営業時間③
その後ルークもバイジャンもノエルも食事に夢中になり、目を輝かせて料理を頬張っていた。
「んおー、やっぱミノタウロスのステーキは美味いな!」
「チュン!」
「いやいや、俺ぁこっちのテールスープに驚いたぜ」
「スープ美味しくできてるでしょ?」
「あぁ。何にも使えねえ部位だと思ってたがさすがアイラだな!」
「カァカァ!」
ルークとバイジャン、それに従魔のグラシルとバルバトスにも喜んでもらえたようで何よりだ。
一人前しか注文していないノエルはすでにデザートを食べている。
その表情は恍惚としていた。
「それより、このプリンよ! 素材がいいのはもちろんだけど、本当に美味しいわ……! アイラ、プリンだけおかわりちょうだい」
「はいはーい」
保存用魔導具箱で冷やしてあるプリンを取り出してノエルの前に置く。
まだアイラも食べていないので、味がとても気になるところだった。
「くぅぅ、早く食べたいなぁ。ちゃんと自分達の分残しておかないと……!」
ルークたちは尋常ではないくらい食べた。
他の冒険者に比べ顔見知りである分遠慮がないというのも関係しているかもしれない。
食べて食べて騒ぎまくっていたのだが、一級冒険者であり二つ名も持っている彼らがいてくれたおかげか、妙なイチャモンをつける冒険者がいなくなった。
一体何人前食べたのか、底なしの胃袋を持つルークが空っぽの皿を差し出して上機嫌に言う。
「アイラーッおかわりだ!」
「さすがにもう、料理がないよ。他のお客さんもいなくなったし」
「なんだと!? ……しょうがねえな、じゃあ、帰るとするか、グラシル」
「チュン!」
「おぉ……俺たちも帰るかバルバトス」
「カァ」
ルークとバイジャン、従魔のグラシルとバルバトスは尋常じゃないほど膨れ上がった腹を抱えて立ち上がった。
「いやぁ食った食った」
「うまかったぜアイラ」
「私ももう帰るわ。プリン、美味しかったわよ」
なんだかんだずっと二人と一緒にいたノエルもそんな風に言いながら席を立つ。
アイラは三人と従魔二羽に向かって手を振った。
「ありがと! また来てね」
「おう!」
「今度はもっとレアな食材持って来るぜ」
「私も、また来てあげてもいいわよ」
三人はそれぞれのコメントを残し、上機嫌で去っていく。
共同キッチンに客はいなくなり、残ったのはアイラとルイン、それにエマーベルたちだけとなった。
「これで今日は店じまいかな?」
「そうですね。もう十分でしょう」
エマーベルたちはぐったりしているようだった。
店じまいと聞くや、シェリーは椅子に座り込んで大きく伸びをした。
「はぁ……疲れたぁー! もう、腕がパンッパンになっちゃったぁ」
「終わったか」
クルトンも肩をぐるぐると回して凝りをほぐしている。
「探索とはまた違う疲れが溜まるな」
ノルディッシュが包帯の下から息を吐いていた。
慣れないことをして疲労が溜まったのだろう。
ルインもぐったりと身を伏せっている。
「……面倒な役目をしたから、疲れたわい」
アイラは以前ソウの料理店を手伝っていた経験があるから、そこまでの疲労はない。それに、エマーベルたちがテキパキ動いてくれたおかげで料理に集中でき、余計なことを考えないで済んだというのもある。
「みんなお疲れ! みんなのおかげで助かっちゃった。みんなでごはん食べようかー!」
これを聞いた一同は、「待ってました!」「うむ、待っていたぞ!」と声をあげ、途端に目を輝かせる。
メニューは開店前に食べたものと同じミノタウロスのテールスープとステーキ。
それに、開店前には食べられなかった黄金プリンだ。ちゃんと人数分残してある。
「はいどーぞ!」
アイラがテーブルにどどんと出せば、全員がカトラリーを手にして齧り付く。
ステーキを噛み締めたエマーベルが、じんわりと目尻に涙を浮かべた。
「はぁー……労働後の食事はどうしてこんなにも美味しいんでしょうね……!」
「エマの言う通りだ。メシがウメェ!」
クルトンは勢いよくスープをかきこんでいる。ノルディッシュも頷いていた。
「ああ、探索時は大したもんが食べられないが、今はこんなご馳走が食べられるしな!」
「アイラ、おかわりだ!」
勢いよくおかわりを頼んだのはもちろんルインだった。
よほど空腹だったのか、全員がものすごい勢いで食べ、あっという間にお皿が空っぽになる。
「お待ちかねのデザート!」
アイラはプリンの入った器を手に取った。
器はヒンヤリ冷たくて、そして中央に載ったプリンは文字通り黄金色に輝いている。内側から発せられるそのまばゆい輝きは、食べ物であることを忘れ思わず見入ってしまいそうなほどの美しさだった。
それはシェリーも同様のようで、器を手にしてぼーっと見入っているようだった。
「プリン……きれー。こんなにきれいなプリン初めてみましたぁ」
「わかる。このプリン、なんか内側から輝いてるよね」
アイラもシェリーに同意した。
作りたての時点でずいぶん綺麗なプリンだなぁと思っていたけど、こうして冷やしたものを取り出すと美しさもひとしおだった。
「こんなに綺麗なプリンなんだから、さぞかし美味しいに違いない!」
アイラはスプーンを構え、そして思い切りプリンをすくう。
スプーンの上で黄金色のプリンがふるっと震えた。
パクッ。
冷たい食感。
アイラ好みのほろ苦いカラメルの味。
それから何と言っても特筆すべきは、なめらかなプリン本体の甘さだろう。
かための食感になるべくじっくりと蒸し上げたのだが、それが大正解だった。
しっかりとした味が口の中に残る。
天の雌牛のミルクと黄金鶏の卵、それに白結晶砂糖という、アイラがこれまで食べたことのない稀少な材料を使って作ったこのプリンは、筆舌に尽くし難い美味しさだった。
舌の上に残る甘さはくどくなく、もう一口食べたい! と思わせる。
アイラは目を瞑りスプーンを握りしめ、絶品プリンの味を噛み締める。
「……くぅ〜、美味しい……! プリンが甘めだから、ほろ苦いカラメルにして正解だったぁ……!」
「本当においしいですぅ! 私、こんなに美味しいプリン初めて食べましたぁ!」
「だよね。これは女子が好む味!」
パクパク食べるのは勿体無い。
よくよく味わって食べるタイプのデザートだ。
そんなわけでアイラとシェリーはこのデザートを、必要以上の時間をかけて味わった。
賄いの後は片付けだ。
全員で手分けをして皿を洗い、今日使った鍋やフライパンや鉄板を綺麗にし、テーブルや床を拭く。
ルインは雑巾の上に前足をちょんと揃えて乗せ、綺麗に床を拭いてくれた。
磨き上げられたキッチンを見回してアイラは言う。
「よぉし、これで今日の仕事はおしまいかな」
「うむ。早く部屋に帰って寝よう。オレは疲れた」
エマーベルが律儀に礼を述べてきた。
「今日はありがとうございました。アイラさん」
「こっちこそ助かっちゃったよ、ありがとね」
クルトンはもう少し気軽な挨拶を寄越す。
「また明日もよろしく頼むな」
「もちろん!」
ノルディッシュは自身の顔面をさすっている。
「帰ったら包帯替えねぇと……」
「きれいな包帯で来てね!」
「プリン美味しかったです! 明日の賄いも楽しみにしてますぅ!」
「何作ろうか考えておくね!」
「では、我々は一足先に失礼します」
ぞろぞろとキッチンから出ていくエマーベルたち。
「じゃ……あたしたちも寝に帰ろっか」
「うむ」
アイラとルインもキッチンを後にして自室へと戻る。
料理店、探索とはまた違う楽しさがあるなぁとアイラは思ったのだった。
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