特製黄金プリン②
「相変わらずノエルは面白いなぁ」
「……アイラさん、大物の知り合いがたくさんですね……『賢者』ノエルさんとも、やはり『海神』討伐で知り合ったんですか?」
「うん、そう。エマーベル君たちも、よくそんなに冒険者の顔と名前が一致するよね」
「二つ名持ちの一級冒険者は、功績と同時に見た目や特徴なんかも話題になりますから。そうした情報を集めるのも、大切なことです」
「偉いねー。あたしなんか全然だよ」
「アイラさんはどちらかといえば、話題になる方の人物ですからね」
「そっかなぁ」
アイラは己の欲望に忠実に動いているだけで、別に名をあげようとか人々の口の端にのぼろうとかはちっとも思っていない。
ただ確かに『海神』討伐以降、遠巻きに見つめられたりひそひそと噂されたり、あるいは握手を求められたり、好奇心に満ちた視線を送られたりすることもあったため、まあまあ有名になっているのかもしれない。
「まっ、それはそうとして、プリン作ろうっと」
目下の目標はプリン作りだ。
アイラは鍋を用意して、ここにノエルが持ってきた白結晶砂糖なる砂糖をどさどさどさっと豪快に投入した。
普段使っている粗ごし糖と異なり、きめ細やかな砂糖は一目で上等な代物だとわかる。まるで降り積もった新雪のように真っ白だ。こんなに沢山の上等な砂糖を一度に使えるなんて、なんという贅沢なのだろう。
今度採取場所をノエルに聞こうとアイラは心に誓った。
「プリンはまず、カラメルソースから作るよ。鍋に砂糖と水を入れて、焦げ付かないように混ぜまーす」
デザートと聞いて興味を持ったシェリーがキッチンの横でアイラの調理風景を見つめている。
「たかそーなお砂糖……いい匂いがしてきたぁ」
「煮詰めれば煮詰めるほど、カラメルは苦くなっていくんだよ。ちなみにあたしはほろ苦いのが好き。シェリーは?」
「わたしは美味しければなんでもいいかなぁ」
「そしたら今日は、あたし好みのほろ苦カラメルを作るね」
焦げないように細心の注意を払いつつ、気持ち長めに煮詰めていく。
ブクブクと鍋底が泡立って、濃い茶色になったらいい頃合いだ。
全体を大きく混ぜたら、固まる前に器に素早くうつす。
今回は大きな丸い器をプリン用に使うことにした。
器は共同キッチンにある共用のものなので同じものがたくさんあるので助かった。器が違うと火の通り具合も変わってくるので、均一である方が断然調理しやすい。
白い器にカラメルを次々に注ぎ入れれば、これでカラメルソースは完成だ。
「次はプリン液だね」
アイラは、これまたノエルが持ってきてくれた卵を手に取った。
卵の殻が淡く金色に輝いており、このまま飾っておいてもよさそうなものである。
「『黄金鶏』は、ルーメンガルドとゴア砂漠を隔てる銀雪山脈の上の方にいる鶏の魔物で、たどり着くにもすっごい苦労するのに、こんなにたくさん手に入れちゃうなんてぇ……さすがは『賢者』ノエル様」
「ちなみにこの殻だけでもギルドに持っていけばいいお金になるはずですよ」
「そうなんだ、さすがシェリーとエマ君。じゃあ、殻は大事に取っておいて、あとでノエルに返そうっと」
プリン作りに必要なのは卵の中身であって殻ではない。殻は持ってきてくれたノエルにそっくりそのままお返ししよう。
卵の角をキッチンの台にぶつける。殻は、アイラがいつも調理につかっているペイングースのものよりも硬かった。素材になるというのであまり粉々にするわけにもいかない。注意を払いつつどうにかこうにかヒビを入れ、親指をグッと入れて中身をボウルにうつす。
透き通った白身、そして殻同様ほのかに金色に輝く黄身が姿を現した。
「綺麗な黄身!」
「あの……わたしも卵割るの手伝ってもいいかなぁ?」
「ぜひよろしく」
シェリーの申し出をありがたく受け入れ、卵を一つ手渡した。
「これ、結構割るのに力要るかもぉ」
「普通の卵と違って殻にも値打ちがあるんだ、無駄にすんなよ」
「わかってるって、クルトンもやってみなよ」
「おう、まかせておけ」
「なら俺も」
「じゃあ、僕も……」
大量に作るので、作業の手はいくらあっても困らない。
クルトンとノルディッシュ、エマーベルも加わって、五人で卵をひたすら割る。
初めは割るのに苦労した黄金卵だが、やっているうちに慣れてきた。
アイラはいつも通りに片手で卵を割り、石匣の手の四人は慎重に両手を使って割っていく。
それでもやはり殻を無駄にしてはならないという意識からか、ペイングースの卵よりもよほど時間をかけて卵を割った。
全ての卵を割り入れた時には、一仕事終えた心地だった。
「人手があって助かったよ。あたし一人だったらもっと時間かかってた」
「そんなそんな、お安い御用です。次に何かやることはありますか?」
「じゃあ卵と砂糖を泡立て器で溶いてくれる?」
「はい!」
アイラは泡立て器を四本手渡すと、卵を混ぜるのをエマーベルたちに任せる。
「その間にあたしは、ミルクのほうの準備っと」
『天の雌牛』なる牛のミルクだという白い液体を鍋になみなみと注ぎ入れる。
よく使うセンティコアのミルクは黄色みがかっているのだが、これは真っ白だ。
「ちょっと味見してみよ」
スプーンですくって一口、口に含んでみた。
癖がなくさっぱりとしていて、そのまま飲んでも美味しい。料理にもお菓子にも合いそうな味わいだ。
「んー、これは楽しみ……!」
白結晶砂糖も鍋に入れると、弱火で加熱をしていく。
焦げ付かないように細心の注意を払いつつ木ベラでぐるぐるとかき混ぜる。
表面がふつふつとしてきたら頃合いだ。
「よし、いい感じ……! 卵の方はどうかな?」
「あ、はい。こんなものでどうでしょうか」
「どれどれ。おお、いいね。よく混ざってる。ありがと。そしたらこの二つを混ぜていくんだけど、コツがあるんだよね」
このままどばーっと卵液にミルクを注いでしまうと、ミルクの熱で卵が固まってしまう可能性がある。
卵が固まらないようにゆっくりそーっと注ぎ入れるのだが、そのままいれると食感がなめらかなプリンが仕上がらない。
「そんなわけだから、ザルを使って濾しながら注いでいくよー」
アイラは鍋を傾けて、卵液がなみなみ入ったボウルにミルクを少しずつ入れていく。量が量なので右手がちょっとプルプルしたが、ここで負けるわけにはいかなかった。
ドボっと入れたら、せっかくノエルが持ってきてくれた美味しい素材が台無しだ。
「ゆっくり、ゆっくり、っと……」
そうして混ぜ合わせると、とろとろなめらかなプリン液の完成だ。
「よぉし、これをカラメルソースを入れた器に注ぎ入れて、と」
プリンの器を並べて天板にお湯を入れたら、オーブンで焼く。
「今日はあたし好みの、ちょっと固めのプリンに焼き上げるよ」
「どうやるのぉ?」
「低温で長時間じっくりと焼くのがコツ!」
「へぇぇ!」
シェリーに説明しながらオーブンの扉をぱたりと閉じる。
もうこれで、出来上がりまで待つだけだ。
ボニーの作ったオーブンはとても精度が良く、温度も時間もセットしてしまえばあとは待っていれば勝手に出来上がる。
こうして待つこと数十分。
ついに出来上がったプリンは、黄金色に輝く見事なものだった。
「どうやって冷やすのですか?」
「氷魔法で蓋をしちゃおうかなって」
保存用の魔導具でもあればいいのだが、あいにくそこまで大型のものは持ち合わせていない。
ステーキにするミノタウロスの背肉も、氷漬けにして隅に保管してある。
今日中に食べるならばこれで十分だ。
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