宵闇の硝子瓜を探して③
スライムを討伐すべくアイラが先導し、林の奥へとどんどん進む。
「あ、いたいた」
木立に紛れるようにして、スライムたちが密集しているのを見つける。
ルインは脇に控えるポアに対して、いつもよりも重々しく、いかにも先生のような口ぶりで言った。
「倒してみるがいい」
「わかった」
先ほどワイバーンに無謀にも立ち向かっていった時と違い、全身にやる気をみなぎらせつつも緊張を感じさせる佇まいでポアが草むらから飛び出した。
「ピピッ」
「ピギィ」
ソーダスライムたちは、アイラに出会った時とは違い、逃げなかった。
ポア一人が相手ならば逃げなくてもいいという判断なのだろう。むしろポアを格好の餌だと思ったらしく、臨戦体制を整えていた。
スライムたちは微妙に知恵があるらしく、弓形に陣形を整えると、ポアに向かって一斉に魔法を放った。
初級の水魔法、ウォーターショットだ。
アイラクラスになれば打ち出した水は木の幹すらも貫通する威力になるが、所詮はスライムの繰り出す魔法。そこまでの威力はないらしい。
それでも顔面に複数の水の弾丸の直撃を受けたポアは、もんどり打って倒れる。
「うっ」
「ポア、体勢を立て直せ! 追撃されるぞ!」
ルインの助言を受け、ポアはのそのそと起き上がった。
そうこうしているうちに、四方八方をソーダスライムに囲まれてしまっている。
「し、しまったっ」
慌てるポアにスライムたちの魔法が降り注ぐ。
水の打撃によって、ポアの姿が水飛沫の彼方に見えなくなってしまった。これでは身動きどころか息ができなくなり、窒息死してしまうだろう。
「やばっ。助けに入った方がいいかな?」
「まだだ。ポアの可能性を信じるんだ」
ルインの毛を無駄にもしゃもしゃしながら落ち着きなく見守っていると、ポアの姿が水飛沫を突き破り、出てきた。
「たぁーっ!」
勇ましい雄叫びを上げながら、己を包囲するスライムの一匹に向かって突進し、氷のブレスを吐き出した。
「ピギッ」
ポアの吐き出すブレスは、結構殺傷能力が高い。
少なくともソーダスライムの水魔法よりよほど攻撃力に優れている。
あっという間にソーダスライム一匹が氷漬けになった。
ポアは続いて、隣にいるスライムに体当たりをした。
ポアの体はスライムと大して変わらない大きさなのだが、スライムというのはとにかく弱い。突撃されたスライムは、ボテボテと何度か弾んだ後、木にぶつかって破裂する。破裂したスライムはドロッとした液状になり、しゅわしゅわと気泡が弾けていた。
その後もポアの攻勢が続く。
ブレス、体当たり、噛みつき、引っ掻き。
なんでもありの多彩な攻撃でソーダスライムたちを翻弄し、屠っていった。
見ていたアイラは思わず感心してしまう。
「ポア君、すごいね」
「うむ。戦法はメチャクチャだが、あの勇猛果敢さはすばらしい」
「あそこでルインに止められてなかったら、あたし絶対に手出ししにいってた」
「何を隠そうオレも、アイラの修行中に同じように手を出そうとして、シーカーに何度も止められたんだ。『手を出すのは簡単だけど、それじゃ成長につながらない』と言われてな……本当のピンチになるまでは、見守っているのが大事なんだそうだ」
「なるほど。見極めが難しいねえ」
少しのピンチと本当の命の危機。
その判断は極めて難しい。
しかし今の状況を考えれば、ルインの判断の正しさがわかる。
「さすがルイン先輩」
「よせ」
からかい半分のアイラの言葉に、ルインは短い言葉でそう否定をしたが、満更でもなさそうな顔をしていた。
そんなやりとりをしている間に、周囲が静かになった。
ポアはヨタヨタとした足取りでアイラたちが隠れていた場所に近づいてきて、得意満面に言った。
「ボ、ボク……一人で倒せたよ、やった!」
「よくできたね、よしよし!」
「うむ。怪我はないか?」
「うん、だいじょぶ。ちょっと水鉄砲が痛かったけど、毛で防げたから。ボクたちビャッコ族は水系の魔法攻撃に強いんだ」
ポアがブルブルッと体を振れば、たちまち水飛沫が飛んで毛並みが乾いた。
「打撲も切り傷もなさそうだね」
アイラは一通りポアの状態を確認してほっとする。
それから茂みを出て倒されたスライムの方に近づいていった。
ポアの手によって討伐されたスライムは、半分凍りついていて、もう半分は噛まれたり体当たりされたりで炸裂し中身をそこら中に飛び散らせていた。
アイラは凍ったソーダスライムを持ち上げてしげしげと観察する。
「飲めるって鑑定結果では出たけど、どんな味なんだろ」
内部まで凍っていなければ、まだ飲める可能性がある。
アイラはポーチ型魔導具からマグカップを取り出して、その上でソーダスライムの凍ったボディにナイフを入れた。
プツッと手応えを感じ、中身がコップの中に注がれる。
どうやら中までは凍っていなかったらしい。
「どれどれ……」
アイラはコップに注がれたソーダスライムの液体をぐびっと飲んでみた。
「あっ、なんかシュワシュワしてる」
ソーダスライムは口当たりに刺激を感じる、不思議な味の飲み物だった。
甘みは全くなく、しゅわしゅわとした水を飲んでいるようだった。
不思議だけど嫌ではない。むしろ、ちょっとクセになる舌触りだ。
アイラがソーダスライムを味わっていると、両脇からにゅっとルインとポアの顔が生えてきた。髭が頬にかかってくすぐったい。
「アイラ、オレも飲みたい」
「ボクも! ボクも!」
「はいはい」
アイラはまだ氷漬けになっているソーダスライムを拾い、ルインたちのために深皿をポーチから取り出し、そこに液体を流し込む。
「む、なんだこれは。なんだか妙な飲み口だな」
「パチパチする!」
ルインはあまり気に入ってなさそうだが、ポアは面白がってガブガブ飲んでいた。
「おかわり!」
「オレのも飲んでいいぞ」
「ほんと!? ルイン先輩、ありがとう!」
ルインが前足で自分の皿をポアの方へと押しやると、ポアは嬉々として飲み干してしまった。
「味がついていない水に刺激があるのがどうにも好かん」
「なんかルインも美味しく飲めるように工夫したいね」
アイラは料理人なので、こういう時、どうやったら苦手な素材を美味しく飲み食いできるのかついつい考えてしまう。
「味がついてればいいのかな」
「そうだな。この刺激に見合うような、パンチのある味わいが欲しい」
「飲み口が爽やかになるように調整して、甘くしてみるのがいいかな……とりあえず中身を瓶に詰めて持っていこうっと」
ポーチから携帯用の瓶を取り出し、そこにソーダスライムの中身を注いで栓をする。
「これでよしっと」
「少し休憩したら先に進むか」
「そだね」
「わかった」
三人はその場でしばしの休息を取ってから、目的地である最西端に向かうことにした。






