ビャッコ族のポア①
ギル大草原での滞在手続きを済ませて戻って来たアイラは、ルインの隣に見知らぬ獣がいたので驚いた。
聞けば、神族の末裔であるビャッコ族だという。
なるほど確かにただの魔物とは違い、喋る。あらゆる魔物避け対策がされている探索拠点に苦もなく入ってこれたのは、魔物ではないからという何よりの証左だ。
アイラは、猫とも犬とも狐ともつかないこのちいさな神獣をまじまじと見つめた。
「かわいいねー。何の動物だろ?」
神獣ポアは白い毛がふわふわな胸を張った。
「ビャッコだ。白い、虎」
「へー、虎。初めて見たよ。なんでこんなとこにいんの? 迷子?」
「まいごじゃない! 聞いておどろけ……ボクは今、一人前になるための修行をしているんだ」
「あ、そうなんだ。ちなみにどんな修行なの?」
アイラは好奇心からそう尋ねてみた。ルインはあまり興味がないらしく、前足に頭を乗せて目を閉じてしまっている。ポアは人に対しての恐れや警戒心などが全くないらしく、アイラの問いかけにすらすらと答えた。
「ボクたちビャッコ族は、自分達の食料を自分達で調達できてこそ一人前とみとめられる……だからボクは、『風切狼の蜜露草』『暁の林檎』『宵闇の硝子瓜』を探しに来たんだ」
ルインの耳がピクリと動く。
「え……それって、あたしたちの目的と一緒じゃん」
アイラの言葉に、ポアはまんまるな瞳をさらに大きく見開いて丸くしながら驚いた。
「なにっ。まさか……お前たちもビャッコ族だったのか!? 変化の魔法か!?」
「そんなわけないじゃん」
「う……そ、そうか」
ポアは四つ足を揃えてちんまり座り込み、尻尾を体に巻きつけてから、めいいっぱい首を伸ばしてアイラを見つめた。
「それなら、ちょうどいい。……食材探し、手伝ってもらえないか?」
「え……たった今、一人で食材を探す修行中って言ってなかった?」
アイラの指摘にポアは耳をうなだれさせる。さっきまでの威勢の良さは何処へやら、首を丸めて草むらに視線を落とし、哀愁漂う姿でぽつりと言った。
「……そうなんだけど……難しすぎて、さっぱり見つからないんだ。フェーレ大渓谷は地形も複雑だし、魔物も強いし、怖いし……」
ポアはここで言葉を切って、アイラにすがる様な視線を送った。
「お願いだ! ボクも一緒に連れて行ってくれないか!? ボク、もう十日も探してるんだけど、見つからなくて、さみしいし心細いしお腹も空いたしで死にそうなんだ」
ポアは後ろ足を投げ出してぬいぐるみのような座り方をすると、前足で自分のお腹を押さえた。そこからは確かに、きゅるきゅるきゅる……と可愛らしい音が鳴っている。
アイラは幼少期の体験から、空腹の子供に弱い。子供というのはお腹いっぱい食べて大きく育つべしと考えている。なのでひとまず、こう提案をした。
「あたしたちこれからごはんにしようと思ってたんだけど……一緒に食べる?」
「い、いいのか?」
「いいよ。いっぱい食料あるし」
バベルから持って来ていたソーセージとパンが沢山残っている。そろそろ食べてしまわないとダメになる頃だし、ここらでパーっと食べてしまおう。明日からはフェーレ大渓谷で探索を始める予定だし、そうすれば新たな食料が手に入る。万が一収穫が何もなかった場合、この探索拠点には何と食事処が存在しているのでそこで食べるという手もあった。つまり今現在のアイラは、食材をケチる理由がない。
「パーっと食べよう!」
ポアは幼い顔を輝かせた。
「ありがとう……お前、いい奴だな!」
「よく言われる!」
アイラは未だ目を瞑ったままのルインと、ビャッコ族のポアなる神獣、そして他でもない自分のために食事の準備をすることにした。
 






