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【9/30書籍3巻&コミカライズ発売】もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
ACT5:ギル草原とフェーレ大渓谷

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ワイバーンの焼肉

「さ、朝ごはん朝ごはん」

「ちょうどいい運動になったな」


 さっさとワイバーンの解体処理を始めるアイラと、周囲を警戒するルイン。それを少し離れたところで呆然と見ていたポアは、はっと気がついて二人に駆け寄った。


「お、お前たち、すごいんだな!」

「え?」

「ん?」


 アイラとルインが振り向いてみれば、ポアの目が輝いている。まさに「尊敬の眼差し」という目で見上げていた。


「こんなに強いなんて……! これなら風切狼もあっという間に倒せるぞ! すごいすごい!!」


 ポアはぴょんぴょん跳ね回りながら一人で喜んでいる。

 単純なアイラとルインは、褒められると良い気分になる。顔を見合わせ笑った後、胸を叩いて請け負った。


「あたしたちがいれば、どんな食材だって確実に手に入るからね」

「そうだそうだ。オレたちに任せておけ」

「じゃあ、ひとまずは朝ごはんだね」

「朝から肉がたらふく食えるな」


 上機嫌なアイラはワイバーンの鱗を削ぎ皮を剥ぎ、テキパキと解体して可食部分を取り出す。


「アイラ、火がついたぞ」

「ありがと」


 見ればルインは慣れた様子で火を熾してくれていた。


「朝メシは何を作るんだ?」

「焼肉!」

「焼肉! それはいいな」

「ヤキニク? なんだそれは?」 


 人間界の料理を全く知らないであろうポアのために、アイラは説明をする。


「焼肉っていうのはね、文字通りお肉を焼いて食べる料理のことだよ」

「肉を……焼く? どうしてだ? そのまま食べても美味しいじゃないか」

「人間は生肉を食べるとお腹壊したり、最悪死んじゃったりするから、火を通して食べるんだよ。それとね、ポア君。もう一つ大事なことがあるの」


 アイラは両方の瞳でポアを見つめ、至極真剣な表情を作る。


「だ、大事なこと……? 一体それは何だ?」

「それはね……」

「それは……?」

「……お肉は焼いて味付けをすると、すっごく美味しくなるんだ! 見て、これ!」


 アイラはポーチから一本の瓶を取り出した。

 ガラス瓶の中には、茶色いどろりとした液体がなみなみと入っている。


「これは今回の探索のためにわざわざ作った、あたし特製ソースだよ。材料は、魚醤をベースに、すりおろしたニンニク、生姜、木の実、隠し味に赤いカラフルベリーを加えてぐつぐつ煮込んだの。探索って言ったらお肉がつきものでしょ? より美味しく食べられるようにソースを持参したよ」


 きっちりと保存処理をして作ったソースは一ヶ月くらいならば余裕で保つ。

 今回の探索は長期戦になりそうだったので、あらかじめたっぷりとソースを仕込んできていたという寸法だ。


「焼肉はお肉がなるべく薄いほうがソースが絡むから、このワイバーンのお肉は薄切りにするよ」


 塊の肉をスライスし、薄切りの肉を量産していく。


「!? せ、せっかくの肉を……そんなペラペラにしちゃうのか!?」


 人間の料理を見たことがないポアは、衝撃に打ち震えていた。


「まあまあ。アイラに任せて見ていろ」


 一方、何が起こるかわかっているルインは余裕の態度だ。


「そうしたらこの薄切りにしたお肉を、金網の上で焼いていきまーす」


 アイラはポーチの中から金網を取り出して、即席かまどの上に設置する。


「ものすごく小さい入れ物から、なんだか大きいものが出てきた……!?」

「ポーチ型魔導具だよ」

「マドウグ!?」 

「魔石を加工して作る、便利な道具のこと」

「はぁ……人間ってすごいんだな」


 感心するポアの前で、アイラは金網の上にせっせと肉を並べていく。

 薄切りにされた肉は、かまどの炎の力ですぐさま焼けていった。

 アイラは焦げ付かないようにトングを使ってせっせと肉をひっくり返して行った。ひっくり返すそばから焼けていくので、お皿にひょいひょい載せていく。

 山盛りの肉の頭頂部にソースをかければ、完成だ。


「はい、どーぞ。『ワイバーンの焼肉』だよ!」

「待っていた!」という声と共に肉の山に齧り付くルイン。


 ポアは昨日の夕食どきと同じく、果たしてこれは食べていいものなのかどうか、という顔で戸惑っているようだった。


「この茶色いソース……本当に大丈夫なのか? 毒だったりしないのか? 肉も、腐ったような色になってるし……匂いは美味しそうだけど……でも……」


 アイラはまだ肉を焼きながら、ポアに声をかける。


「騙されたと思って一口食べてみなって。未だかつて味わったことのない美味がポア君を待ってるよ!」

「うむ。お前の人生が様変わりするような体験ができるぞ」

「そ、そこまで言うなら……」


 おそるおそる、といった様子で、ポアがソースを舌でペロリと舐めてみる。


「! な……なんだこれ。甘くてしょっぱくて濃い味がする……!」


 全身の毛を逆立て、初めて食べたソースへの驚きをあらわにする。


「ふ、不思議だけど……嫌な味じゃないな」


 もう一口ペロリとソースを舐めたポアが、今度は思い切って肉に齧り付いた。


「わ……美味しい!?」 


 まさに「びっくり仰天」というような顔だった。

 そこからは止まらなかった。

 ポアは目を輝かせながら、ガツガツとワイバーンの焼肉を食べる。

 肉を焼き終わったアイラも、自分の分の肉を食べた。

 予想どおり、ワイバーンの肉は薄切りにしても噛みごたえがあり、しっかりとした弾力が歯を押し返してくる。この硬さに負けずに噛み締め続けると、肉の旨味が感じられる。

 今回はアイラ特製のソースも相まって、噛み締めるたびに滋味が溢れてきた。


「くぅぅ……丸一日、共同キッチンの一角を占領してソースを作った甲斐があったぁ〜!」


 もはやアイラがキッチンにいるのは見慣れた光景になっているらしく、冒険者たちは邪険にするどころか面白がってアイラが作る料理を眺めてくる。

 レシピを聞かれれば教えるのだが、アイラが作るのは一手間かかっているものが多く、大体の冒険者に「そんなに面倒な料理するの、無理だわ」と言われてしまっていた。

「金払うから食わせてくれ」という要望も多いので、共同キッチンはアイラによる食堂みたいになる時もある。このソースを作った時もそうだった。


「あ……もう食べきっちゃった……」 


 一心不乱に焼肉を食べていたポアが、とても寂しそうな声を出す。


「ふっふーん。実はワイバーンにはもう一つ、美味しい食べ方があるんだよ」


 しゅんとするポアに向かってそう言うと、アイラはあらかじめ食べやすい大きさに切っておいた翼の部分を手に、もう一度火に向かった。

 金網の上にワイバーンの翼を載せ、両面共にさっと炙る。

 焦げ目がつくくらいになったらトングで挟み、ルインとポアの皿に載せてあげた。


「どうぞ、食べてみて」


 熱さに強いルインがすかさず齧った。


「うむ、やはりワイバーンの翼を炙るとパリパリになって美味いな」

「だよね。ワイバーンの翼の炙りは、やみつきになる味だよね」


 何度かこの料理を食べたことのあるルインは、慣れた様子で咀嚼していた。

 ルインはふーふー息を吹きかけてさました後、歯に挟んでもぐもぐとしていた。


「! なんだこれ……口の中でパリッパリッて音がして、面白い!」

「でしょ? あたしオススメのワイバーンの翼の食べ方だよ」

「これはいいな。うん。次々に食べたくなる!」


 三人は、一心不乱にワイバーンの翼の炙りを貪った。

 翼は結構な量があったのだが、体の大きいルインと大食いのアイラ、そして育ち盛りのポアの三人にかかればあっという間に終わってしまう。

 ポアは満腹でぽこりと膨らんだお腹を前足で撫で摩り、至福の表情を浮かべていた。


「美味しかったなぁ……! ニンゲンって、こんな美味しいものを作れるんだな」

「すごいでしょ」

「うん。すごい!」


 素直に賞賛し、尊敬の眼差しを向けてくるポアにアイラは気分がよくなった。


「まだまだこんなもんじゃないからね! 一緒に探索する間。もっともっといろんな美味しいものを作ってあげるから」


 つい今しがたたらふく朝食を食べたというのに、ポアは生唾を飲み込んだ。


「た、楽しみにしてるからな!」

「うん、楽しみにしてて」


 作ったものを美味しいといってもらえるのは料理人冥利に尽きる。

 アイラが満面の笑みを浮かべると、ポアも嬉しそうな顔をしてくれた。


「さてと」


 豪勢な朝食を終えたアイラは、地図を広げてフェーレ大渓谷の地形を確認していた。渓谷は長大で、普通に探索していたらひと月くらいはかかるだろう。


「ねえ、ポア君。『暁の林檎』と『宵闇の硝子瓜』、ほんとにどこにあるのか知らない? 大人からなんか聞いたり、一緒に採取について行ったことはないの?」

「んー」


 ポアは背中から生えている小さな白い翼をパタパタさせてしきりに考え出した。


「……そういえば……ジジ様が言ってたけど……『暁の林檎』は最も早起きな場所に生えていて、逆に『宵闇の硝子瓜』は太陽が一番早く眠る場所にあるって」

「どういう意味だ?」

「さぁ……ボクにはさっぱり」


 ルインとポアは首をひねっていたが、アイラには意味するところがはっきりとわかった。


「なるほど。謎は全て解けた」

「なに!? もうわかったのか!?」

「お、教えて!」


 アイラは二匹の神獣に勿体ぶって頷いてから、しゃがみこんで地面に地図を広げ、全員が見えやすい様にした。


「最も早起きな場所っていうのはつまり、日の出が早い最東端。太陽が一番早く眠る場所はその反対で、日没が早い最西端ってことだよ。つまりこことここ」


 アイラは指でフェーレ大渓谷の東と西をそれぞれぐるりと指で囲んだ。

 二匹の神獣は、これでもかと目を見開き、感銘を受けた様子だった。


「なるほど……そうか!」

「アイラはすごいんだな!」

「そうなの。あたしってすごいんだよ」


 アイラは褒め言葉に胸を張ってそう返すと、びしっと西の方角を指差した。


「こっからだったら西の方が近いから、まずは『宵闇の硝子瓜』から探してみよ!」

「うむ」

「うん!」


 異論がなかったので、アイラたち一行はフェーレ大渓谷の最西端を目指して探索を始めることにした。


朝から焼肉を食べるアイラは胃袋が強者

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― 新着の感想 ―
[気になる点] すみません。気になって仕方ないのですが誰も指摘してないので無粋かもですが、『日の出が早い最東端。太陽が一番早く眠る場所はその反対で、日没が早い最西端』について。 太陽がもし、東から登…
[良い点] いつも楽しく読んでます! 焼肉のタレ登場! 有名な『黄金』のあれかな(笑) 今ではいろんなメーカーから出てて、野菜炒めとかにも使ったりしてますね〜 [一言] ワイバーンと違うけど…
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