しみにしておるからの」


 満足げににっこり笑ったヘルマンは、フレイを伴い去って行った。



「おはようございます……わっ。なんですかこの木箱の山は」


 フレイとヘルマンがいなくなってさほど時間が経たないうちに今度はエマーベルたちがやって来た。

 エマーベルとシェリーは朝から気合に満ちた顔つきだが、クルトンはまだ眠いらしくあくびをしている。ノルディッシュは相も変わらずの包帯ぐるぐる巻きの顔面のため表情がわからない。

 アイラはひとまず挨拶をしてから木箱の説明をすることにした。


「おっはよ、エマーベル君。これはとある人からの差し入れだよ」

「はぁ……アイラさんは本当に顔が広いですね」

「銀獅子のお肉だって」

「はっ、えっ、銀獅子ですか!?」


 アイラの言葉にエマーベルが本日二度目の驚きを見せた。背後の三人もギョッとした顔をしている。


「うん、そう」

「銀獅子といえば、一級冒険者指定の討伐困難魔物じゃないですか……!」

「そうなんだ?」

「群れでフェーレ山脈を走り雪崩を起こすので、ルーメンガルドを探索する冒険者の天敵なんです」

「へぇー、そうなんだぁ。エマーベル君は魔物に詳しいよね」

「そりゃ、色々な依頼を見ていますから。いつかは僕たちも、一級冒険者の仲間入りが出来るように……!」


 両拳を握ってきらきらした目で彼方を見つめるエマーベル。

 夢や目標があるというのはやる気につながるので何よりだ。

 アイラは冒険者界隈のことは全く詳しくないが、彼らはパーティー仲もよくチームワークも抜群だし、諦めなければきっと一級冒険者にだってなれるだろう。

 明後日の方向を向いて決意にみなぎっているエマーベルの脇をヒョイとすり抜けて、シェリー、クルトン、ノルディッシュが木箱の中身を覗いて来た。


「わぁ、これが銀獅子のお肉ですかぁ。なんだか銀色に光ってますねぇ」

「銀獅子の毛は物理攻撃も魔法耐性も強くてなかなか攻撃が通らないって話だが……」

「この木箱の中、全部銀獅子の肉なのか? すごいな」

「囮を使って群れを引き付けてから魔法で一網打尽にしたって言ってたよ」


 アイラの言葉にクルトンはひきつった顔をする。


「銀獅子の群れの中に囮として突っ込まれるのは、いくら素早さに自信がある俺でも嫌だな」

「結界魔法張ってたらしいし、治癒魔法の達人だし、大丈夫大丈夫!」

「…………」


 クルトンが未だ明後日の方向を向いているエマーベルに近づいて、その肩に腕を回す。


「おい、エマ。一級冒険者になるためには、今俺たちが持っている感覚は捨て去らないといけないみたいだぞ」

「へっ」

「危機を回避する方法を考えたり、安全策を講じたりするより、もっと度胸と腕っぷしが必要になるみたいだ」

「……アイラさんと出会ってから薄々そう感じていましたが……やはりそうですか……」

「一級冒険者への道のりは遠いな……」


 アイラは二人のやり取りに首を傾げ、シェリーとノルディッシュに問いかけた。


「あの二人一体何喋ってるの?」

「……アイラさんはぁ、気にしなくていいと思いますよ」

「そうそう。俺たちとは次元が違うからな……」

「??」


 よくわからないが、気にしなくていいと言われた以上気にしない。

 アイラはエマーベルたちを放っておいて、木箱の方に意識を集中させた。


「よーっし、じゃ、銀獅子のお肉を使った料理を作ろうかな」

「何作るんですかぁ?」

「今回はね、『食べやすくて胃に優しい肉料理』ってリクエストをもらってるんだ」

「へぇ……だが、胃に優しい肉料理なんてあるのか?」

「これが、あるんだよねー、ノルディッシュ君」


 首を捻るノルディッシュに向かってアイラは自信満々に言い放った。


「というわけで早速作っていくよ!」


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