さらなる食材の飛来
フェーレ大渓谷は他のバベル周辺の土地と違わず、独特な土地だった。
出てくる魔物はワイバーンだけでなく、木の間から、あるいは川からも頻繁に魔物が襲いかかってきた。とはいえアイラとルインの二人にかかれば、大体の魔物は雑魚だ。何なく魔物をいなし、かわす。
そしてフェーレ大渓谷には、アイラもルインも見たことのない魔物がたくさんいた。
川のほとりでアイラは細長い草が二足歩行しているような魔物を見つけたので、鑑定魔導具を装着した。
【シブレット】
ハーブ系魔物。すぐに隠れて見つけにくい繊細な魔物。見つかると気絶して死んだふりをする。食べると魔法効果でちょっとだけ姿が他の人からみつかりにくくなる。
「ねー、見て見てルイン。ハーブ系魔物!」
「おぉ、ハーブ系魔物か」
「捕まえて今夜のごはんに使おう」
「うむ」
アイラとルインが近づくと、ひょろひょろと細い草の様な魔物はすぐにその場にバターンと倒れて動かなくなった。アイラが持ち上げると、風に吹かれてその体が頼りなげにぶらぶらと揺れた。
「死んだふりかな?」
「死んだふりだな」
「じゃあ、このまま回収していこう」
「うむ」
ハーブがあると肉も魚も臭みが取れるので、探索中は特に重宝するのだ。
そんな風に宵闇の硝子瓜があると思われる渓谷の西端を目指して歩きながらいい感じの食材を採取しつつ、丸一日を過ごした。
夕暮れ時、ポアの足取りがおぼつかなくなってきたのに気づいたアイラはピタリと足を止めた。
「そろそろ休憩しよっか」
「そうだな」
「えっ、さっきも休憩しただろ。ボクはまだまだ、ぜんぜん平気だぞ。ほらっ、ほらっ!」
ポアは自分の元気アピールのために、その場でぴょんぴょんと跳ねて見せる。
しかし、アイラもルインも首を横に振った。
「そろそろ日が暮れるし、この辺で野営しよ。夜はどんな魔物が出るかよくわかんないから下手に動くと危ないし」
「でも……」
「アイラの言うとおりだぞ。夜は大人しくしていた方がいい」
「…………」
「ほらっ、おあつらえむきに食料が飛んできたし!」
不服そうな顔をするポアに向かって、アイラはあえて明るい声を出して空を指差した。
そこには、白い巨鳥がバッサバッサと飛び回っていた。
体長は一メートルを少し超えたくらいで、子供の身長ほどの大きさだ。
パルモ高地にいた雷鳥に比べたら小さいが、それでも十分大きい。
鳥は「ジシャアアア」と怪音を発しながら急降下してきて、その鋭い鉤爪でアイラたちを屠らんと急襲を仕掛けてきた。非常に攻撃的な鳥を前に、ポアが「うああああっ、食べられるうううっ」と半泣きになりながら情けない声を出している。アイラは殺意高めの鳥に怯むことなく、ひとまず首から常時ぶら下げている鑑定魔導具を使用した。
【ロック鳥】
非常に獰猛な鳥系魔物。基本的に巣の近くからあまり離れない。肉だけでなく、ロック鳥の産む卵は大変美味。
「卵が美味しいって!」
「なら、仕留めた後で巣も探すか」
ルインが軽くそう言うと、頬をプクッと膨らませて火球を吐き出した。連続して吐き出された火球がロック鳥に全て直撃し、ロック鳥は反撃も防御も回避もできないままに黒焦げになって地面に落ちてくる。
「楽勝だね」
「肉が少し焦げたかもしれん」
「このくらいなら、全然平気だよ。巣も探そうか」
「あっちの方から飛んできたな」
ルインは崖上の西の方角を見つめた。切り立った崖はほぼ垂直で、人間が登るにはなかなか骨が折れそうだ。
「オレに乗ってけ。お前もだ」
「ありがと」
「う、うん」
アイラとポアがルインの背中に跨ると、ルインは軽く跳躍し、わずかに突き出た岩を足場にひょいひょいと上に登っていく。
「ここだな」
「あっという間! さすが!」
木の枝を寄せ集めて作った巣には、ひと抱えはある大きな卵が二つ、収まっていた。割らない様に慎重に持ち上げて、ルペナ袋の中に入れ、腰のポーチに収納。いままでならばルインの鞍につけていたのだが、先日竜商隊から買ったポーチ型魔導具のおかげでルインの荷物が減っている。
おかげさまでルインの機動力が上がったので、とてもいい買い物だったなぁとアイラは満足だった。
「よし、じゃあ、降りるぞ」
「うん」
アイラが再びルインの背中に跨ると、ルインはあっという間に岩場を降りて元いた場所へと戻って行った。
野営地に選んだのは河原だ。
フェーレ大渓谷は複雑な地形で、崖の高低差も激しい。今アイラたちがいるのは、崖が低くてルインの足なら軽くひとっ飛びで川まで辿り着けてしまう、そんな場所だった。
すでに日は暮れつつあり、西日で川がオレンジ色に染まりつつある。
「じゃ、真っ暗になる前に夜ごはんの時間だね! ルイン、ポア、そのへんで枝とか拾ってきてくれる?」
「うむ」
「わ、わかった」
ルインはポアに「はぐれずに着いてこいよ」と言って、再び崖を登った。わずかな足場を頼りにひらりひらりと器用に登るルインに対して、ポアの足取りは危なっかしい。まだ足が短く頭がやや大きいせいで、バランスが取りづらいのだろう。なんとか上に登ったポアを連れて、ルインが森に入っていく。さほど遠くにはいかないだろうし、ルインがいれば大抵の魔物は倒せるので心配は不要だ。
「さて、あたしは料理料理っと」
二匹を見送ったアイラは手に入ったばかりのロック鳥とその卵を使って夕食を作る。






