宵闇の硝子瓜を探して④
「ここが、渓谷の一番端っこのはずだけど……」
もう時刻が夕方に迫る頃、三人はようやくフェーレ大渓谷の最西端に出た。すぐ横にはギリワディ大森林の縦にも横にも大きな樹木が差し迫っており、日没前だというのに既に薄暗い影を投げかけている。
「『宵闇の硝子瓜』っぽい植物、ないねえ」
「何も生えておらんな」
「本当にここで合ってるのかな……」
三人が周囲を見回すも、植物らしきものは何も見当たらない。切り立った崖は灰色の岩肌を晒すのみで何も生えておらず、川は泉になって溜まっている。こんこんと湧き出る泉は美しいが、青い水面には生き物の気配はなかった。
「まあ、名前からして夜の植物っぽいし、もう日没だからちょっと待ってみようよ」
「そうだな」
「うん」
「じゃあ、夜ごはんと焚き火の準備かな」
アイラは腰に巻いてあるポーチから必要なものを次々に取り出した。
道中で拾った枝や枯葉、途中で現れたので返り討ちにしたロック鳥十羽など。
今日は何を作ろうかなーと考えつつ、野外なのでそこまで凝った料理は作れない。シンプルに串焼きか、昨日の様に丸焼きか、それとも鍋で煮込んでみるか。
火を熾して明かりを確保し、ルインとポアがじゃれているのを眺めながら夜ごはんのメニューについて考える。
「やぁっ、たぁっ」
ソーダスライムを倒したポアは絶好調で、やや興奮しているのか、ルイン相手に特訓をしていた。小さな体でルインに飛びかかるが、ひらりひらりと避けられてしまい、その度に地面にべちゃっと転んでいた。
アイラはロック鳥をさばきながら、そんな二人に声を掛ける。
「がんばってるねー」
「ボクはビャッコ族さいきょうになるんだ! やぁっ」
気合と共にルインに氷のブレスを吐くが、極小の火球に打ち消され、その後突撃するもルインの尻尾の一振りでまたしても河原に叩き落とされる。地面につぶれたポアを見て、ルインが一言。
「動きが直線的すぎる。もっとフェイントを混ぜるんだ」
「うぅっ……よぉーしっ」
「ほどほどにねー」
アイラは捌いたロック鳥を串に刺し、塩を振りながらそう声をかけた。
ルインはポアの特訓に律儀に付き合い、結局二人は串焼きが焼きあがるまで訓練し続けていた。アイラは、じゅうじゅう脂を滴らせる串焼きを手に、少し離れたところで攻防を繰り返す二人に声をかける。
「おーい、串焼き出来たよ」
「むっ、そうか」
「今だ、やぁっ!!」
アイラの声にルインが意識を逸らせた隙を狙い、ポアがルインにブレスを吐いた。ブレスはルインの顔に直撃し、ルインは目を瞑って顔をブンブン左右に振る。ポアはここで満足せず、ルインに突っ込んで体当たりをしかけた。
「とおっ!!」
「うおっ」
ポアのブレスも体当たりも大した威力ではなかったが、それでもルインを二、三歩あとずさりさせることに成功し、ポアは大喜びだった。
「やったぁ!」
「ぬ……不意打ちとはいえ、よくやったな」
顔に張り付いた氷を前足で剥がしつつ、ルインが素直にポアを褒める。
「よし、一撃入れることに成功したんだ。メシにしよう」
「うん、そうする!」
満足したらしいポアが頷き、ルインと一緒にアイラの所まできた。二人が食べやすい様に串から肉を抜き取って盛り付けられている皿を見て、ルインもポアも首を傾げる。
「……なんだ? この肉は」
「どうしてこんなに細かく切ってあるの?」
二人が言う通り、アイラはロック鳥の肉をかなり細切れにしていた。
「今回はね、部位別に焼いてみたんだ」
アイラは指を差しテキパキと説明する。
「これがモモ、これが手羽先、こっちが手羽元、心臓と砂肝、ぼんじり、皮、これはムネ肉となんこつを混ぜて作ったつくねね」
「……わざわざそんなことしなくても、一気に食べた方が楽だし美味しいんじゃないの?」
「ふっふっふ、ポア君。食べてみるとわかるんだよ」
「?」
「いいからほらほら、食べてみて」
アイラに促されるまま、ポアがモモ肉を食べ、その後ムネ肉、手羽先、ぼんじり、皮と次々に口の中に入れる。一度にではなく、一種類を飲み込んでから次の部位を食べるという具合だ。食べるほどにポアが驚いた表情になり、皮を飲み込むと、尊敬の眼差しでアイラを見つめた。
「アイラ、すごいな……! こうバラバラになってると、同じロック鳥の肉なのに色んな味と食感がたのしめる!」
「でしょでしょ? 一羽の鳥なのに、食べる部位によって味も食感も全然違うってすごいよね」
アイラは自分の分の串を取ってつくねにかじりついた。ねっちりした肉団子の中にコリコリとした軟骨の食感が混じっていて、とても面白い。塩を振っただけの簡単な味付けなのに、後を引く味わいだ。
次に皮を手にとってみる。皮だけを剥いで串に刺していくというのは地味だし、ぐにょぐにょしているから串に刺さりにくくて時間がかかるし、割と面倒なのだが、アイラはその手間暇を惜しまなかった。時間をかけてこそ美味しい料理が出来上がるというのを知っているからだ。今回はルインとポアが特訓に夢中で「メシ! メシ!」と言われなかったという事情もあり、じっくりと料理をすることができた。
そうして出来上がった皮の串焼きは、パリパリとしている上に大変ジューシーだった。
「くーっ、このパリパリ具合がたまんない……!」
「アイラ、オレは心臓と砂肝が好きだ。もっとくれ」
「ボクはつくねが好き」
三人は思い思いに好みの串焼きを思う存分堪能した。むっしゃむっしゃとロック鳥十羽分の串焼きを食べ、満腹になった三人は、ふぅと満足した息を吐き出す。ポアなんて、ここが野外で魔物蔓延る地だというのに、腹を上にして仰向けに寝転んでいた。さすがにルインは外ではそこまでのことはしない。大人しく四つん這いになり、しかし心地よさそうに目を瞑っていた。
すっかり夜も更け、漆黒の空には月と星が瞬いている。宵闇の硝子瓜は姿を現すだろうかキョロキョロ周囲を見回すと、川の終着点である泉がボンヤリと光りはじめていた。






